「……はい?」
「だから、その書類をセフィロスに届けてくれと言っている」
「え、なんで私なんですかレノさんとか暇してるじゃないですか」
「レノを行かせるとな、下らない問題を起こすんだ。…理解してくれ」
「……判りました…」

そんなこんなで押し付けられた3冊のファイル。そんなに重くはなかったけど、表紙にトップシークレットなんて書かれてるもんだから緊張しまくりだ。セフィロスはソルジャーフロアのブリーフィングルームだろうから頼むぞ、と書類を押し付けられた私は思い足取りで社内を歩いている。だって気が乗らないんだ。あの銀髪のせいで私の人生は大きく変わってしまった。ここのところ毎日レノさんとルードさんに訓練をつけられてる私はタークスの執務をこなさずとも毎日へとへとだ。それもこれも、元を正せばあの銀髪が私をスラムで拾った挙句タークスに売ったからで、何故その張本人の所へ行かなきゃいけないんだと毒を吐いたがこれも仕事なら仕方ない。せめてザックスがいますようにと呟いてエレベーターに乗り込んだ。

「…えーとブリーフィングルーム…」

初めて降りたソルジャーフロアはタークスの事務室があるフロアとは全然違う作りだった。廊下の案内板を見ながらブリーフィングルームを探す。5分くらいうろうろしてたら、ブリーフィングルームと書かれた扉を見つけたので一回だけため息を吐いてその扉を開けた。

「セフィロスさんいますか?ツォンさんから書類預かってきたんですけど」
「お?おぉ誰かと思ったらじゃん」
「ザックスさん。あの、セフィロスさんいらっしゃいます?」
「あー敬語もさん付けもいらねぇよ。ザックスでいい」
「じゃあザックス、セフィロス知らない?」

ブリーフィングルームの扉を開けたらザックスがいた。イスに座って目の前の端末で何かを調べてたみたいだったから、きっとこれから任務なんだろうと自己完結した。何をしていたのかを聞かないというのはタークスに入って最初にツォンさんに教えられた事だ。ザックスは立ち上がって私の前まで歩いて来ると、持っていた書類をひょいと受け取ってその書類で肩をぽんぽんと叩いた。

「旦那ねー…今さっき総括に呼ばれてどっか行ったけど」
「えええ…」
「此処で待ってれば?そのうち戻ってくると思うし」
「待ってて平気なら待たせてもらう。これ仕事だからセフィロスさんに直接渡さないといけないし」

そう返したらザックスはじゃあ座って座って、とイスを引いて手招きする。ザックスに犬の耳と尻尾が見えたのはきっと幻覚だ。

「そのスーツって事は結局タークス入ったんだ?」
「拒否権なかったもん…強制的に、だよ」
「あららー……」
「体力ないから、ここ最近ずーっと基礎訓練。お蔭で筋肉痛酷くって」
「ついこないだまで一般人だったもんなあ、

でもマテリア扱うのは巧いんだろ?そう聞いてくるザックスの蒼い瞳は好奇心に満ち満ちていた。上位魔法使えたりはするけど発動までに時間がかかるし連発できないからまだまだだよ、と苦笑い交じりに返せばザックスは笑って私の髪をわしわしと撫でた(なんてことするんだ!)

「あぁあせっかくセットしたのに…!」
「あ、スマンスマン」
「…悪いと思ってないでしょ」
「んな事ねぇって」

多分、今一番話しやすい人物はザックスだと思う。タークスの皆は上司と先輩、セフィロスさんにいたってはあんな鬼畜でも命の恩人であり神羅の英雄だから失礼な態度は取れない。でもザックスはとても気さくであっけらかんとしてるから、話しやすい。元々人付き合いが得意な方ではないけど、ザックスは周りを明るくさせる雰囲気を持っているというのはここ数日でよく判った。(そういえば昨日は食堂で女子社員に囲まれていた。)

「でもどーよ?神羅に入ってみて」
「どうって……大変だけどそれなりに楽しいとは思う、よ?」
「そっかそっか。」

とかなんとか話してたら、ブリーフィングルームの扉が開いた。視線を向けたらそこにいたのはセフィロスさんで、私を見て少しばかり驚いたようだった(失礼な人だ)

「お、戻ってきたな」
「……が何故ここにいる」
「ツォンさんから書類預かってきました。セフィロスさんに渡してくれって」
「そうか」

セフィロスさんに書類を手渡したらセフィロスさんは書類を持って見事に私をスルーして一番奥のイスに座った。届けてやった礼もなしかこの英雄は、と思ったけど怖いので口には出さないでおいた。何されるか判ったもんじゃない。兎に角私の仕事はこれで終わりだ。メモにセフィロスさんから受け取りのサインを貰ったのでポケットに仕舞う。(なくしたら大変なんだ)

「では、私はこれで」
「あぁ、ご苦労」
「え、もう戻っちまうの?」
「この後訓練あるんだ。」
「そっか…んじゃ、またな」
「うん、またね」

扉の前でもう一度失礼しましたと頭を下げたらセフィロスさんは書類に目を落としたまま軽く手を振った。ザックスはまたなーと大きな声で言いながら手を大きく振って見送ってくれた。


* * *


「ただいま戻りました」
「おかえり。セフィロスはいたか?」
「えぇ、渡してきました。これ、受け取り印です」
「あぁ、有難う。レノたちが戻るまで休んでいるといい。今日はマテリアの訓練だそうだ」
「はい」

備え付けのコーヒーメーカーからコーヒーを貰って、ソファに座って雑誌を開いた。多分シスネさんが持ってきたファッション雑誌。そういえばスラムにいた頃の私服しかないから、今度休みの時にでも買い物に行こうかなんて考えながらぺらぺらとページを捲る。今年はどうやらエスニックが流行らしい。流行なんて縁のない暮らしをしてたから、雑誌を見てるだけでも楽しかったりする。

「…これ可愛いなー…ワンピにこのニット合わせて…」
にはこっちが似合うと思うぞ、と」
「っひょぁ!?レ、レレレノさん?!」

雑誌に熱中してたらレノさん達が戻ってきた事に気付けなかった。いきなり背後から声が掛かって雑誌を指差されたもんだから私は素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった。レノさんは腹を抱えて笑っていた。そんなに面白い反応でしたか、と膨れ面で言えばルードさんがレノを窘めた。

「それ、シスネが持ってきた雑誌だろ、と」
「あ、えぇ」
「オレが見立ててやろうか?」
「え?」
「服。はチビで童顔だからこういうのが似合うと思うぞ、と」
「あのさりげなく失礼な事言うのやめてもらえませんかレノさん」

レノさんは私から雑誌をひったくった挙句物凄く失礼な事を言ってくれた。チビで童顔なのは生まれつきなんだから仕方ない(化粧でいくらでも化けられるのは内緒)。レノさんが指差したのはエスニック調のAラインワンピだったけど、どうも子供向けな気がしないでもない。……どういうつもりだ。

「本当の事だぞ、と」
「……えぇそりゃ確かにチビで童顔ですけどね…何もそんなはっきり言わなくても…」
「気にするな、いつもの冗談だ」
「うぅうルードさんっていい人…!」

雑誌を捲るレノさんに更に追い討ちをかけられてへこんでいたらルードさんがため息混じりに私の肩を叩いた。お兄さんがいたらこんな感じかな、と思ったけど言わない。そしたらきっとレノさんが悪ノリしてルードさんをからかうから。

「いい人、か…」
「ルードはいつもいい人止まりだな、と」



(落ち込んだりもするけれど、私は元気です)



「…さてと、と。マテリアの使い方はもう覚えたか?」
「えぇ、大体は…あとは慣れだと思います」
「ん、よし。んじゃあこれな、用のマテリアだぞ、と」

手渡されたマテリアは全部で5個。れいき、ほのお、いかづち、かいふく、ちりょうのマテリアだ。どうにも私は魔法使い的ポジションに置かれる事になったらしい。

「こんなに……」
「セフィロスからだぞ、と」
「セフィロスさんから?」
「就職祝いって言ってたぞ、と」

こんなお祝いいりません(本音)…よくよく見ればマテリアはどれも使い込まれていて殆どがマスターレベルだった。もしかしてセフィロスさんが昔使ってたマテリアなのかなとか考えたら寒気がしたけど有難く貰っておく事にした。肉弾戦での勝ち目がない以上、魔法に頼るしかないのだから強い魔法が使えるに越した事はない。

「そんじゃいくぞ、と」
「はい!」
「カームファング3体逝ってみるか、と…」
「その誤字やめて下さいよ縁起でもない!」
「気にするな、と。」

レノさんが失礼なことをのたまった直後、目の前にカームファングが3匹現れた。いくらバーチャルリアリティとはいえ、怖いもんは怖い。ダメージを受ければしっかり現実に反映される。だから実践の空気に慣れるのには手っ取り早いが死んでしまえば現実に戻ったら瀕死の重傷なのでバーチャルリアリティとはいえ命がけだ。殺られる前に殺る、そうじゃなきゃ私の命の危険が危ない。

「弱点は確か炎のはず……っファイラ!」

一回魔法を使えば次使えるまで少しの時間が必要。その間は回避に徹するしかないがまだ戦闘になれていないので少しばかり傷を負うのは仕方がない。炎の直撃を受けて沈んだカームファングの後ろから飛び掛ってきたもう一匹を避けつつ距離を取った。中位魔法なら30秒あれば次が撃てる。その間回避に徹してまた魔法、のヒット&アウェイ戦法が私の戦い方。レノさん達がいれば逃げ回ったりせずに済むんだけど、一人で任務に就いた時を想定しているのでこの戦い方に慣れておかないといけない。命が掛かれば人間なんでも出来るもんだ、とここ数日でしみじみ実感した。回避能力だけはずば抜けて伸びているらしい。

「っ危な!何すんのよ…っくらえ!」

飛び掛ってくるカームファングの背をトンファー(あまり使わないけど緊急回避用としてもらった武器)で打ち、ひるんだ隙に魔法を撃つ。2匹目にも綺麗に決まり、残る一匹も同じようにして仕留めた。…つくづく、人間追い込まれればなんでも出来るもんだと実感する。

「はいお疲れさん、と。」
「伸びが速いな。」
「これで魔法が連発できれば問題ないんだけどな、と」
「今はこれで精一杯ですって…」

この後さらにサハギンやらヘッジホッグパイやらをシバき倒し、いよいよMP尽き果てた私に笑顔でエーテルを差し出すレノさんに少しばかり殺意が芽生えたそんな昼下がり。



(スパルタ教育は辛いとです)