「これどう?可愛くない?」

「んーこれちゃんにはちょっと地味かも」

「そうかなぁ。このレース可愛いと思うんだけど」

「こっちのが似合いそうだよ?フェイクファーのやつ」

「…あ、ほんとだ。可愛い。でものが似合いそう」



アジトの広間で雑誌を広げ何やら小声で話し込んでいる
広がっているのはファッション雑誌で、それはもう何十冊という勢いで辺りに散乱していた。

クロロ達男性陣が時折興味深そうに近づくものの、男は来るな!とに殺気を飛ばされ逃げていく。
その繰り返しがもう何度となく見られた。

それもそのはず、が現在開いているページは下着のページだったからだ。
二人でそれを見ながら、あーじゃないこーじゃないと議論を始めて早1時間。
何をしてるんだ、とクロロを初めとする男性陣はやきもきと二人の方を盗み見ていた。


「……このピンクのレースのやつ可愛いね」

には似合うね…私こっちの黒いやつ」

「うん、似合いそうだね」

「じゃ、買いに行こっか」


「そーだねー」


という会話の後、二人は雑誌を片付け始めた。
が放っていた殺気がようやく消え、男性陣はほっとした。

の殺気は無邪気ではあるがとても鋭い物なのだ。

遊んでいたら殺しちゃいました、とでも例えておこう。
とどのつまり、彼女に悪意はないのだ。
無意識に殺気を飛ばしている辺り、彼女の性格がにじみ出ている。


「クロロ。ちょっとちゃんと買い物してくる」

「オレが選んでやろうか?」

「え、いいよ別に」


言い方はあくまで軟らかく、だが有無を言わせぬの言葉に、クロロは思わず息を詰まらせた。


「…何を買いに行くね」

「ん?ひ・み・つ」


眉間に思い切り皺を寄せて聞いてきたフェイタンに、満面の笑みで返す。
先ほどまで放っていた殺気は消えていないものの、それが幾分軟らかいのは彼が彼女の恋人だからだろうか。

フェイタンもその笑顔の裏にある殺気を感じ取り、早く帰てこいよ、とだけ言いまた本に目を落とした。


「さて、いきましょっか」

「うん」


の放つ殺気には気付かないまま、と手を繋いでアジトを出て行った。
後に残されたのはの殺気に当てられた男性陣。


「……なんつーか、さすがフェイタンの弟子だよな」

「さすが、て何ね。それに今は弟子でなくコイビトよ」

「似たもの同士がくっついたんだもんね」

「シャル、死にたいか?」

「いや、ごめん」

「……あいつも大分蜘蛛らしくなってきたな」


上からフィンクス、フェイタン、シャルナーク、フェイタン、シャルナーク、クロロ。
彼女の最凶伝説は揺ぎ無い。













***











「たっだいまー♪」


二人が出かけてから数時間後、大きな紙袋を抱えて上機嫌なが広間のドアを壊さん勢いで開けた。
のその行動に苦笑いをしながらも、ただいまと小さく言った。

当然、男性陣の視線は二人が抱える紙袋に行く訳で


「…何買ってきたんだ?」

「内緒。乙女の秘密よ、フィンクス」

「乙女ってガラかよ、お前が」

「ぶっころすよ」


ぶわ、っとからまた殺気が立ち上る。
フィンクスはその一瞬の後、シャルナークに背後から後頭部を殴られ、夢の世界へ旅立った。


「……で、本当になんなのその大荷物は」

「新しい服とか?」


はぁ、と溜息をつきながら聞いてきたシャルナークに疑問系で返す
シャルナークはその反応に苦笑いを浮かべて


「なんで疑問系?」

「……だって、ねぇ」

「うん……」


が視線を合わせて何やら口ごもる。
そうされれば意地でも聞き出したくなるのが男というもので。


「いいじゃん、教えてよ。」

「いやー……」


好青年よろしく、悩殺スマイルでに言うシャルナーク。
だがはその笑みにも視線をそらし気まずそうに返すばかりで。


「……あのね、本当に言えないの。ごめんね?」

まで…」


が心底申し訳なさそうに謝れば、シャルナークもあきらめる他ない。
シャルナークはまぁいいか、とノートパソコンの前に戻り、またキーを打ち始めた。



「スキありっ!」



はぁ、と溜息を吐いた二人の背後から、復活したフィンクスが紙袋を叩き落とした。
当然、中身は床に散乱する訳で。




「きゃあっ」

「げっ」




紙袋の中から出てきたのは、女性物の下着数点。
フィンクスは思わず、固まった。

の持っていた袋からは、黒や青や紺といった落ち着いた色合いの下着が
の持っていた袋からは、白やピンクや水色といった可愛らしいレースがあしらわれた下着が

ごっちゃになって、床に散った。



「あぁぁぁああぁぁあ!!!!」



思いもよらない行動に一瞬固まったものの、すぐに正気を取り戻しの分まで下着を袋に詰め込む
は顔を真っ赤にして俯いたまま硬直している。



「………フィンクス………」



ゆらり、と下着を回収し終えたが立ち上がる。
その背後には羅刹を背負わんばかりのどす黒いオーラが立ち込めていて。

フィンクスはのそのオーラに、盛大に後ずさった。

そのままの恋人であるフェイタンに助けてくれと視線を送るが、自業自得ね、といった目で見返されるだけだった。



「わっ悪かった!つーか団員同士のマジ切れご法度だぞ、!!!!」


「……クロロ?」


そのフィンクスの言葉に、そうだった、とは気付いた。
そして放つ殺気と張り付いた笑顔はそのままに、クロロに振り向き答えを促す。


「………許す」


だが、の有無を言わさぬその殺気に流石のクロロも巻き添えはごめんだと冷や汗をかき



フィンクスを見捨てた。



「団長ォォォオオォォ?!」






その叫びを最後に、フィンクスは哀れな屍と化した。

の審問椅子に捕らえられ、針が容赦なく体中に突き刺さり
鞭で散々叩かれた挙句爪を剥がされ
あまつさえ電気椅子で高圧の電気を流されたのだ。

の放つオーラはとてもどす黒く、数多の修羅場を潜り抜けてきたクロロですら近づけなかった程だった。

そしてフィンクスを治療しようとしたすら、は「天罰だから放置でいいよ」と制した。
で、身に着けていないとはいえ下着を見られた事が恥ずかしかったのだろう。
少しばかり悩んだ後「そうだね」と快諾し、と共に自室へ戻っていったのだ。

その一連の行動を見守るしかできなかった団員達は、を怒らせる事だけは絶対にやめようと固く誓った。


































(踏みにじれば、とても怖い制裁が待っている)





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これはドリームと呼べるのか






2006/11/28 弖虎