「ザックスートリックオアトリート!」
「は?お前なんて格好して……って今日ハロウィンか」
「そうそう。トリックオアトリート?」

どうにも眠気が覚めなかったので休憩室に行ってコーヒーでも飲もうかと思って廊下を歩いていたら後ろからの声がかかった。振り返ればはいつものタークスの制服じゃなくて何だか奇妙な、黒猫とも何とも言いがたいような服を着ていた。そういえば今日は10月31日でハロウィンだった事を思い出した。こいつはオレより1つ下とは言え19歳という年齢の割にガキ臭いところがあるのでいつものノリだろうと自己完結したオレはトリックオアトリートと言うにポケットの中に入ったままのガムを1枚だけやった。菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、という意味の言葉なのだからガム1枚とはいえ菓子をやったのだからこれでオレの身の安全は保障されると思っての事だ。

「えーガム1枚ぃ?ザックスのけち」
「ケチってお前な…いきなり言われても用意してねーもん」
「ジェネシスさんとアンジールさんはこんなにくれたのにー……」
「…あの人達こんなに用意してたのか……」

が不機嫌そうにオレに差し出したカボチャの手提げを覗いてみたら溢れんばかりの菓子で埋め尽くされていた。何だかんだでに甘いあの二人はこうなる事を見越していたらしい。そりゃ、そんな大量の菓子を貰った後にガム1枚じゃ不満だろうけどオレは今の今までがこうして菓子を貰いに回っている事なんて知らなかった訳なので無理も無いと思う。

「ザックス、あんた仮にもソルジャーで私より給料貰ってるんだから今からでも遅くないわ、確か八番街の雑貨屋でハロウィン祭りやってたからお菓子買って来て私に頂戴」
「なんでだよ」
「いいじゃない、ザックスと同じソルジャー1stのジェネシスさんとアンジールさんはこんなに用意してくれてるのにあんたはガム1枚とか酷いよ」
「いや意味判んねぇよオレ今月けっこうピンチなんだって」

ガム1枚じゃ不満らしいはあろう事かオレに菓子を買って来いと命令した。今月は何かと出費がかさんでしまったのでぶっちゃけた話けっこうギリギリの生活をしてるオレにとってこの命令はとてもじゃないけど聞けたもんじゃない。ただでさえ今日仕事を終えたらエアリスにハロウィン祝いのケーキでもプレゼントしてやろうかと思っているのだから余計だった。

「ぶー……エアリスちゃんにはプレゼントするくせに。知ってんだからねあんたがケーキ注文してたの」
「は、お前なんで知ってんの」
「タークスのお仕事には彼女の保護と監視も含まれてるんですー」
「……そういや……てかだからってオレがに菓子やる義理も筋合いもなくね?」
「うわサイテー…エアリスちゃんだけよければいいんだ、うーわー……」
「いやいや意味判んねーよあの赤毛に何か貰えばいいだろお前も」
「レノさんは今日も今日とて遅刻ギリギリだと思うのでその前にもらえるだけかき集めたい次第です」
「……お前もお前で最悪だな太るぞ」
「うわ信じられない年頃の女の子に向かって太るぞとか言うか普通?!」

は精一杯背伸びしてオレの襟首を掴んで力いっぱい揺さぶった。そういえばこの間シスネがが太ったって言ってるけど全然そうは見えないのにあの子ダイエットとかしてるのよ、と零していたのを思い出した。どうにもオレは今一番に言ってはいけない言葉を言ってしまったらしい。オレの襟首を掴むの手からは明確な殺意が感じられた。

「ちょ、ま、苦し、」
「ザックスのあほたれ!けちんぼ!これでもくらえ“ゴブリンパーンチ”!」

いつの間にかの左手に握り締められていたマテリア(てきのわざだと思う)はその手の中で輝きを増していた。まずいと思った時には後の祭り、の手加減ナシのゴブリンパンチをモロに食らったオレはその場に倒れ込んでしまった。……エアリスごめん、今日行けるかどうかわかんねぇ。























れな忠