「レノさん何やってんですかここ執務室ですよ」
いつもみたいに朝出勤したら、レノさんがケープ被って髪の毛を染めていた。この人こんな朝っぱらから何してんの、と思って声を掛ければおでこを染料で真っ赤に染めたレノさんが振り返った。レノさんは髪の毛を染めるのがヘタクソらしい。
「おーいいとこ来たな、と。手伝え」
「えええ、美容院行って染めてくればいいじゃないですかなんで私が」
「美容院行ってる暇もないしな、金もったいねーだろ、と」
そう言いながらレノさんは鏡を覗き込んで染料を髪に塗りたくっている。レノさんのあの赤毛が地毛じゃなくて実は染めていると言う事実をたった今知った訳だけど、そういえば眉毛は茶色いなぁと思った。という事はレノさんの地毛は茶色いんだろうか、せめてブリーチしてから色乗せすれば綺麗に紅く染まるのに、レノさんは伸びた部分にそのまま染料を塗っているものだから巧く染まらないらしかった。外見には気を使っているように見えても実は無頓着らしい。
「…レノさん、伸びた所ブリーチしないと巧く色乗りませんよ」
「え。マジか」
「……だから最近根元のあたり色おかしかったんですね、私てっきり地毛だとばかり思ってたんで疑問だったんですよ」
この間ザックスからセフィロスさんの綺麗な銀髪は地毛らしいと聞いたから、どうしてレノさんは髪の毛が紅いのに根元だけ赤茶けてるんだろうと思ってた疑問は一応これで解消された。元が茶髪なら色素を抜かずその上から紅を乗せたら汚くなるって予想くらい、つきそうなものだけど。ため息を吐いたらレノさんは染料がたっぷりとついたブラシを置いて振り返った。
「んじゃあ、ブリーチ剤と赤い染料買って来てくれよ、と」
「嫌ですよなんで私が行くんですか用意してないレノさんが悪いんでしょう」
「オレこんな状況だし、行けねぇだろ」
「いやそりゃそうですけどね」
「確か売店に売ってたし頼むぞ、と。」
「……はぁ、判りましたよコーヒー一本で手を打ちましょう」
結局、売店に行けと遠回しに言ってそっぽを向いてしまったレノさんに深くため息を吐いて私は執務室を出て売店に向かった。といってもブリーチ剤なんて使ったことがないからどれを選んでいいのかも判らないが、まぁ私が使う訳ではないのでこの際どれだっていいだろうという事はレノさんには内緒だ。結局、ウルトラメガブリーチ〜15分でプラチナブロンド〜と銘打たれたブリーチ剤と赤い染料を購入した。合計1480ギル、後で返して貰わないと。給料日前にこの出費は痛すぎる。
「買ってきましたけどー」
.執務室に戻ったらレノさんがドライヤーで頭を乾かしていた。脱色しなきゃいけないから、執務室の隣にあるシャワールームで一度染料を落としたらしい。ワイシャツにスラックスという至ってシンプルな格好のレノさんは私の手に持たれたビニール袋を受け取ると換気の為に窓を開けてソファに座り込んでさっきまで使っていたケープを被った。……どうやら染めろと言う事らしい。
「んじゃ、頼むぞ、と」
「えええ、私髪の毛染めたことないですよ。変になっても知りませんよ?」
「オレがやるよかマシだろ、と」
「……判りましたよやりますよ。やればいいんでしょうやれば」
結局、ソファに座り込んで動かないレノさんに根負けした私はレノさんの髪の毛を染め始めた。ブリーチ剤独特の刺激臭が執務室に充満して少しばかり気分が悪くなる。こんなもの使って髪の毛痛めて何が楽しいんだろうと思ったのは内緒だ。
「……えーとこれで15分放置、ですね。色が抜けたら次は赤いのやりますから」
「おう」
レノさんの髪は襟足だけ長いから、全部塗るのに20分掛かってしまった。ムラが出たら出たで、さっき変になっても知らないと断った上で頼まれた以上文句は言わせない。文句言おうもんならサンダーを落としてやろうと密かに決意した。
「……っていうか何で染めてるんですか、髪の毛。痛むのに」
「あー…知りたいか?と」
「そりゃ、疑問ですし」
「血。目立たねーだろ」
「………そ、そうですね」
聞かなきゃよかった。要するに茶色いままだと返り血が目立つから少しでも目立たないように髪の毛を赤くしているらしい(魔法をメインに闘う私には理解しがたいバイオレンスな世界だ)。そういえばルードさんがレノは魔法が苦手だからどうしても実力行使になる、と言っていたことを思い出した。確かに仕事から戻ってきたレノさんのナイトスティックはいつも血だらけだった。……そういえば来週確かレノさんと仕事の予定が入っていたなぁ、しかもモンスター駆除だか何だかだったなぁ、とか思い出したけどそれは頭の隅に追いやった。今からそんなこと考えたくない。
「は染めてねーんだな、と」
「痛むの嫌ですから。地毛のままですよ」
「……染めんなよ、せっかく綺麗な髪の毛してんだからな、と」
「……染めませんよ、痛むの嫌って言ったでしょう」
レノさんが私の髪に指を通しながらそんなことを言うもんだから気恥ずかしくなって視線を逸らした。レノさんが綺麗だと言ってくれるなら、染めないでこのまま伸ばしてみようかな、と思った事は誰にも言えやしない。
赤
に
破壊された瞳
(気付かない内に堕ちていた)