「ねぇクロロ、明日ヒマ?」

「暇と言えば暇だが……どうした?」


「あのね、此処行きたいの。クロロも甘い物スキでしょう?」


旅団仮アジトのクロロの自室。
ぱらぱらと雑誌をめくっていたがあるページに目を止めた。
そのまま読み始めて暫く、隣で本に目を落とすクロロに声を掛けた。

クロロが見せられたのはアジトから程近い街に最近出来たというケーキバイキングの店で。

悪くないと思ったが、クロロはふと疑問に思う。


「…オレ、に甘い物好きだって言ったか?」

「知ってるの」

「……そうか」


隠していたんだがそれも無駄か。
少なからずクロロはショックを受けたものの、そういえばも異世界の人間で自分達の事を良く知っているんだったなと一人ごちた。
それに、といれば少なからず好奇の目で見られることは無い…否、ほほえましいカップルに見えるだろう。
クロロはそう考え、行こうかとに返事をした。
その答えには満面の笑みを浮かべ、明日が楽しみだねと言った。


「あぁ、面倒な事になるからには言うなよ」

「え、なんで?」

を誘えばフェイタンだって着いて来るだろ。あいつは甘い物が嫌いだしな」

「あーそっかー。うん、じゃあちゃんとはまた別の日に行く事にしよう」

「そうしてくれ」


黙っていくと後が怖いけど、と言うの呟きは聞こえないフリをして。

















***
















「……混んでるね」

「まぁ…あんな雑誌に載るくらいだからな」


翌日、朝早くから支度を始めたの勢いに押し切られ、二人は予定よりも大分早くアジトを出た。
それでも、まだ昼前だと言うのに目当ての店には行列が出来ていた。
貸切にすればよかったな、というクロロの呟きは聞かないフリをして。
仕方なしに並ぶ二人だったが、は正直いい気分ではなかった。

クロロはいつものオールバックではなく、今日は髪を降ろして刺青を隠すバンダナを巻いている。
すらっとした長身に、端正な顔立ち。
オフホワイトのワンピース姿のに合わせ、淡色のシャツにレザーパンツをあわせたクロロ。
道行く女性の殆どがクロロに視線を向けていた。


「……クロロ見られてるね」

「…なんだ、やきもちか?」

「別に……」


隣にがいて、なおかつ手を繋いでいる事など目にも入っていないようだ。
は繋がれた手に目を落とし、深く溜息を付いた。
クロロはそんなに思わず軟らかい笑みを浮かべ、自分よりも頭一つ分小さなの髪を優しく撫でた。


「オレはしか見てないよ」

「判ってるよ、もう」


髪を撫でる手はそのままで、甘い声で囁く。
は頬が一気に熱くなるのを感じ、思い切りクロロから顔を逸らした。
そんなの行動に、クロロはまた愛しさを感じて優しい笑みを浮かべるのだった。




***



「うわー…いっぱいある…迷うなぁ…いっそ全部食べちゃおっか…?」


結局、1時間程列にならんでやっと入れた店内。
所狭しと並べられたケーキの山に目を輝かせる
クロロは二つの皿を取り、器用にケーキを盛っていく。
はコーヒーを二つ淹れ、テーブルへ戻った。

がテーブルに戻って程なく、クロロは皿に目一杯のケーキを積んで帰って来た。


「美味しそう」

「そうだな」

「いただきまーす」


フォークを片手に、どれにしようかなー、などと独り言を言いながらケーキを選び始める
クロロはとりあえず一番手前にあったストロベリームースを口へ運んだ。


「……旨いな」

「どれ?」

「ストロベリームース」

「ふーん……あ、ほんとだ。美味しい」


旨い、というクロロの言葉に、同じストロベリームースを口に運んだ
フォークを軽く咥えたままそう言って、また嬉しそうに笑う。

クロロはそんなの表情を見て、来てよかったなと思った。


「ねぇクロロ」

「ん?」

「いつもの団長モードのかっこいいクロロもいいけど、好青年なクロロもいいね」

「何だそれは」

「今素直に思った事」


だってかっこいいのよ、クロロは。
そう付け加えて、ショートケーキを頬張る。
気が付けばの皿はもう空で、半分も食べていないクロロは驚いた。


「……もう食べたのか」

「え、だって美味しいんだもん」

「…太るぞ?」

「クロロが持ってきたくせに」


お前が全部食いたいと言ったんだろうが。
そう言いかけて、やめた。
好きな物を食べている時のはそれはもう本当に幸せそうで、それを見ているのがクロロの楽しみでもあったからだ。


「うーん、また持ってこようかな」

「まだ食うのか」

「だから美味しいんだって。そういえばあっちにプリンあったな…よし、次はプリンにしよっと」

、オレのも」

「はーいはい」


クロロはプリン大好きだもんね、とからかうような口調で言い、は席を立った。
そのの背中を見つめ、クロロは改めて幸せだと思った。

……今度はオレが違う店を探しておいてやるか。

彼女のあの、咲き誇る大輪の向日葵のような笑顔のために。

























(それは深海よりもより深く)







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甘党な団長って素敵ですよね





2006/11/27 弖虎