「……何、だこれ」

私は今、自分に宛がわれたロッカーを開いたまま硬直している。なんでかって?ロッカーを開いた瞬間、入れた覚えのない小さな小箱と手紙が目に入ったからさ。









(一体誰がこんな…っていうか女子更衣室のカギと私のロッカーのカギ開けたって事?それってどーなの警備員さんしっかりしてよね…)

タークス執務室の私のデスク。イスに座って腕を組んで、目の前に置いた小箱と手紙を睨む。開ける勇気はない。大きさからして指輪程度の物だろうが、万が一と言う事もある。もし爆弾だったら、開けた瞬間に大爆発、なんて事になりかねないのでその始末に困っている。

「……どうしろっていうの…」
「ん?何だそれは」
「ルードさん…あのですね今朝ロッカーにこれが入ってまして。開けるのも読むのも怖くて始末に困ってまして…どうするべきですかねこれ」

はぁ、とため息を吐いたらルードさんが机に置かれた小箱を覗き込んできたので事情を説明した。ルードさんは少し考え込んだ後携帯を手に取り誰かに電話を始めた。…電話の相手は聞かずとも判る、レノさんだろう。

「…生憎オレはそういう事に疎くてな…今レノを呼んだ」
「あ、えぇ。有難う御座います」
「しかし…恋文とは今時古風な男も居たもんだな」
「恋文って…」

うん、ルードさん貴方も十分古風ですよ、と言いかけた所でバダァアン、と轟音を立てて開かれたドアに私は驚き視線を投げた。そこに居たのはレノさんで、走ってきたのか珍しく息を切らしていた。

「ルードッ!さっきの電話はどういう意味だっ?!」
「レ、レノさん…何をそんなに慌てて、」
!お前ラブレター貰ったんだってな?!」
「や、あの、と、取り合えず落ち着いて下さい…」
「どこのどいつだ?!」

私の肩を掴んで思いっきりがくがくと揺さぶるレノさんに力なく声を掛けるも半分パニック状態のレノさんに私の声は届かないらしい。このままだと私の三半規管が悲鳴を上げてグロッキーしてしまいそうだったので、先輩に対する行為ではないとは思うけども、でもこのままだと私の三半規管はグロッキーしてしまいそうな訳で、言うなればこれはある意味正当防衛な訳で……

「れ、れれれれれのさ、落ち着……ッ」
「どこのどいつだ?!!」
「〜〜〜っサンダーーーーー!」

ビシャァン、と音がしてレノさんの頭上に雷が落ちてレノさんはぷしゅう、と煙を上げて倒れた。ルードさんは何か恐ろしい物を見る目で私を見ているがこれは正当防衛だ。私は何も悪くない。

「はぁ、はぁ……」
「て、手加減くらいしてやれ、…」
「無理ですよあの状況で手加減なんてしてられませんよサンダーだっただけマシだと思ってもらいたいくらいです」
「う……」

レノさんは相変わらず黒煙を立ち上らせながらうめき声を上げている。最下位魔法とはいえ手加減ナシでぶち込んだ割にさすがタークス、生命力は強いらしい(というかレノさんって殺しても死ななそうだ)。

「お、まえなあ…」
「あ、生きてた」
「……ケアルくらい掛けてやれ、

よろよろと立ち上がったレノさんを見て、ルードさんが同情いっぱいの目で私の肩に手を置きながら言うから仕方なくケアルを掛けてあげた(レノさんの目が怖かったけど私は何も悪くない)。すっかり元気になったレノさんはさっきので懲りたのか、私から少し距離をとってスーツを直していた。

「……で、どこのどいつがにラブレターなんかよこしたんだ、と」
「判りませんよ開けてないんですから…机の上にありますけど」

レノさんは私の机に置かれた封筒と小箱を手に取ってまじまじと眺め始めた。さして怪しい物でもないし、小箱も重い訳でもないから開けても危険はなさそうだけど、中身が爆弾とは限らない。もしかしたら開けた瞬間毒ガスが噴出してきたりするかもしれないし、手紙にだって毒を仕込む事は出来る訳なので、開けるに開けられなかったその小箱をレノさんは何の躊躇いもなく開けた(命知らずだということは黙っておこう)

「れっレノさん何やってんですか!」
「何って…開けただけだぞ、と」
「毒とか!爆弾とかだったらどうするんですかもう!」
「平気みたいだぞ、と……」

レノさんの手の中の小箱には指輪が一つ。見た目からして高価そうな、綺麗なダイヤの指輪だった(私の給料何か月分だろうって勢いで高そうだった)。私とレノさんとルードさんは、箱の中に視線を落としたまましばし固まった。

「……なんか…高そうですねえ」
「…ダイヤだな、と……」
「……うむ」

室内の照明を受けてきらきらと輝くそれは最近話題になっているらしいジュエリーショップの物で、買おうとすれば60万ギルはするというえらく高価なものだそうだ(レノさんが言っていた事だから多分本当)。なんでそんな指輪が私のロッカーに、と思っていたらレノさんが今度は手紙を開ける。真っ白な便箋に几帳面そうな字で寒気がするくらいの言葉がつらつらと並んでいた。……ぶっちゃけ最初の1行だけで読む気がうせたのは内緒の話だ。

「えーと何々……『君をいつも見守っています。タークスという危険な部署に所属している君を護ってくれるように願いを込めた指輪を贈ります…いつかもっと高価な指輪を愛する君に贈ります』」
「……吐き気が…」
「安心しろ、オレもだぞ、と」
「…差出人は…書いていないな」
「意味ないじゃん」

そして差出人は不明だった(余計気色悪い)。げんなりとする私とは対照的にレノさんは何故か怒っているようだった。…貴方が怒ってどうするんですか。

「……レノさん?」

おっかなびっくり声を掛けたら、レノさんは手に持っていた手紙をぐしゃりと握りつぶしびりびりに破いてゴミ箱に勢い良く投げ込んだ(私の手紙なのにと思ったが有難かったので心の中で拍手を送っておいた)

「…いい度胸してんな、と…」
「……え?レノさん?ちょっと、」
「タークスにラブレターなんざ前代未聞だぞ、と……」

やっぱり怒っていたらしいレノさんの背後に黒いオーラが見えたのは気のせいだと思いたい。ルードさんが止めるのも聞かずレノさんが執務室を出て行ってしまったので、私とルードさんは取り残された。

「ル、ルードさんどうしましょう…レノさん何でか怒ってますよ…!」
「そうだな…(どうして怒っているのか気付いてやれ、…)」
「そうだなじゃなくて…!」
「気が済めば戻って来るだろう。面倒ごとは御免だ」
「……いいのかなぁ」

ルードさんは面倒は御免だと言い捨ててソファに座り込んでしまった。私は追いかけるべきかここにいるべきかで迷ったが今出歩くのは怖い。手紙の差出人が不明な以上、出歩くのは怖い。いくら私がタークスだからといって、はっきり言って戦闘能力はない。差出人が社員の誰かだとして、戦闘訓練をつんでいない一般人に魔法を使ってしまえば命の危険が危ないと言う事は常日頃ツォンさんに言われているので、私の自衛手段はないに等しいからだ。レノさんの気が済んで戻ってくるのを待つしかないらしい。

「……はぁ」
「(気付くのはいつになるやら、だな…)」



(野良猫さんは人気者らしい。)



「…遅いですねレノさん」
「…あぁ、そうだな…」

3時間経ってもレノさんは戻って来なかった。いくら神羅ビルが広くて社員が沢山いるとはいえ、流石に3時間戻ってこないのはおかしい。一体レノさんは何をしてるのかと思っていたらポケットの中の携帯がピリリリと無機質な音を立てた。液晶にはシスネさんの名前。なんだろうと思って電話を取った。

「はい、です」
?レノ、何かあったの?なんだか凄い剣幕で走ってったんだけど』
「え、あー話すと長くなりますので、とりあえず執務室に来て頂けますか」
『…判った、すぐ行くわ』

シスネさんの声にかぶさってレノさんの怒声や何かが壊れる音がしたのは聞かないフリをしておいた(だって怖いもん)。電話を切ってため息を一つ、ルードさんも私に釣られてため息を吐いていた。

「…何がレノさんを駆り立ててるんでしょうねえ…」
「さぁな…(成程、あのレノが苦労する訳だ)」

今回のこの騒動がツォンさんの耳に入りませんように、と祈ってみたがきっとバレてる事だろう。電話越しに聞こえた轟音はかなり大きかったので、下手したら部屋一つくらいはぶっ壊れてるかもしれない。始末書の一つや二つは当然として、またそれを私がやるのかと思うと寒気がしたので、もしそうなったら全力で逃げようと決心した。

!一体何がどうなってるの?」
「あ、シスネさん」

とかなんとか思っていたらシスネさんが執務室に飛び込んできたので、淹れておいたコーヒーを差し出した。シスネさんはカップを受け取ってルードさんの隣に腰を降ろしたので、私は二人の向かいに座ってまた深くため息を吐いた。

「…あのですね、今朝出勤してきましたらロッカーの中に手紙と小箱がありまして…手紙はレノさんが破って捨てちゃったんですけど、小箱にこんなものが入っててですね」
「………これってあれよね?最近話題の…」
「私よく判りませんけど…レノさん曰くかなり高価な物らしいですね?」
「この間発表されたばかりの新作よ?!確か定価69万9800ギル!」
「げ」

そんな高いのかー!と驚く私を横目にシスネさんは指輪を手にとりまじまじとそれを眺めていた。時折照明に透かしてみたり、台座や宝石を眺めてみたり、と。私には宝石の価値なんて判らないし、宝石を持てる程品位のある人間でもないのでそういう貴金属類には一切の興味がない。この指輪も所詮ニセモノか安物だろうと思っていたらその破格の値段に思わず目玉が飛び出そうになった。

「……間違いなく本物ね、ほら見て、ここに店名の刻印が入ってる」
「…ほ、本物……」
「…これ、誰から?」
「判らないんですよーだから気色悪くって…一緒にあった手紙も、その…ねぇ?」
「あぁ…」

出来ればあんな吐き気がする言葉が並べられた手紙の事なんて宇宙の彼方に葬り去ってしまいたかったけど、シスネさんはゴミ箱からさっきレノさんが破り捨てたその手紙を持ってきてテーブルの上で繋ぎ合わせ始めた(かなり細かいパーツに別れてたけど、どうもシスネさんはパズルの類が得意らしくそう時間は掛からず復元されてしまった)

「……何これ気色悪いわね…」
「でしょう?!しかも差出人不明なんですよ?!」
「……差出人不明なのにこの指輪?」
「そうなんですよ…」

ところどころ欠けてはいるものの読むに困らない程に復元された手紙を読んだシスネさんが同情たっぷりといった目で私を見ながらため息を吐いた。…全く今日は災難だ。

「…それで、レノはこれを見て飛び出してったって訳?」
「そうなんですよ…なんか、タークスにラブレターなんざ前代未聞だーとかって…」
「そうなの…(この分だと気付いてないわね、)」
「(あぁ、気付いていないな。全く哀れだ)」

シスネさんとルードさんは目を見合わせて頷き合ってたけど私には意味が判らなかった。


* * *


ポケットの中の携帯がまた音を立てたので取り出してみた。液晶にはザックスと表示されている。いつもメールなのに電話とは珍しい事もあるもんだと思いながら電話を取ったら開口一発叫ばれた(何だって言うんだ!)

!お前一体何したんだよ?!」
「え?いやいや話が掴めないんだけどどうしたのザックス」
「どうしたも何も!さっきタークスの赤毛が来て…お前指輪とラブレター貰ったんだって?」
「え、あ…レノさんソルジャーフロアにまで行ったのか…そうだけど、それが?」
「旦那の耳に入って大変な事になってんだよ!何とかしろ!」
「……セフィロスさんが?なんで?」
「オレが知るか!兎に角今すぐソルジャーフロアまで上がって来い!」
「え、あ、ちょ…」

言い返す前に電話を切られてしまったので、ルードさんとシスネさんにソルジャーフロアまで呼び出し食らいました、と言って執務室を出た。何かあった時の為に、袖の中にトンファーを仕込んで。……っていうかなんでセフィロスさんまで怒るんだ。今日は判らない事だらけだ。

「……ザックスー…いるー?」
「あ、来た!」
「……いやあの話が全く掴めないんだけどなんでセフィロスさんまで怒るの?」

ソルジャーフロアのブリーフィングルームに入ったらえらく慌てた様子のザックスと、ザックスとは対照的にやけに落ち着いたアンジールさんとジェネシスさんがいた。……わー人気者勢ぞろい★とか考えられるあたり大分思考回路が鈍っているらしい。

「いや…なぁ?」
「…がラブレターを貰ったと聞いて」
「正宗に手を掛けたままどこかへ行ってしまったんだ」
「……何やってんだ皆して…!」

3人から事情説明を受けた私は今度こそ現実逃避をしたくなった。レノさんに加えてあのセフィロスさんまでが暴走したとあっては私の力ではどうも止められそうにない。これは自然に収まるのを待つしかないかと思ったが、なんであの二人は私がラブレターを貰ったというくらいで此処まで怒るのだろうかと素直な疑問が頭に浮かんできた。

「…っていうか、レノさんもセフィロスさんもなんでそんなに怒ってるの?」
「……え、お前気付いてない訳?マジ?」
「…だから何が?」
「……同情するな、タークスの彼に」
「あぁ、そうだな」

私のその言葉に3人は目を見合わせてため息を吐いた。だって本当にわからないんだから仕方ないじゃないか。

「ザックス何か知ってるなら教えてよ」
「いやオレが言ってもなぁ。本人に聞けば?」
「えぇえええこの状況でそれ言う?!ねぇ!」

頼むから教えてくれと詰め寄ったが3人は顔を見合わせて意地の悪い笑みを浮かべるだけで何も答えてくれなかった(なんでだよ!)……レノさんもセフィロスさんも何考えてるんだろう。この一連の騒動の原因が私にあるとか判っちゃったら私クビになるんじゃないかな、とか怖い考えが浮かんできたので慌ててそれを打ち消した。冗談じゃない。

「セフィロスはあれだろうな、を妹のように思っている所もあるからな…。何かと気に掛けている妹が何処の馬の骨とも判らん男からそんな物を貰ったと聞いて居ても立ってもいられなかったんだろう」
「アンジールさん、それ全然嬉しくないです」

指輪はさておき、ラブレターの一つや二つ貰ったくらいで正宗に手を掛けて犯人探しに社内徘徊するって怖すぎます。ていうかレノさんはここに来て一体何を言い残して去って行ったのか……気になる。嫌な予感がするけれど気になる。

「…あの、レノさんここで何を言ってったんですか」
「何って…なぁ」
「「あぁ…」」
「いやいやそこ3人だけで納得してないで教えて下さいよほんと今日意味判らない事だらけなんですよ私」

そう詰め寄る私に観念したのか、はたまた暴走している英雄さんが怖いのか、ザックスは頭をかりかりと掻きながら言葉を選ぶようにして口を開いた。…私に聞かれてマズい事を言い残して行ったんか、レノさんは。

「あー…のな?アイツが言うには…その、ウチの新人にラブレターとバカ高い指輪を寄越した命知らずがいるんだが知らないか、って事なんだけど、」
「運悪く、セフィロスが居合わせていてな」
「それを聞いた直後に正宗を持ってどこかへ行ってしまったんだ」
「……何してんだよほんとに……!」

余りにも予想通りのその答えに思わず本音が出た。出来ればその下らない情熱を仕事にも向けてもらいたいと思った。

「…とりあえず…執務室、戻るわ…」
「気ぃ付けてけよ」
「はいよ…」

一気に気が抜けた私は肩を落としてブリーフィングルームを後にした。

「…ザックスが言う通り随分天然な子だな」
「普通気付くよなあ」
「あぁ。今回ばかりは同情するよ」
「言えねーよなーアイツ気付いてねーんだもん。」
「そうだな、オレ達が出る幕ではないな」

そんな3人の会話はもちろん私の耳には届かなかった。



(天然は時として罪になる)



「ただいま戻りましたー……」
「お帰りなさい、
「うぅう、なんか大変な事になってます助けて下さい…!」
「何があったの?」
「セフィロスさんまで犯人探しに行ったらしいです…私じゃもうどうもできません…」
「あら…」

いや、あら、じゃないですよシスネさん。これが社長の耳にでも入ったら私クビだけで済むか危うい所なんですよ。本日何度目かのため息を吐いた所でツォンさんが執務室に入ってきた(仕事から帰って来たばかりらしいツォンさんは少しばかり疲れていたようだった)

「…?どうかしたか、
「…ツォンさん、おかえりなさい……」
「元気がないな…何か悪い物でも食べたか?」
「何でそうなるんですか」

私は一体ツォンさんにどういう認識を持たれているんだ。即座に突っ込みを入れたらシスネさんが苦笑い交じりに事情を説明し始めた。

「……っていう訳。レノとセフィロスはその犯人探し中で、張本人のは事態収拾が出来ないって嘆いてる」
「……指輪?」

一通りの説明が終わった所で、ツォンさんは何か思い当たる節があったらしく、顎に掛けていた手を下ろしながら私の方を向いた。

、その指輪というのは?」
「え、これですけど…ツォンさん、心当たりでもあるんですか」
「……………あぁ、これだ。間違いないな」
「え?」

私から指輪を受け取ったツォンさんは何かを調べるようにリングの内側を観察して小さく声を漏らした。何が間違いないんですか、と聞けば彼は言いたくないと言った顔で私を見るが私としては真犯人が誰なのか知りたいし、何よりレノさんとセフィロスさんの暴走を止めるのが先決なので、ここでしらばっくれても絶対聞き出してやると意気込んだ。

「……いや……シスネ、ルード。すまないが少し席を外してくれないか」
「…?判りました」

大げさにも人払いをして、執務室の扉が閉まって人の気配がなくなったところでツォンさんはやけに真剣な目で私を見た。…シスネさんとルードさんにすら聞かれたら不味い話なのかなと緊張したが、ツォンさんの口から出た言葉に私は驚きを隠せなかった。

「……これは私が副社長に頼まれて購入してきたものだ」
「………はい?」

副社長?副社長って、どこの?…いや此処のか。って待て待て待て。なんでツォンさんが副社長に頼まれて買った指輪が私の手元にあるんだ?いやいやそこに結びつけるには安直過ぎるっていうか余りにも畏れ多いだろツォンさん吐くならもうちょっとマシな嘘をですね、

「嘘ではない。シリアルナンバーが一致している」
「……えぇぇぇええ?」
「…珍しい事もあるものだと思ったが…まさかにとは……」

いやいや。待とう?私、一度も副社長にお会いした事なんてないんですが?第一こんな高価な物、貰える訳がない。只でさえ匿名でこんなものを贈られて困惑しているというのに、この上差出人は神羅の副社長・ルーファウス神羅さんだと?……頼むから夢なら醒めてくれ。

「い、いやいや私副社長にお会いした事ないんですけど?それがどうして…」
「副社長はのトレーニング中の様子をよくモニターで見ていらした」
「は?」

えええ、覗きかよ。と思わず言いかけたが飲み込んだ。こんな暴言吐いてしまえばクビは間違いないからだ。ツォンさんは申し訳なさそうな顔で私を見つつ言葉を続けた。

「最初はあのセフィロスの推薦と言う事で単純に興味を持たれただけらしいが……その、副社長曰く、“強くなろうと懸命な姿に心を打たれた”らしく……」
「…し、知らなかった…!」
「まさか、この指輪をに贈るつもりだとは思わなかった」

ツォンさんはため息を一つ吐くと私に指輪を返した。…つまりはこの指輪とラブレターの差出人は副社長で、何をどう間違えたのか彼は私を気に掛けているらしい。……これはレノさんとセフィロスさんには言えないなと聞かなかった事にして心の中に封印しておく事にした。

「…そ、そうですか…」
「…兎に角、着けなくてもいいから指輪は受け取ってくれ。さもないと私が副社長にお叱りを受ける」
「……はい……あの、レノさんとセフィロスさんには」
「言う訳がないだろう。セフィロスはともかくとしてレノに言ってしまえばどうなるか、にだって予想は付くだろう?優秀な人材を失うのは惜しいからな。も黙っておいてくれ」
「勿論ですよ」

結局、この騒動の真犯人を知るのは私とツォンさんだけで、この真犯人の名前はトップシークレットという事にされた。レノさんが犯人見つからねぇ!と怒って電話をしてきたが、見つからなくて当然だ。その真犯人であるルーファウス神羅副社長は、現在出張中でミッドガルにはいないのだから。……この日を境に、私が副社長の身辺警護をよく言いつけられる事になり、それに不機嫌になるレノさんをルードさんが宥めているという光景がタークス執務室でよく見受けられる事になったのは、また別の話だ。