此処は幻影旅団のアジトの広場。
とクロロ、そして以外は皆仕事に出かけている。

先ほどまで外出していたは、両手に大きなビニール袋をぶら下げて帰ってきて。

に飛びつき、何かをもらっている様子だった。
が、クロロは先日盗んだ古書を読むことに夢中で、それには気付いていなかった。



「……なぁ、何食ってるんだ?」

ちゃんからもらったプリン」


そして2時間程して本を読み終えたクロロは、漸くが食べている物に気がついた。
の間に散らばる菓子袋の残骸。
これ程食べているのだから、多少なり匂いはしたはずなのだが
クロロは読書を始めると周りの事が見えなくなる悪い癖がある為気付いてはいなかったようだ。


「……オレのは」

「ない」


普段はあれだけ威厳のある表情をしているクロロだったが
今ここにいるのはの二人のみ。
しかも二人とも自分の素を知っているので、隠す必要等はないわけで。

あの幻影旅団の団長が実は超のつく程の甘党だった

とは、俄かには信じがたい事ではある。


「お前ら自分らのしか買ってこないのか?!」

「だってクロロに頼まれてないしー」

「ねー」


が、今目の前にいるクロロは、が食べているプリンアラモードを心底うらやましそうな目で見ている訳で。
頼まれてないしー、とが言えば、はプリンを口に運びながら小首を傾げて笑顔で返す。
はまだしも、は一応クロロの恋人である。
これが恋人に対する仕打ちか?とクロロは溜息を吐いた。


「オレが甘党なの二人とも知ってるだろ」

「うん、知ってるね」

「でもね、クロロが本に夢中なのがいけないのよ。
 ちゃん、ちゃんと聞いたのよ?
 買出し行くけど何かいる?って。
 でもクロロ、本に夢中で気付かないんだもの」

「そうそう。クロロの悪い癖だよねー」

「ねー」

「……」


確かに、本を読み始めると周りが見えなくなる事の自覚はあった。
以前はそれでともめた挙句、破局の危機にまで発展したのだ。


「この前だってさぁ、もうすぐ誕生日なんだって言ったの、本に夢中で気付かないんだもの。
 それで当日、私すごく楽しみにしてたのよ?それなのにさぁ……」

「あぁアレは酷かったよね、彼氏失格だよあれはマジで」

「でしょぉ?ちゃんはちゃぁーんとフェイタンに祝ってもらってたもんね。
 しかもダイヤの指輪まで貰ってさぁ……」

「まぁ盗って来たモンだから値段もクソもないけどね。」


照れたように苦笑いするの左薬指には、高そうなダイヤの指輪が光っていた。
の誕生日前日に盗まれたそれは、それはもう盛大に世間を騒がせたシロモノなのだ。

何せ、時価にして数億とも言われる、合計200カラット程のブルーダイヤが使われた指輪である。

(輪に無数のダイヤが散りばめられ、台座には40カラットのブルーダイヤが鎮座している
スターダストと呼ばれるそれはおよそ500年程前に作られた物で、宝石展の目玉商品だったのだ。)



「でもくれるだけマシじゃない、私なんて気付いてももらえなかったんだから」

「ねー。クロロってそういうとこしっかりしてそうで抜けてんのよね」

「ほんっと。本気であっちに帰りたくなったわ、あの時は」


言い合う二人に、クロロは針の筵である。
ただ気まずそうに黙るばかりの彼には、最早幻影旅団団長としての威厳など欠片もなかった。


「でも結局あの後盛大に祝ってやっただろ」

「気付いてなかったのが問題なんだよ」

「うんうん」


乙女心は複雑なのよー、とおちゃらけて言うに、クロロはまたも溜息を吐いた。
そんなもん判るか、と毒を吐きたい気分だった。

何せ今まで女性と付き合うと言う事などなかったのだから、まぁ一理ある。

欲求不満になれば女を買えばいいし、一晩だけの女であれば街で拾えた。
本気で惚れて、傍にいてほしいと思えたのはが始めてなんだ。

だが目の前の二人にこんな事を言えば、それこそ命の危機である。
は本気で殺しにかかってくるだろうし、できっと治療なんてしてくれないだろうから。


「……あれは本当に悪かったと思っている」

「だって、

「うん、まぁ判ってるよ、クロロ」


この二人がタッグを組めば到底彼には勝ち目はない。
戦闘の面で言えばまだクロロの方が上なのだが、の治癒能力が絡んでくるとそれは逆転するのだ。
何せダメージを与える傍から回復されてしまうのだから。

それが安易に想像出来るからか、それとも単にの能力が怖いからなのか。
旅団員は絶対にだけは怒らせる事はしなかった。

最早暗黙のルールなのである。


「………まぁ、クロロいじめはこのへんにしとこ」

「うん。ごめんねクロロ、実はクロロのもあるんだ」


「お前ら………」


はぁ、と力いっぱいクロロは脱力する。


「はい、クロロの」


そう言いながらが差し出したのは、この界隈では有名な超高級洋菓子店のものだった。
クロロはそれを見て目を見開いた。


、これ」

「いつも世話になってるし迷惑かけてっから私からお礼のつもりさー」


遠慮せんと食え食え、とは手をひらひらと振る。
クロロは少しばかりためらっていたが、の間に座りプリンを口に運び始めた。


「どーよ、美味くない?」

「……あぁ、美味いな」

「でしょぉー?!」


「さすが、一個5000ジェニーもするだけあるよねー」


「……そんなにするのか」

「うん、何でも世界最高の材料から作ったんだって。」

「でね、一日限定5個だけなんだよ」

「へぇ……お前よく3つも買えたな」


「企業秘密デス」


うふふふ、と笑うのオーラは黒かった。
何かしたんだな、と思ったが口には出さず、クロロはプリンを食べていた。











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プリンアラモード1個5000ジェニーってどんだけだ。







2006/12/23 カルア