「……」 「…クラウド?どした?」 「いや…珍しいと思ってな」 「私が一人でいる事が?」 「ああ」 私がミッドガルを離れて2年が経った。あの街には辛い思い出が多いから、ティファ達と一緒にエッジに戻るという事は選べなかった。あいつがいなくなってもう何年も経つっていうのに、まだ忘れられないのはきっとまだ私があいつを好きだからだ。それは自覚しているし、きっとこの先もあいつ以上に好きになれる男なんていないだろう。あいつは私を恋愛対象として見てはくれなかったし、好きな人がいるっていう事も、あいつの口から直接聞いていた。諦めようと何度も思ったし、他の男を好きになろうとした時期だってあった。それでも私はやっぱりあいつが好きで好きで忘れられなくて、7年経った今でも見事にそれを引きずり続けているのだ。 「……覚えてる?ずーっと前、一緒に任務出た時の事、」 「……あぁ、覚えてる」 「そっか。」 クラウドはあいつと仲が良かったから、私ともそれなりに付き合いはあった。再会した時はそれはそれは嬉かったけど、あの時のクラウドは私の事を忘れていたから、クラウドが本当の記憶を取り戻すまで私はあいつの事は口に出さなかった。エアリスがいたからっていうのもある。エアリスは、あいつの恋人だったから。あいつがいなくなって5年経っても、エアリスはずっとずっとあいつを待っていたから(ソルジャーだった私とはあまり面識がなかったけど、あいつが嬉しそうにエアリスと一緒に撮った写真を見せてくれたから、私はエアリスの事を知っていた。ほんとうに、くるしかったんだ) 「…は、」 「うん、今でも好き。……もういないの、判ってるし、エアリスのこと好きだったのも知ってるから、結局叶う訳なかった恋だけど、ね。でも私、今でもあいつが好きなんだよ、クラウド」 「…オレは」 「知ってるよ。あいつがクラウドを護って死んだって、知ってる」 「……」 「そんな顔しないでよ、別に恨んでる訳じゃない…」 「、」 「ねえクラウド。あいつ今、しあわせかなあ。エアリスと、あえたかなあ」 「……あぁ、会えたよ……きっと、」 「そうだね、会えたよね。」 は星空を見上げながら泣いていた。オレはがザックスを好きだっていう事を知っていたし、ザックスもきっと彼女の想いには気付いていたと思う。でもは、その想いを告げる事をしなかった。ザックスにはエアリスがいたし、何よりが他の誰かを不幸にしてしまうのならこの想いは墓場まで持っていくと言っていたから、ザックスはそれに気付かない振りをしていたんだと思う。記憶を取り戻して初めて思い出したその事には触れなかった。それどころか、昔のオレを知っているという事すら、仲間に告げる事はしなかった。ただ、が泣きながらザックスの最期を聞いてきた時に、オレの中のザックスの記憶は悲鳴を上げた。ザックスはザックスなりに、恋愛対象には成り得かったにしろを大事にしていたのだと言う事に気付いたが、それを言えば彼女はまた泣くだろうから言えなかった。ただ、がオレの…ザックスのバスターソードに指を滑らせながら、ザックスの名前を呼んで静かに泣いていたのを覚えている。 「……今度さ、連れてってよ」 「…何処にだ?」 「ザックスの、墓標。」 「……構わないが…いいのか?」 「いい加減、吹っ切らないとね…忘れられる訳ないんだけど…けじめっていうか、区切りっていうか…ザックスに、さよならって、言いたいし。それと、ありがとうって。」 「…ありがとう?」 「クラウドを護ってくれて、ありがとうって。」 「…なんで、」 「だって、クラウドが生きたから、あいつが命を懸けて生かしたから、私、あいつの最期を知れたんだよ」 「……そうか」 「だから気に病まないでよね」 そう言って笑ったの顔は、何処か悲しそうだった。そういえばはあの頃みたいに無邪気な顔で笑う事をしなくなった。ザックスがいなくなってしまったから心の底から笑えなかったのだと気付いたのは記憶を取り戻してからの事。7年前は一般兵とソルジャーという立場ではあったにせよの同僚であったオレは魔晄中毒の後遺症とはいえその時までの事を忘れてしまっていて、そのせいで何度彼女を傷つけたか判らない(ただ、はそのことをまるで笑い話のように話すからオレは救われている) 「……」 「ん?」 「ザックスは、最期までの事気にかけてたよ」 「………そ、っか…そっか、私を、…っ」 「は笑えてるかな、オレがいなくなってあいつ心配してないかな、って。ずっと言ってた」 「……っ、」 オレよりも少しだけ濃いの魔晄色の瞳から大粒の涙が流れて、はその白くて細い小さな手で顔を覆って俯いた(今まで泣けなかった分の涙が全部流れてるんじゃないかって思うくらい沢山の涙を流したはそれでも笑っていた) 「…あの頃みたいにとは言わない。でも、には笑っていて欲しい」 「……っうん、うん…っ」 「……きっとザックスも、そう思ってる」 「………っ」 きっとこれからも、はザックスを好きでいるんだろう。今は無理でも、いつかまたあの頃みたいな無邪気な笑顔を見せて欲しい。オレはの、あの無邪気で明るい笑顔が好きだったんだ。でもはザックスが好きだったから、オレもと同じように想いを告げる事はできなかった。オレが告白する事でオレ達の関係がおかしくなるのも嫌だったし、何よりもオレはザックスが好きなを好きになったから(ただ彼女が笑っていてくれればオレはそれでよかったんだ) 「……だから、泣くな」 「……っうん」 戦友、仲間、昔の同僚。そんな微妙な関係でもいいから、の傍にいたいと思う。それはオレの望みでもあり最期までを気にかけていたザックスの望みでもある。いつかまた、あの頃みたいな笑顔を見せてくれれば、今はまだそれでいい。 |
月の泪と
盲目の叙事詩
(いつかオレを見て欲しいなんて事は言えやしない。彼を好きなままの彼女でいて欲しいと思うから)
撃沈。スランプ脱出できねえ!