「レノさん、昨日また違う女性と歩いてましたねっていうかそれはあれですか、キスマークですかまたですかいやらしいはいホットタオル。さっさと消してください見苦しい」

はオレを軽蔑しきったような目で見上げながらそんなことを言ってホットタオルを差し出した。なんでがいきなりそんな事を言い出すのかと思えば、そういえば昨日はホワイトデーだったから、バレンタインに手作りショコラなんて嬉しい物(まぁ当然義理だった訳だけども)をくれたに、まぁそれなりに高価なピアスをやったのを思い出した。要は、オレがにそれなりに高価な(といっても5万ギルの)ピアスをやったくせ、オレがその日の夜に他の女と一緒に歩いていたというのが気に入らないらしい目の前のこの可愛すぎる後輩は、薄い琥珀色の瞳に僅かばかりの殺気と明らかな怒りを宿してオレを映していた。しかもその手には彼女愛用のトンファーが握り締められていて、そのトンファーにセットされたマテリアは淡い輝きを宿していたもんだから、オレは慌てた(だっての魔法なんて食らっちまった日にはオレは確実に3日は生死の境を彷徨うハメになる)。

「え、あ、いや、?」
「何ですかっていうかあれですね私にあんな事言っておきながらそういう事よく平気で出来ますねシスネさんが女の敵って言ってましたけど本当ですね最低ですレノさん」

は一度も区切る事なく、オレから視線を外す事もなくすっぱりとそう言い捨てると、かちゃりと音を立ててオレにトンファーを向けた。愛用のそのトンファーは、魔法を銃弾として撃ち出す事の出来る少々特殊な武器(兵器開発部門の最新作らしい)で、その威力はの手から放たれる魔法と大差ない、と言うよりは圧縮されている分トンファーから打たれる魔法弾の方が威力が高いという事実をオレは良く知っているのでオレはまたも焦った。

「あ、あんな事って何の事だよ、っと…ってか物騒だからそんなもん仕舞おう?な?、」
「レノさんが遊び人だっていう事は知ってましたし私が言及する事でもないでしょうけどね、だからって期待を持たせるような事言わないで下さい。私だって年頃の女性なんです。いくらレノさんとはいえ、好意を持たれているような発言をされて嫌な訳がないでしょう、それなのにあなたってひとは…!」

がちゃこん、と不吉な音を立てて、のトンファーに魔法弾が充填された。オレは思わず一歩身を引いて、昨日ピアスを渡した時ににうっかり言ってしまった事を思い出して盛大に後悔した。


『ほれ、これバレンタインのお返しだぞ、っと』
『へ?…え、えぇ?!こ、こんな高いの貰えません!』
『なぁに言ってんの、気になってしょーがねぇ可愛い可愛い後輩から手作りショコラなんて嬉しすぎるモン貰ったんだから当然だろ、っと』
『………へ?』
『……(やべっ)い、いや別に何でもないぞ、っと』



あぁ本当にオレは莫迦か。告白も当然な台詞を吐いておきながらの応えも聞かずに帰路に着いて、あろう事かオレはバレンタインの時にと同じようにオレにチョコを寄越した受付の子(名前も知らないし興味もないが美人だと社内で好評の女だった)と一緒に、まぁ一晩過ごしてしまった訳だ。んで、朝起きてみたらシスネから茶化すようなメール(の顔が真っ赤だった、とか、ピアスを嬉しそうに眺めてたけどあれはレノから?、とかそんな内容だった気がする)が届いてて。やっべ、と思った時にはもう出社時刻、身支度もそこそこに隣で寝てる女をほったらかしにしたまま慌てて出社してみればこの有様だ。兎に角、今オレの目の前にいらっしゃる阿修羅も真っ青になるであろう程の怒りを露にしたは、オレにトンファーを向けたままうっすらとその瞳に涙を浮かべていた。

「や、あの、ご、ごめんな?
「謝ってくれなくても別にいいです。レノさんが嘘つきだっていう事は知ってますし期待した私が莫迦だっただけですから。でもせめて、一発だけでいいので撃たせてくださいこのままだと私の気が晴れません」

の手が激鉄に掛かったのを見てオレはいよいよ本気で焦った。明日からどうしても外せない仕事が入っているので今この場で再起不能になるという最悪の事態だけはなんとかして避けたい、そしての誤解もなんとか解きたい。最善策は何かと回らない頭で必死に考えてみたがいい考えは浮かんでこなかった。

「ま、待て待て待て!頼むから待って!」
「いやです。私の気が晴れませんっていうかこのままだと号泣してる情けない姿を見られてしまいそうなので、それだけはイヤなので申し訳ないですが暫く気絶しててください大丈夫ですいくら私でも先輩を手に掛けるような事はしませんちゃんと手加減しますから」
!ごめんって!」
「知りませんっていうか自業自得って言葉ご存知ですか。兎に角泣いてるとこ見られたくないので、失礼しま「好きなんだ!」……はぁ?」

莫迦かオレは。なんだってこんな状況でオレはに告白なんてしてんだ?目の前のはトンファーをオレに向けたままその先端に魔法を宿らせて情けない声を上げて間の抜けた顔でオレを見た。予想外なのはオレだって同じ、兎に角オレは最悪の状況、凡そ女が望むような甘い雰囲気なんかじゃなくって下手をすれば命を失いかねないそんな危険な状況でに想いの丈を叫んでいたらしかった。目の前のの顔は真っ赤だった。

「……ッ」
「だ、だから…好きなんだ、その、お前の事がだな、」
「……っ今の状況で言われてもですね信用に足らないと言うか命乞いにしか聞こえないというかですね、まぁとにかく信用出来る様な言葉じゃない事だけは確かなんですけど、」
、頼むから聞い「レノさん、私もレノさんが好きですよ」……お、おう、」

は目に涙を浮かべたまま、はっきりと嬉しそうな顔で笑ったからきっと流れた涙は嬉し涙なんだろうと都合よく自己完結した。オレはどうやら、こんな命の危機的状況に置かれているたった今、半年以上も想い続けた鈍すぎる後輩と漸く想いを通わせられたらしい。全く、こいつと付き合うのは大変そうだがそこは年上として先輩として、このじゃじゃ馬娘の手綱を巧く握ってやらなければいけないなと密かに決意した事は、今目の前で顔を真っ赤にして涙を流しながら笑っているには言わないでおく。










い訳に