イルミはあの後、私の手をずっと優しく包んでいてくれた。
私はそのおかげで何があったかなんて覚えていなくて(漫画のとおりに進んだ事に変わりはないけれど)

ただ、キルアがポドロを殺して、そのまま会場を去った事には、多少なり衝撃を受けた訳で。
ゾルディックは普通の家庭じゃない、って判っていても、余りに残酷すぎて。




















迷走ノスタルジア 16




















「……、どうしたの」

「……え、」


ハンター試験が終わり、今は帰りの飛行船の中。
ゾルディック家(というよりはイルミ)専用の飛行船は、それはそれは豪華だった。
はデッキの窓枠に肘を着き、ただ流れていく景色をぼんやりと眺めていた。
背に掛かった声に振り向けば、其処にはイルミがいて。
と少しだけ距離を取り、同じように窓から景色を見下ろした。
は気まずそうに横目でちらりとイルミを見、またすぐに視線を窓へと投げる。
イルミは窓の外を見たまま、に向かって声を掛けた。


「さっきからずっと上の空だから」

「………あー…」

「……キルの事でしょ」

「……うん」


図星を突かれ、思わず苦笑いを零すの髪を、イルミは優しく撫でた。
は擽ったそうに身を捩り、髪に触れるイルミの手に触れた。
体温の低いイルミの手は透き通る程に白く、は目を閉じその感触を感じていた。


「……オレの家は暗殺一家だから」

「判ってるよ…あれがゾルディックにとっては正しい事だって、判ってる」

「……そうだね。でも、はおかしいって思っただろ」

「……正直、ね。」


会話を交わす間にも、の髪を梳くイルミの手は止まる事はなく
イルミの手を撫でるの手もまた、止まる事はなかった。
誰もいない二人だけの空間。
程よく効いた空調が心地良かった。


「…でも、イルミがキルアを大事に思ってるって事は、判ったから」

「うん」

「だから私も、ゾルディックの事に口出しはしないよ」

「そう」


それきり二人は口を噤み、只流れる景色に見入っていた。
お互いの手と手を繋ぎ、隣にある確かな体温を感じながら。


























***





















「……3週間ぶり?」

「1ヶ月近いね」


それから2日程経って、二人は今ゾルディック家の門前にいた。
いつもであればそのまま屋敷に近い場所で飛行船を降りるのだが
ゼブロさんに合格したって言いたいから、と言うの意見を聞き入れたイルミが
敷地内ではなく少しばかり離れた場所で飛行船を降りたからだ。
門前で会話をする二人の姿を見止めたゼブロが、守衛室からゆっくりと出た。


「お帰りなさいませ」

「あ、ゼブロさん!ただいま帰りました!」

「試験はどうでした?」

「もっち!合格してきたよーん!」

「それはそれは。おめでとうございます」


ありがとう、と言いながら笑うにつられてゼブロも笑う。
イルミはそんなを横目に門へと向かった。


、置いてくよ」

「え、あ、待ってよ!ゼブロさん、またね!」

「ええ、お気をつけて」


はイルミの声に慌てて門へと向かい、ゼブロはその後姿を見送りながら笑みを浮かべていた。

(イルミぼっちゃまにも大事なお人が出来たみたいですなぁ)

なんて思っていた事は、二人にはもちろん知る由もなかった。
一方の二人はと言えば、門前で立ち止まっている。
てっきりイルミが開けるものだと思っていたは怪訝な顔でイルミを見上げる。
イルミはポーカーフェイスを崩さないまま、扉を指差してに言った。


「開けてよ」

「は?!私?!」

「そう」


思いもよらない言葉には一瞬狼狽し、大きな声を上げる。
相変わらず観光客の多いこの門の前で、は盛大にため息を吐いた


(人たくさんいるんだけどなぁ…開けなきゃイルミが怖いし……まぁいいかぁ)


等と心の中でまたため息を吐き、扉に手を添える。
イルミはの顔を覗き込み、一言。


「鈍ってない?」

「バカにすんなって!……ふっ!」


ぐ、っとが力を込めれば、扉は難なく7まで開いた。
それを見た観光客から、一斉に驚きの声が上がったがそれはこの際無視をした。


「……な、7までとか……!なんか増えてるし!」

「逞しくなったね」

「褒めてんの?!貶してんの?!」

「褒めてるんだよ」


そう言ってさっさと門の中へ入っていくイルミに少しばかりの殺意を覚えながら、も門内へと姿を消した。
その後には扉の閉まる轟音が響き、同時に観光客の驚きの声も消えていった。

さっさと帰ろう、と言うや否や駆け出すイルミを慌てては追う。
いつもならば途中で会うミケにも、今日は会えなかった。

久しぶりにミケの背中乗りたかったのに、とはまたため息を吐いた。























***
























「おかえりなさいませ、イルミ様、様」


邸内へ入れば、メイドと執事が勢ぞろいで出迎えてくれた訳で。
玄関からその先のエントランスホールへと、通路である赤い絨毯の両脇にずらりと並んでいる。
はその光景に一歩引きながらも、イルミに続いて邸内へと足を踏み入れた。


「イル!ちゃん!おかえりなさい!!!!!!」


と、予想していたとおり、異様なテンションのキキョウが出迎えた。
はやっぱり、と肩を落とした。


「キキョウさん、ただいま」

「イル、結果はどうだったの?!」

「オレもも合格したよ」

「まぁああぁああ!!!!!さすがだわちゃん!!!!!」

「え、あ、ありがとうございます……」


私やっぱりこの人のテンションに着いていけない、とは心の中で冷や汗をかいた。
キキョウはの両手を取り、上下にぶんぶんと振り回している。


「……で、母さん。大事な話があるんだけれど」

「あら、何かしら?」

「親父達も呼んでくれる?」

「ええ、判ったわ。じゃあパパの部屋で待っているから、早くおいでなさい」

「うん」


イルミの返事を聞いて階段を上っていくキキョウの後姿を見ながら、はイルミに声を掛ける。
それは至極当然の疑問であって、なんだか嫌な予感がしていたのだが聞かない訳にはいかなかった。


「ねぇイルミ、話って何の?」

「オレとの事に決まってるでしょ」

「……やっぱり」

「待たせると母さんうるさいから、さっさと行くよ」

「え、あ…うん」


正直結果が予想出来すぎては気が進まなかった。
が、手首に掛かったイルミの手はそれはそれは強く握られていて振りほどく事なんて出来るわけもなく。
は本日5回目のため息を吐いてイルミの後に続いて歩くのだった。






















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暇を見つけて書き溜めています。
とりあえずこれからしばらく原作からは脱線で。



2007/02/19 カルア