「莫迦じゃないですか」
「……なんでお前がここにいるんだよ、と…」

今私の目の前にはレノさんがいる。満身創痍で、髪の毛だけじゃなくって真っ黒いスーツも真っ白いワイシャツも紅く染まったレノさんが。大半は返り血なんだろうけど、それでも目の前のレノさんは傷だらけで冷たいコンクリートにぺたりと座り込んでいる。私はそんなレノさんの目の前1メートルにただ突っ立っている。レノさんが此処まで怪我をする事は珍しい事で、少しばかり足りていない私の頭、つまるところ思考回路が巧く働いていないのだ。

「レノさんの反応が、なかったので、探してました」
「…泣きそうだぞ、お前」
「レノさん、の 携帯、GPS、動かなくて。キツい仕事だ、って ツォンさんが言ってました、し」
「…死んだとでも?」
「……っ先輩、の…心配 したら、いけませんか」
「いや……嬉しい限りだぞ、と…、探してくれてありがとな」

レノさんはそう言いながら少しだけ情けない顔で笑った。私は涙腺が壊れたみたいにただ泣いていた。時々苦しげに眉を顰めて全身を走る痛みに声を漏らしていてもそれでもレノさんが生きていたという事実は嬉しくてそれがまた私の涙腺からこぼれる涙の量を増やしているらしかった。

「…レノ、さ…っ」
「死なねぇって 言っただろ」
「よか、った…!」

力なく伸ばされたレノさんの血まみれの手を何の躊躇もなく握り返した。べちゃりと嫌な感触がしたけれどそんなこと今はどうだっていい。触れた手は暖かく小さく鼓動が伝わってきた。レノさんは、生きている。私の目の前で、そのきれいな蒼い瞳に私を映して。

「…怪我した、だけで…こんなに、泣いてんだ…オレが死んだら、 、壊れ、ちまう だろ」
「れの、さ…っだ、って、私…っ」
「…怪我くらい…すぐ、治る…もう、泣くなよ、と…」

レノさんの手が私の涙を拭って頬を滑る。生暖かい感触が頬を伝って、私の頬は紅に染まった。鼻をつく錆びた鉄の匂いは嫌いだけど、レノさんの血なら嫌じゃない。頬を滑るレノさんの手を握り締めたらレノさんは笑った。

「…いい加減、痛ぇんだけど、な っと…ケアル、かけてくんね?」
「……っご、ごめ なさ……」

ケアルを掛けたら、完全ではないとはいえ一応傷は塞がったらしく、レノさんは立ち上がった。いくら傷が癒えたとはいえ、私の未熟な魔法じゃ失った血液までは戻せない。急性貧血を起こして倒れそうになったレノさんは壁に手を着いて頭を振っていた。

「…ごめんなさい、血までは、戻せないんです…」
「いや、こんなん会社戻って輸血で話は済むことだぞ、と…」
「レノさ…!まだ、ダメです、休まないと、」
「あぁ…ちっと動けそうにねぇな……、膝貸せ」
「ひ、ざ…ですか?」
「いいから、座れ。」

言われるまま冷たいコンクリートに座り込んだらレノさんは私の膝に頭を預けて瞳を閉じた。一瞬、最悪の事態が頭を過ぎったけど次の瞬間レノさんの寝息が聞こえてきたので私は安堵のため息を吐いた。要するに、今私はレノさんに膝枕をしている。これがこんな路地裏の冷たいコンクリートの上じゃなくって暖かいリビングのソファの上なら、二人ともこんな血まみれじゃなかったらきっと微笑ましい光景なんだろうなと思いながら私はレノさんを起こさないように携帯を取り出してツォンさんにメールを打ち始めた。
























を差しべて


(生きるも死ぬも君次第)