「……うわぁうぜぇ」

姉さんが休みだから、と昨日は夜遅くまで二人でテレビを見ていたので、起きたのはもう昼を過ぎていた(道理で腹が減ってる訳だ)携帯を開いた姉さんが物凄く面倒臭そうな表情で液晶を見ながらそう言った。どうしたの、と僕が聞けば姉さんはため息を吐いて僕に携帯を差し出した(受け取ってみたら着信履歴がそこに表示されていた)

着信履歴
07:05 ティファ
07:35 チョコボ
07:40 チョコボ
07:43 チョコボ
07:50 チョコボ
08:45 財布
09:16 チョコボ
09:18 チョコボ
10:45 レノ
10:55 チョコボ
10:58 チョコボ
11:01 チョコボ
11:35 財布
11:56 チョコボ
11:59 チョコボ

……兄さんって結構粘着質だな、と呟いたら姉さんは苦笑いを浮かべていた。(財布っていうのは社長の事らしい。姉さんも大概にして酷い人だ)

「……どうするの」
「どうって、かけなおさなきゃアイツまた来『チャッチャカチャカチャカチャッチャッチャー♪』…またクラウドだよもー面倒臭いなあ!」

寝起きの姉さんは不機嫌だ(低血圧とかいう物らしいが思念体の僕にはよく判らない)。姉さんは怒りながら、携帯を壊さんばかりの勢いで通話ボタンを押した。

「おかけになった電話番号は現在使いたくありません。時間をお確かめの上掛けなおしやがれってんだこのクソチョコボ」

無機質な声と表情のない顔でそうすっぱりと言い捨てると、姉さんは兄さんの返事を聞かないまま電話を切った(姉さんがなんだか別人に見えた気がするけどきっと寝起きだからそう見えるだけだ。僕の姉さんはこんなひとじゃない)。

姉さん?いいの?」
「いいよどうせカダージュ絡みだもん」

電源を切ったらしい携帯をベッドに投げると、姉さんがごはんにしようと言ってベッドから出た。まだ少し寝たかったけど、寝てると姉さんは怒るので(この間はげんこつで殴られた)、僕は仕方なくベッドを出て姉さんが向かったリビングへ足を向けた。







「………怒ってるな」
「何て言われたの?」
「『おかけになった電話番号は現在使いたくありません、時間をお確かめの上掛けなおしやがれってんだこのクソチョコボ』、だそうだ」
「……相変わらず寝起き悪いわね、
「…っていうかもう昼過ぎなんだがな」

クラウドが携帯を手に持ったまま放心してたから声を掛けたらやっぱりにボロクソ言われていたらしい。は今日お休みだから、きっと昨日は見たいと言って撮り溜めしておいた映画でも見てたんじゃないかなあと思ったら私の予想はどうやら当たっていたようだ。昨日、の家に行くといって店を出たクラウドがその4時間後に帰ってきて、私は事の顛末をクラウドから聞いた。がハーディディトナに乗せていた銀髪って言うのはやっぱりカダージュで、カダージュはほしに還った後もライフストリームの中から心を病んでしまったを見続けていて、ずっとずっとの傍に還りたいと思っていた、と。そして、ライフストリームの中でをもう泣かせるんじゃありません、とエアリスに諭された、という事も(彼女の遺志が確かにほしに息づいていると言う事がとても嬉しかった。彼女はとても優しく、人一倍のことを気遣っていたから余計に)。

「クラウドもクラウドよ。カダージュと約束したんでしょ?」
「……でもティファ、」
「大丈夫よ。カダージュ、の言う事だけはちゃんと聞いてたじゃない。それにエアリスに怒られたっていうなら、もう莫迦な考えは起こさないはずだよ」
「………、」
が心配なのは私も皆も同じ。」

少なからずセフィロスの遺伝子を受け継いでしまっているクラウドがカダージュ程とまでは行かないまでもに好意を寄せているという事はあの頃からよく知っている(確信したのは、クラウドのなかにセフィロスの遺伝子が少しばかり混じっているという事を聞いてからだけど)。ただ、クラウドはクラウドという一人の人間でセフィロスではないからに寄せる好意は今はもう心の奥底に沈んではいるらしいけど(それでもここまで心配するんだから説得力の欠片もない)私には判らないが、ジェノヴァ細胞とはそういうものらしい(彼女はほしの遣いでありクラウドの、そしてカダージュ達3人の姉でありセフィロスの妹なのだ)

「…そうだな、」
「そうよ」

細胞同士が深いつながりを持ってリユニオンを望んでいたから、星痕が消えたとはいえ魔晄を失わないクラウドのジェノヴァの遺伝子は、まだどこかでを慕い縋ってるんだろうな。(そう思った事は、内緒にしておいた)







「…心配性だよね兄さんは」
「……昔から、ね」

トーストを齧りながらぼそっとカダージュが呟いた。心配性と言うよりは、多分きっとクラウドの中のジェノヴァ細胞がそうさせてるんだと思う。私は星がこの世界へ遣わせたある種の使者であり、この世界では古代種に近くほしと意思を通わせる事が出来る者だったからだ(だったから、というのは2年前からほしの声は聞こえなくなってしまったからだ。きっとエアリスがほしに還ったから私はその役目を終えたのだと思う)だから、カダージュやヤズーやロッズが私に縋り慕ったのはある意味必然的な事だった訳で、私は彼らの拠り所としてそれを甘んじて受け入れていた。母を求める幼子のような彼らの手を振り解けず、結果として彼らに悲しい想いをさせてしまった事を私は少し前まで悔いていた。ただ私の隣へ還ってきたカダージュが、ヤズーとロッズ、そしてセフィロスはライフストリームの中で母であるジェノヴァ、そして古代種であるエアリスに見守られて安らかにしているという事を私に教えてくれたので、その後悔も今は大分薄れている(それでも、あの時一瞬でも彼らに悲しい想いをさせたことだけは消えない事実な訳だが)

「兄さんも、ジェノヴァ遺伝子を持ってるから?」
「多分ね」
姉さん、今でもほしの声は聞こえる?」
「いや?今はもう殆ど聞こえないよ。エアリスがほしのなかにいるから」
「そっか」
「ほしも、ヤズーもロッズもセフィロスも、安らかに眠ってるんだよきっと」
「そうだね」

確信はなかったけど、ライフストリームの中にエアリスもいるというのなら、あながち間違いでもないだろう。カダージュはクラウドと対峙したあの時、確かにエアリスの声を聴いたと言っていたのだから。セフィロスはともかくとして、ヤズーとロッズに会えないというのはいくらか寂しい気もしたが、エアリスとジェノヴァに見守られながらほしの中で安らかに眠れているというのなら、それでもいいかと思えた(あの子達は、母を亡くした子供のようにとても脆くて弱かったから)