そういえば私、ゾル家の敷地から外に出るのって初めてだ。
ミケ、でっかかったけど可愛かったなぁ。

でも多分一人だったら食い殺されてたな。

うん。
とにかく、成り行きとはいえ受ける事になったハンター試験。


目標:死なない事。











迷走ノスタルジア 04
















「ほえー……」

「キョロキョロしないで。オレが恥ずかしい」

「私はそんな変装してるイルミと歩くのが恥ずかしいよ」


何処からか仕入れてきた試験会場の情報を頼りに、現在とイルミはザバン市にいる。
イルミは顔中に鋲を刺し、喋らなければ誰もイルミとは気付かない程の変装をしていた。
もシンプルな黒いシャツにジャケットを羽織り、動きやすいジーンズ姿。
下には最終試験のサバイバルを見越して、ワンピースの水着を着ている。


「ここだね」


そしてイルミが足を止めたのはごく普通の定食屋。
看板と手に持った紙を見比べ、無言で中へ入っていく。
もその後に続き、イルミが注文するのを見ていた。


「意外だね」

「何が」

「こんなとこがハンター試験会場だって」

「そりゃ、簡単にしちゃすぐバレちゃうからね。」

「それもそうか」


出されたステーキを食べ終わってすぐ、チーンという音がして扉が開いた。
其処には既に沢山の人がいて、とイルミはプレートを手渡された。
イルミは301、は300だった。

プレートをくるくると回しながら、壁際に寄るイルミについても歩く。
大量の視線を感じるが、それはこの際イルミに向いた物だと無理矢理な解釈をして。


「いつ始まるんだろ」

「さぁ?それより、オレの足引っ張らないでよ」

「うん」

「それとオレ、試験中はイルミじゃなくてギタラクルだから」

「判ってるよ、ギタラクル」


あーあ、と腰に着けていたポーチから煙草を取り出し、火を点ける。
紫煙を吐き出せば、イルミがじっとの方を見ているのに気付いて。


「……何?」

「いや、吸うんだって思って」

「意外?」

「うん」


っていうか吸える歳なの?と聞いてきたイルミに、は思わず拳を振り上げた。
が、到底当たるはずもなく、その手は易々とイルミに掴まれた。


「私これでも21なんだけど」

「へぇ。16くらいかと思ってた」

「そんなにガキ臭く見えた?」

「うん」


きっぱりと言い切ったイルミの一言には大きなショックを受けた。
元々童顔だというのは回りに言われて自覚していたものの、そこまで幼く見られた事はなかったからだ。


「……もういい……」


体育座りのまま、両膝に肘を乗せ手を前に出し、半ばやさぐれ気味に煙草を吸う
イルミはそんなに一瞬だけ視線を向け、またすぐに受験者達を観察し始めた。











***










煙草を吸い終え、ぼけーっとしている内にいつの間にか壁に凭れ眠っていたの耳に響いたけたたましいベルの音。
あ、やっと始まるのか。
は立ち上がり、軽く伸びをして屈伸した。
イルミはそんなの様子に「気楽すぎ」と嫌味を零した。


「一次試験って何なんだろ」

「ひたすらマラソン。」

「?何で知ってるの」

「企業秘密デス」


試験官のサトツが試験についての説明をし、ひたすら着いてきていただきます、と言い歩き始めた。
イルミに続いても歩き出し、段々とペースを上げていく受験生達に合わせてペースを上げる。


「走ってるね。」

「だから言ったじゃん、マラソンだよって」

「もしかして試験内容知ってたりする?」

「うん」

「へぇ。そりゃいいや」


普通に会話をするも、周りはかなりのペースで走っている。
は「私ってこんな運動できたっけ?」と疑問に思ったが、異世界トリップと言う物をしたのだから何でもアリだと自己完結した。
そもそもゾルディック家の門にある試しの扉を、いきなり5の扉まで開けられたあたりでまずおかしいと思ってはいたのだが。

だが流石に1時間も走ると多少面倒臭くなり、は靴のつま先を軽くトントンと床に打ち付けた。
の履いていた靴からはタイヤが姿を見せ、インラインスケートのような靴になる。
は上機嫌で、滑り出した。
そのを見て、イルミは不機嫌そうに声を漏らす。


「何それ」

「ミルキに改造してもらった」

「ずるくない?」

「あんまり持久力には自信がないの。」


だから疲れたら引っ張ってね、と言うに、イルミは溜息を吐いた。
キキョウから「死なせちゃダメよ」と言われた手前、手助けしなければ後々面倒な事になる。
仕方ないな、と呟いた後、に言う。


「母さんに言われたしね。その代わり限界までそれで頑張ってよ」

「イエッサー」


なおも上機嫌で走りながら「さすがミルキ、いい仕事するわー」等と言うに並んで、イルミも走る。
薄暗い地下をひた走る数時間に及ぶマラソンが始まった。




















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イルミとどうくっつけようかなんて。






2006/11/30 弖虎