さん」
「やあクラウドおはよう。…トリックオアトリート?」
「あははやっぱりやってますね。はい、こんなのしかないですけど」

休憩室でコーヒー片手にジャックオーランタンの手提げを引っ掻き回しているさんを見つけたので声を掛けた。今日はハロウィンなのできっとさんはオレやザックスあたりに声を掛けて菓子をかき集めているだろうと思っていたので売店で買っておいたパンプキンキャンディをプレゼントした。さっきエレベーターホールでぼろぼろになったザックスに今日はから逃げた方がいい、菓子を用意しておかないと殺されるぞと言われたからだというのは、目の前で無邪気に喜んでいるさんには絶対に内緒だ(言ってしまえばきっとザックスは今度こそ三途の川を渡るハメになってしまう)。

「わー可愛い…クラウドさすが」
「売店ので悪いですけど」
「いやいやザックスなんてガム1枚だったしこれ欲しかったから」
「ガムですか」
「そーよしかもあろう事か太るぞとか言うのよあいつ」
「……それはザックスが悪いですね」
「でしょ?思わず手加減ナシでゴブリンパンチ叩き込んじゃったけど生きてるかしらアイツ」

さんなりに一応悪いと思ってはいるらしいので、ザックスが復活したら謝っていたと伝えておこう(端折りすぎてる気もするが一応悪いと思っているらしいのでよしとする)。さんはキャラメルらしい茶色の物体を口に放り込みながらそう言っていた。

「ところでその衣装黒猫ですか?」
「あ、うん。副社長から頂いたの。もうすぐハロウィンですねーって言ったら次の日くれた」
「……そ、そうですか」

オレは少しばかり神羅に就職してしまった事を後悔した。企業のナンバー2である副社長がいち社員であるさんにあろう事かこんな露出の激しい仮装用衣装を贈るなんて、これは所謂セクハラじゃないのかなと思ったが当のさんはけっこう気に入ってるらしいので、オレが言及するような事じゃない。ただ、副社長といいセフィロスさんといいレノさんといい、けっこうな有名人から好意を寄せられているさんは毎日がけっこう大変そうだと思ったがさんはそれに気付いていないらしい(ザックス談)のでこれはオレの口からは言えない。セフィロスさんやレノさんとは滅多に顔をあわせる事がないオレですら気付いているこの事実に何故さんは気付かないのか、きっとオレのこの疑問は解消される事はないだろう。

「ついでに山のようなお菓子も今朝宅急便で寮に届いたの。ちゃんと日持ちするクッキーとかの類のやつね」
「よかったですね」
「副社長から、っていうだけあって高級店のでね、ほんとに貰っていいのかって確認したくらいよ」

可愛い飴くれたクラウドにもお裾分けね、と言ってさんが差し出したクッキーの包みには確かにミッドガルではそれなりに有名な高級洋菓子店の店名が印刷されていた。寮に戻ったら食べようか、それともせっかくさんから貰ったのだから食べずに取っておこうか、と迷っている内にさんはそろそろレノさんが出勤してくるはずだから、と言い残してタークス執務室へ向かってしまった。結局、クッキーを取っておくことにしたがそのクッキーはザックスに見つかってしまいあっという間に食べられてしまった、と言うのをこの3日後にオレはさんに密告する事になり、マテリア片手のさんから逃げ回るザックスを見ていい気味だと思う事になる。