Stardust Rhapsody
「そういえばさぁ」
「何ね」
「私もうすぐ誕生日なんだよね」
は雑誌に目を落としたまま、独り言の様に呟いた。
フェイタンは本から目をに移すが、相変わらず彼女の視線は雑誌に向かっている。
何をそんな真剣に、と思い覗き込んでみれば、アクセサリー。
何だ、こいつは催促でもしてるのか?
フェイタンはそう思ったが、言わずに置いた。
むしろ、良い事を聞いたと口角を吊り上げた。
「……で、何をさっきから真剣に見ているか」
「ん?あぁ、これこれ。綺麗だなーって思ってさ」
ほら、と指差す先には、宝石展の広告。
そしての指の下に、青く澄んだダイヤの指輪。
「…スターダスト?あぁ、今度の宝石展の目玉か」
「そう。…クロロこれ狙わないのかな」
「宝石はこの間大量に盗んできたばかりだからな……」
うーん、そうかぁ
は溜息と共に呟いて、また雑誌を読み始めた。
(これはいい事を聞いたね。たまには恋人らしい事でもしてやるか?)
フェイタンはの横顔を見つめながらそんな事を考えていた。
***
「ねー、これ見てよー」
翌日、は昨日読んでいた雑誌片手にの部屋を訪れていた。
二人でお茶をしながら、雑誌や本を読んでいた。
「何…ってうわぁ、すごい綺麗」
「でしょ?あぁ……いいなぁ。」
「珍しいね、宝石に興味持つの。」
いつもなら宝石なんてニセモノで十分だーとか言う癖にぃ
はからかうような口調でに言う。
その言葉にはの額をこつんと小突いた。
「だってこれ綺麗じゃない…?」
「うん、すごく綺麗…」
「えっと…スターダストは今からおよそ500年前に作られた物で……?
エリオット侯爵が愛妻カタリーナの為に40人の細工師に3年を掛けて作らせた……へぇー。
カラット数は合計で200程…台座や本体に数え切れない程のダイヤが散りばめられており……200って…
中央の台座に鎮座するブリリアント・カットのブルーダイヤは20カラット……うわーすげぇ…」
は説明文を途切れ途切れに読み上げていく。
こちらへ来てから大分経ってはいるものの、未だ完全に文字を理解できていないのだ。
パターンさえ理解してしまえば簡単、と言った言葉通り、時々詰まる程度だが。
「……なんかすごいんだね、その指輪」
「時価……数億ぅ?!」
「え、そんなするんだ!」
その値段を見て、二人は驚いた。
何せこちらの世界へ来るまでは一般人で、そんな金額には無縁だったのだ。
は「うあー……」と嘆き、は「すごいねぇ」と感心している。
「……まぁ、見てるだけならタダだし…」
「クロロも何も言わないから標的にはならないんだろうね…」
「だってクロロ、宝石なんて腐るほど持ってんじゃん…それにこれブルーダイヤってそんな珍しくもないし…」
かといって一人で盗みに行けば誰かしらにバレてたかられるし…
は頭を抱えて悩んでいた。
普段、宝石には興味を示さない彼女だったが、このダイヤには何か惹かれる物があった。
もともと青い色を好むからなのか、それとも盗賊としての彼女の血がそうさせるのか判らなかったが。
「……はぁ」
は深く溜息を吐き、雑誌を閉じた。
***
「…ちゃん、フェイタンに明日誕生日だって言った?」
「あーうん、こないだ。」
「何かくれるといいねぇ」
時は過ぎ、誕生日前日。
とは二人で街まで買出しに出ていた。
両手一杯に荷物を持ち、歩く二人を通行人は皆振り返る。
それもそのはず、二人が持っている荷物はビニール袋にして一人10個。
中身は米であったり、野菜であったりとかなり重い。
それを軽々と持ち、平然と歩いているのだから注目を集めるのは仕方がない。
「フェイタンだからねぇ……期待してないっつーのが本音かな」
「えーでもフェイタンって何だかんだ言ってちゃん大事にしてんじゃん」
「…まぁ……うん、でもフェイタン、贈り物なんてする柄じゃないしねぇ」
「そうかなぁ……?」
「うん」
「以外にあーいうタイプが…って事もあるんだけどねぇ」
「……まぁ期待してもらえないよりは期待しないでもらえた方が嬉しいし」
「そだね」
そうして郊外の空き地に止めていた車に荷物を詰め込み、は運転席へ座った。
は助手席に座り、紅茶を飲んでいる。
勿論免許等取得してはおらず、無免許運転だが。
「まぁ、とりあえず明日はお祝いしようね」
「うん、みんなでね」
はアクセルを踏み込んだ。
***
「ただいまー……ってあれ、フェイタンは?」
アジトへと帰ってきた二人。
広間にはノブナガとフィンクス、クロロはいるものの、フェイタンの姿だけが見えないままだ。
はキッチンへと歩きながらキョロキョロとあたりを見回す。
が、見慣れた黒装束は何処にも発見できなかった。
「あー……フェイなら仕事入ったとかってさっき出てったぜ」
フィンクスが頭をかきながら言う。
その表情は何かを隠しているようだったが、は気付かなかった。
は何かを察したようだったが、敢えて黙っていた。
「……マジで?私何も聞いてないんだけど」
「さっき急にらしいぜ。まぁ明け方までには戻るらしいけどな」
「あ、そ」
は メールくらいくれてもいいじゃん と思いながら保存庫へ食材を収めた。
はといえば買ってきた食材で夕飯の支度に取り掛かっている。
今日の食事当番は、メニューは食材から察するにシチューとパン、そしてサラダのようだ。
はソファに座り、タバコに火を点けた。
「なぁ、お前明日誕生日だって?」
「うん、そーだよ」
「そーかそーか。」
「何だよノブ、気色悪い笑いしないでよ」
(それでフェイタンさっき出てったのか……まさかアレ盗む気か?)
ノブナガの考えは当たっていた。
だが此処で言っては後がつまらないとばかり、何かをたくらんだ笑みを残して自室へ戻っていった。
「なんだってのよ……」
は呟き、タバコを消した。
その日の夕飯は結局フェイタンが戻らぬまま、5人で食べた。
***
「……明け方までには、って言ってもねー…」
は自室のベッドに横になったまま、時計へと目をやった。
表示されている時刻は午後11時30分。
あと10分で日付が変わり、誕生日を迎える。
「一番にハッピーバースディなんて柄じゃないしな…」
本当なら日付が変わる時を二人で過ごしたかった、とは思っていた。
だがそんなのは私の柄じゃない、とそれを慌てて否定した。
「……寝よ」
ぼふ、っと勢い良くシーツを被り、は目を閉じた。
虫の声が遠くに響く、静寂の闇。
の意識は夢へと誘われ始めた。
カチャ…キィ
扉の開く音がするが、は既に夢の中だった。
買出しで疲れたのか、フェイタンがいない寂しさからなのか、珍しく彼女は熟睡していた。
だから扉が開いた事にも、足音がだんだん自分へ近付いている事にも気付けなかった。
「……寝てしまたか」
ベッドサイドに立ち、眠るを見下ろすのはフェイタン。
その手には、が興味を示していたスターダスト。
の誕生日だから
そんな理由だけで博物館を襲い、その場にいた人間を全て殺め、彼はそれを持ち帰ったのだ。
がいないときに出かけたのは気付かれない為
仲間に何も言わなかったのは指輪を盗られない為
……今この場にいるのは、一番におめでとうと言う為。
「……まぁこの方が好都合ね」
フェイタンはゆっくりとの左手を取り、薬指にその指輪をはめた。
それは誂えたかのようにぴったりで、白いの肌にブルーダイヤが良く映えていた。
その手を戻すと、フェイタンは時計に目をやった。
時刻は11時58分。フェイタンは口角を吊り上げ、の頬を撫でた。
「………、起きるね」
「ん……ぅ……?フェイ……?」
11時59分
「今帰たよ」
「おかえり…なさい……」
0時0分
「、ハピーバースデイね」
「………え?……何、指……えぇええぇぇぇええぇぇええ?!」
不適に笑うフェイタン、彼の口から紡がれたハッピーバースディ。左手の薬指の違和感。
の脳は混乱していた。
「ここここここれっ!スターダスト!!!!」
「ワタシからにプレゼントよ」
「な、なななななな……っなんで?!」
「だて、欲しがていただろう。」
けろっと言うフェイタンに、は絶句する。
そしてしばらく硬直した後、状況を理解したの頬は一気に紅潮する。
(じゃ、じゃじゃじゃじゃあフェイタンがさっきまでいなかったのは仕事なんかじゃなくって!
私の為にこれを盗みに行っていたからで、しかもあんな些細な事をばっちり覚えていたからで!
っていうか何、目覚めたら薬指に指輪ってフェイタンってば恥ずかCー!!!いやむしろ私が恥ずかC−!!!)
最早パニックである。
「?」
「(はっ?!)フェ、フェイタン……」
「……何ね」
「………ありがと、凄い嬉しい………!」
「ハッ。当然よ。ワタシに盗めない物なんてないね」
そう言いながらゆっくりとに近付くフェイタン。
はただ指輪を眺めたまま頬を紅潮させてうっとりとしている。
そんな恋人の様子にフェイタンはまた口角を吊り上げ、ベッドが小さく悲鳴を上げた。
「」
「フェイ……」
「ハピーバースデイ、ね」
「うん、有難う。これ、ずっと大事にするからね」
映し出された影が重なった。
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拍手お礼話よりネタ引用。
↓以下、オマケ
『…昨夜、国立博物館にて行われていた宝石展で盗難事件がありました…
被害に合ったのはスターダスト…警備員や宿直の職員は全て殺されており…
警察では現在、詳しい事を現場に入り捜査中の模様です……』
「……うわ、ニュースになってる」
「…てかフェイタン、お前なぁ」
「何ね」
「何も言わずに出てったかと思えばあんなモン盗んできやがったのか?!」
「が欲しい言うてたからな。それに誕生日も近かたしな、丁度よかたね」
「……お前らほんとバカップル」
「何とでも言うね」
2006/12/23 カルア