豚の丸焼きなんて簡単だよね。
ってイルミは言ってくれたけども。
現にイルミとヒソカはいとも簡単に仕留めてたけども。


「ッでかいんじゃボケぇぇぇええええぇぇぇえええ!!!!!!!!!」


いくらなんでもこのサイズの動物を豚と呼ぶのはおかしいと思うんだ!!!!!!
















迷走ノスタルジア 06

















「ちゃんと走らないと潰されるよー」

「んな木の上から言ってないで助けてってばー!!!!」

「今なら誰も見てないみたいだし念使ってもいいよー」

「これくらい仕留められないでどうするの★弱虫だなは◇」


「っ誰が弱虫だぁぁぁあああぁぁぁぁああああ!!!!!!」


木の上から苦戦するを悠々と眺めていたイルミとヒソカ。
弱虫、の一言には怒り、叫びながらグレイトスタンプへ向かって走った。


「こんくらい…仕留めてやるわぁっ!!!!!“100トンハンマー”!!!!!!!」


勢いよく飛び上がり、左手を大木槌に変形させたはそのままグレイトスタンプの額へとそれを振り下ろす。


「食らいやがれえぇぇぇえええぇえええ!!!!!!!!」


ドゴォオォォオオン!という効果音つきの一撃でグレイトスタンプは地面にめり込み、即死した。


「見たかヒソカァ!私だってやろうと思えば出来るんだい!」

「……へぇ◇」

「便利だよね、アレ。」


両手を高く挙げ絶叫するを見てイルミとヒソカはそう呟くと木から飛び降り、じゃあ焼こうか、と薪を集めだした。
も薪を集め、高々と積み上げられた薪に、持っていたライターで火を点けた。


「…焼けるまでに時間かかるね」

「半生でもいいんじゃない★」

「気にしなさそうだよね、あの試験官」

「………それもそうだね」


面倒臭い、の一言で、3人は半焼けのまま、豚の丸焼きを担いで会場まで戻っていった。








***






「………70匹完食しやがった」


ありえねー、と漏らす
結局、二次試験の最初の課題、豚の丸焼きは70名が通過となった。


「あたしはブハラと違ってカラ党よ!審査もキビシク行くわよー」


そして次はメンチの課題。
は小さくガッツポーズをした。
それに気付いたイルミが首を傾げ、何か言いたそうにしていたが、それはメンチの声に遮られた。


「あたしのメニューはスシよ!!」


スシ来たー!
は先ほどよりも多少大げさにガッツポーズをした。


「…スシだって。知ってるよね?その反応だと」

「知ってるには知ってる。でも彼女を満足させるほどのスシを握る自信はないっす」

「へぇ★何がいるのかな?」

「ライスと酢と魚…かな。川あったし」

「魚、ね★」


ヒソカとイルミは川に向かった。
も二人に着いていくものの、彼女は川でなく森へ向かって。


『魚ァ?!お前此処は森ん中だぜ?!』

『声がでかい!!』


森へ入っていくの背に、レオリオとクラピカの声が聞こえた。


(んー…出来れば彼らとも話してみたけどキルアいるしなぁ。)


等と考えながら、先ほどと同じ様にグレイトスタンプを仕留め、必要な分だけ肉を切り出し、会場へ戻っていった。
が会場に入ると其処には誰もおらず、皆川へ向かって魚を捕っているようだった。
は自分に宛がわれた調理台へ向かい、肉を焼き始めた。


「何してるの、

「あ、おかえり。」

「それってさっきの豚の肉だよねぇ☆?」

「うん。変り種でもいいかなーと思って」


さて、ちゃっちゃと作るよー
そう言って、はライスに酢を混ぜながら、杓文字で切る様に混ぜていく。
左手にはうちわを持ち、冷ましながら。
ヒソカとイルミはの作業を横目で見つつ、見よう見真似で調理を始めた。


「っていうか、よく知ってたね」

「私の国の伝統料理なんだよね、スシって。
 まぁ…彼女達を満足させる程のスシを握るには…10年単位の修行がいると思うけど」

「ヘェ☆」


会話をしながら、は甘辛く焼きあがった豚肉を一口サイズに切っていく。
イルミは魚をまな板に乗せたまま硬直していた。


「……何してんの?」

「どうやればいいのかなと思って」

「あー……うん、一次試験で助けてくれたし、やったげる」


苦笑いをしながら、イルミから魚を受け取り、器用に捌いていく。
イルミはその手つきにへぇーと声を漏らした。


「ボクのもお願いしたいな★」

「う……わ、分かった…」


同じく、魚をどう調理すればいいのか迷っていたヒソカも、満面の笑みでに言った。
逆らえば命が危なそうだ、と思いながら、冷や汗をかいては二人分の魚を捌くのだった。


『出来たぜー!!オレが完成第一号だ!』


げ、先越された
は声がする方に振り向いた。
レオリオが、凡そ料理とは言いがたい物をメンチにほっぽり投げられている姿が見えた。
思わず噴出しそうになるのを堪え、捌いていた魚に向き直る。


「料理できたんだ」

「さりげなく失礼な事言わないでもらえますか」

「ボクも意外だなって思った★」

「………もういいです」


はぁ、と溜息を吐いて、二人に捌いた切り身を渡す。
は冷めた酢飯を手に取り、器用に握っていく。


「んー…こんなもんかなぁ」


イルミとヒソカもそれを見ながら握るが、如何せん上手くいかないようだ。
は一足先に、完成したスシを持ってメンチの前まで出て行った。



「よろしくお願いします」

「300番ね。見せて頂戴」

「はい。」


ぱか、と蓋を開ければ、メンチは箸を持ったまま硬直していた。
そして訝しげな目でを見て、ゆっくりと口を開いた。


「…なんで魚じゃなくて肉なのかしら?」

「海水魚なんていませんし。私、スシなんて握った事もないですから、きっと満足させられないだろうと思いまして。
 こういうスシもありなのでは、と思って握ってみました」

「……まぁいいわ。」


メンチがの握ったスシを口に運ぶ。
目を閉じて、味を確かめるように咀嚼をし、飲み込んだ。


「……多少握りが甘いけれど…まさか肉で握るとは思わなかったわ。
 シャリもいい具合に酢が利いているし……タレが味を引き立ててる。」

「良かった、マズかったらどうしようかと思った」

「味見くらいしなさい。…魚じゃないけど、まぁいいわ。300番、合格!」

「おっしゃぁー!!!!!」


メンチの合格、という声と、の絶叫に受験者達の視線が集まる。
当然、イルミとヒソカも。そしてゴン達も同じく。


「……さて、他の受験生にバラされちゃ困るのよ。ちょっとお話聞かせて頂戴」

「えあ…何のですか」

「さっきのスシの事よ。あんたの奇抜な発想、気に入ったわ」


イルミとヒソカが怖いですメンチさん!!!!
が、襟首を掴まれたまま、はメンチの隣に強制的に座らされた。

そして聞かれるまま、メンチの質問に答えていく。

魚以外でどんなスシダネを食べた事があるのか、何か変わった物は食べた事はないかなどなど。
見透かされているのかな、とは内心不安だったが、を見るメンチの目は疑いの欠片もなかった。
むしろ、美食ハンターとして参考にしたいと言われ、苦笑いを零しながら話すのだった。

その間にも、クラピカやゴンやレオリオがスシとは言いがたい形状の料理を持ってきたが
は面倒を避けるため、視線を逸らしてやりすごした。
イルミとヒソカはといえば、まだ苦戦していた。


「本来ならオレが合格1号のはずだったんだがな。どうだ、これがスシだろ!」


に視線を送りながら言ったのはハンゾーだった。
見た所、きちんとしたスシの形ではあるが。

はこの直後繰り広げられるであろう言い争いに、耳を塞いで溜息を吐いた。

案の定、ハンゾーのスシはおいしくない、と一蹴され、ハンゾーは調理法を大声で叫んだ。
それどころかお手軽料理、などと言った所為でメンチはキレた。

そのやりとりを盗み聞きした受験生達は、次々とスシを作って持ってきた。
が、何もそこまで、というほどの細かいダメ出しをして、作り直させていた。


(さすが美食ハンター…私が合格って奇跡だったんじゃ?)


と、思っているうちに、メンチが茶を飲み、バツが悪そうに「おなかいっぱいになっちゃった」と言った。









***







「とにかくあたしの結論は変わらないわ!」


後半の合格者は1名よ!
と、半ばキレて電話を切る。

はイルミとヒソカから送られる殺気じみた気配に身震いした。

その上、受験生達からも恨みの篭った視線を投げられて


(勘弁しろよ……)


と、本日何度目かの溜息を吐いたの耳に、何かが崩れる爆音が響いた。
その音の方に目を向ければ、大きなテーブルが一部粉々に砕けていた。


「納得いかねェな。とてもハイそうですかと帰る気にはならねェな」


なんでそのガキ一人だけが合格なんだ、と顔に青筋を浮かべて言うトードーに、は思わず口を開く


「ガキ言うな!私はこれでも21だ!分かったかデーブッ!」

「な……ッ」

「黙ってやんの!図星だろ?図星なんだろ?!デブデブデブデーブッ!」

「ぶっ殺すぞクソガキ!」

「だからガキじゃねぇって言ってんだろこのデブ!汗臭ぇんだよ!」


ぎゃーすかと言い合うとトードーに、イルミは深く溜息を吐いた。

目立つなって言ったのに。

そう呟くと、隣でヒソカが低く笑った。


「オレが目指してるのはコックでもグルメでもねェ!ハンターだ!しかも賞金首ハンターだぜ!
 美食ハンターごときに合否を決められたくねーな!」


の相手をするのに疲れたのか、それとも核心を突かれて言い合う気力をなくしたのか。
トードーはメンチに向かって叫ぶ。


「それは残念だったわね」

「何ィ?!」

「今回のテストでは試験官運がなかったってことよ。また来年がんばればー?」


が、メンチは冷静沈着。
ひらひらと手を振り、その叫びを一蹴した。
そのメンチの態度に、先ほどのとの言い合いも加わりトードーはとうとうキレた。
メンチに殴りかかろうとしたが、ブハラの張り手によりガラスを突き破って屋外に飛ばされた。


「賞金首ハンター?笑わせるわ!たかが美食ハンターごときに一撃でのされちゃって」


メンチが包丁を投げながら叫ぶ。
その中で、このテストの意味が語られた。


『それにしても合格者1はちとキビしすぎやせんか?』


空から響くその声に、受験生は揃って外に飛び出す。
も面倒だと思いながら、のたのたと歩いて出て行った。











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はっちゃけた子は書いてて楽しいです。






2006/12/01 弖虎