「(……妙な気分ね)」
フェイタンは此処数日、心に掛かった奇妙な感覚を拭いきれずにいた。
それを自覚したのは、異世界からやってきたというが、自分に弟子入りをしたいと言って来たその日。
仲間でさえ好んで近づこうとしなかったフェイタンの拷問室に、彼女は連れて行けと笑顔で言った。
あまつさえ、其処に置かれた数々の拷問具に目を輝かせ、一つ一つ間違う事なく名前を当てていく。
4日ほど前まで使われていた為に、血液や脳漿が付着している事になど目もくれずに。
つい先日まで、人の死とは程遠い生活をしていたにしては、恐ろしくドライな反応だと思った。
まさかが拷問好きとは思わなかった、素直に思った事だった。それほど彼女の笑顔は明るかった。
だが、人間の本質が垣間見える物じゃないか、そう言って微笑んだの笑みはとても黒く妖艶だった。
「(……ハ。ばかげてるね)」
そしては自分は具現化だからと、拷問具を具現化しようと思うと言い出した。
その言葉にフェイタンは一瞬驚いたものの、そうすればと組めば面白い、と考え二つ返事で了承したのだった。
「フェイタン?」
考えを巡らせていた所に響いた明るい声。
それは弟子であり、心を乱す元凶のの声だった。
「あ?あぁ…何ね?」
余りに突然なその声に、一瞬フェイタンの声が上擦った。
はそれに首を傾げるも、まぁいっかと言った態度でフェイタンの眉間を指差した。
「ん、考え事してたみたいだから。眉間に皺寄ってんよ?」
「あ…あぁ。なんでもないね。」
まさか本人を目の前にして「のことを考えていた」等と口に出せるはずもなかった。
ただ首をかしげたまま振り返り、修行をこなして行くの背を見つめていた。
「(……判らない)」
自分のこの感情にどういう名前をつけていいのか判らない。
ただ、といる時には不思議と破壊衝動は起こらなかった
泣き叫ぶ様を見ながら、あらゆる方法でゆっくりと命を削り最後には犯しながら首を絞めて。
そうする事でしか自分の欲求は満たされなかったし、普通に女を抱くなんて事は出来なかったからだ。
ただ、目の前でその赤い髪を風に揺らせながら纏を行ったまま踊る様に演舞をするには、そんな腐った感情は沸いて来なかった。
「フェイタン、なんか今日おかしいよ?どっか調子悪い?」
背を見つめる視線に気付いたのか、演舞を中断しフェイタンに向き合う。
その視線は、自分を恐れるそれではなく、心から心配しているような、そんな視線だった。
「……そういう訳ではないね。ただ………」
「ただ?」
「ただ………そうね、オマエが好きなのかもしれないというだけよ」
「………ッ」
確信はまだない。だが、自分の告白じみた言葉に頬を紅潮させ俯くのその表情に。
その疑心が確信に変わる日は、そう遠くはない。
そして、が弟子から恋人になる、その日もまた。
恋の予感
(それはいつか大輪の花となって咲き誇る)
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甘いのかしら。
修行中の一コマだといいななんて。
2006/11/19 テトラ