「……姉さんどこいくの」 「どこって…仕事よ、おしごと」 「僕を置いて?」 夕方4時、私が現在働いている店、まぁつまるところティファが経営するセブンスヘブンな訳なんだけれども、出勤の為に家を出ようとしたらカダージュは私のスカートの裾を掴んで拗ねたような声を上げた。…どうしろっていうのよ。 「置いて、って…だってお仕事休めないし」 「僕も行「ダメに決まってんでしょ大人しく待ってなさいちゃんと帰って来るから」……絶対に?絶対に帰って来る?」 「はいはい。帰ってきますよ。ちゃんとお家で大人しく待っててちょうだいな、ご飯は冷蔵庫の中に冷製パスタがあるから食べてね」 「…判った、待ってるよ、早く帰ってきてね姉さん」 連れてなんて行けるか。ティファならまだしも(いやそれでも問題山積みな訳だけど見つかったとして一番マトモな対応をしてくれるのは多分ティファだろう)クラウドがいた日にはあの日のバトルが再現されてしまう事は容易に想像が付きすぎたので、子猫のような瞳で私を見上げるカダージュには申し訳ないが大人しく留守番しておいて貰う事にした。いくら私がそれなりに闘えるとはいえクラウドとカダージュのマジゲンカを止められるだけの力量は確実にない。私の非力な腕ではガンブレードを持った所でクラウドに剣で勝つ事は出来ないし、カダージュにだって勝てる見込みも当然ない。(魔法を全力で叩き込めばなんとかなるかもしれないが、星を救う旅の途中モンスターに向けて撃った魔法があろう事か間違ってクラウドに命中してしまい、彼が3日3晩寝込んだ挙句再起不能になりかけてしまった過去があるので自粛しているというのが本音だ。) 「うん、判った。行って来るね、カダージュ」 笑ってそう言えばカダージュは寂しそうな、でもはっきりとした笑顔を浮かべて私に手を振った。扉を閉めて鍵を掛けて、莫迦ルーファウスから貰った(ぶんどったとも言うが)ハーディディトナにまたがってエンジンを掛けた。 「はよざいやーっす」 「おはよう、今日も元気ねー」 「ははは……」 セブンスヘブンに到着したらティファはもう開店の準備を始めていた。時計を見れば午後5時を少し過ぎたあたり、開店まで1時間を切っていた。そんなに長い間カダージュに構っていたのかと思うと少しばかりため息が漏れた(ティファはそれに気付かなかった)。 「っていうかどうしたの?今日、少し遅くない?珍しい」 「あーちょっとね…寝癖直んなくてさ」 「……?そう?まぁいいわ、時間がないから料理の下ごしらえお願いね」 「へーい」 いくらか疑問は残ったらしいがティファはそれ以上追求してこなかったので小さく安堵のため息を着いて調理用具を手に取った。カダージュは私の言いつけだけはきちんと守るので、多分家から出る事はないだろう。昼食を摂りながら見ていたテレビにやけに興味を示していたのでテレビをつけっぱなしにして家を出た。大人しく見ていてくれよと思いながら、私は料理の下ごしらえを始めた。 「今日はなんだか機嫌いいわね?」 「そ、う?」 「うん。なんか表情が柔らかい」 ティファは薄々何かを感じ取っているらしい。同じ女性だからという事もあるだろうが、昔から鋭い所がある彼女にはいつまでも隠して置けそうにはなかった。けれどもカダージュ達があんなことをしでかしてしまった手前、彼女にバレるその日まではカダージュの存在を隠し通さなければ。 「今日試しに作ってみたパスタが美味しかったからかなー…」 「パスタ?どんな?」 「生クリームとたらこのスープスパ。」 「あ、美味しそう」 「したら後で作ろうか?」 「うん、食べたい」 ティファにバレる=クラウドにバレるという数式が安易に浮かんできたので話題を逸らす為に今日作ったパスタの事を出したらパスタ好きらしいティファが飛びついてきたのでとりあえずは回避できたらしい。ティファはカクテルの下ごしらえをするからと地下の貯蔵庫に降りていった。 (カダージュちゃんと留守番してっかなー……あの子私の言う事ちゃんと聞くけど好奇心旺盛すぎるとこあるからなー…テレビに釘付けになっててくれると有難いんだけど) そんな事を考えていたら、野菜を茹でていた鍋が吹き零れたので慌てて火を消した。 |
私を映すは深い翠