機嫌な猫と






、いるか?」

姉さんが買い物に出かけてしまったので家で一人留守番をしていた僕のところへやってきたのは兄さんだった。ドアスコープから覗いたら兄さんが見えたので鍵を開けたら(知らない人だったら絶対に開けるなと姉さんは言っていたけど兄さんだしいいかなって思った)、兄さんは僕を見るなり途端に不機嫌な顔になった。僕だって会いたくなんてないっていうのに。

「……カダージュ、はどうした」
姉さんなら買い物だよ。兄さんこそどうしたのさ」

兄さんは僕を睨んで姉さんは何処だなんて人聞きの悪い事を言う。そりゃ、僕は確かに前姉さんを拉致した過去があるけども、今は一応同意の上で一緒に住んでいるのだから、僕が姉さんをどこかに隠したりなんてする訳がない。第一今の今まで、僕は兄さんが今日こうしての姉さん家にやってくるなんて知らなかったのだから。

「そうか、じゃあ出直す事にしよう」
姉さんに電話すればいいじゃないか、兄さんだって携帯電話くらい持ってるだろ?」
「アイツはオレが電話するとふざけた事を言うからアイツに電話するのは嫌いだ。メールは読まないしな」
「ふーん…僕がかけた時はちゃんと取ってくれるんだけどな、嫌われてるんだね兄さん」
「うるさい黙れもう一度星に還りたいのかお前は」

冗談で言ったら兄さんは本気に取ってしまったらしいので、僕は無理矢理にドアを閉めた。(あのままだったらまた僕は間違いなく兄さんがその腰に下げてる奇妙な刀の餌食にされると思ったからだ)兄さんはドアの外で暫く何かぶつぶつ言っていたようだけど、姉さんが不在と言う事が判ったからか僕が水を飲んで戻ってみたら兄さんはもういなかった。





ピンポーン、
また誰か来た。姉さんじゃない事だけは確かだ(だって此処は姉さんの家なんだから姉さんなら鍵を開けて入ってくるはずだから)。面倒臭いから出たくないと言うのが本音だけど一応確認しない訳にもいかず、僕はカップを置いて玄関に向かった。ドアスコープから見えたのは赤毛、確か社長と一緒にいたレノとかいうタークスの男だった。何でこいつが姉さんの家に来るんだと思ったが知っている人間だったので、嫌々鍵を開けたらまた嫌な顔をされた。そんな顔をしたいのは僕の方だ。

「……はどうした、っと?」
姉さんなら買い物で今はいないよ。全く今日は客が多い日だな、僕はゆっくりしたいっていうのに」
「買い物か、っと……参ったな、本人に渡せって言われて来てんだけどな」
「何を?」
「社長からの預かり物だぞ、と」
「ふぅん」

社長はどうも僕の姉さんが好きらしい。姉さんは社長を便利な財布くらいにしか思ってないから安心してていいと兄さんとティファが言ってはいたものの、僕はやっぱり社長が嫌いだ。だって姉さんは僕の姉さんなのに、あいつは事ある毎にこうやってタークスを姉さんの家までやって来させては贈り物だの何だのと下らない事をしてるんだから。まぁ、今僕の目の前にいるレノは半年前にヤズーと一戦交えてはいたけども僕がこうして姉さんの許に戻ってきてからはそれなりに仲良くというか喧嘩をすることもない(それにレノは社長がいつもいつも姉さんに殴られたりするのを見て楽しそうにしてるから、きっと本心は僕と一緒でいい気味だと思ってるんだろうと僕はいつも思うわけだ)

「こないだ確か宝石商が来てたから宝石の類だとは思うけどな、っと」
姉さん宝石とかそういうの興味ないのに、学習しないよね社長は」
「あぁお前もそう思うか、と」
姉さんは色気より食い気だよ」
「だよな」

姉さんは宝石とか綺麗なドレスとか高価なブランド品とか、普通の女の人が興味を示すものには一切興味を示さない。例えば目の前に高価なダイヤモンドとケーキがあったのなら間違いなくケーキを選ぶようなそんな人だ。僕としてもそんな飾らない姉さんが大好きな訳で(姉さんは宝石とか綺麗なドレスなんていらないくらい美人だし)、それなのにあの社長は姉さんにこんな下らない物を贈り続けては姉さんの手に渡るそばから売り飛ばされている。いい気味だ。

「…一応伝えておくよ、姉さんの生活費の一部だし」
「ははは、変わんねぇのなアイツ」

レノは笑いながらそう言って玄関のドアを閉めて出て行った。本当に今日は客が多い、今度誰かが来てもドアスコープから覗くだけにして居留守を使おうと決めた。僕は本当なら姉さん以外の人間とは話もしたくないんだ(でもそうすると姉さんが怒るから僕は嫌々人付き合いとかいう事をしてるんだ)






「カダージュただいまぁー」
「お帰り姉さん、遅かったね」
「んー夕食何にするかで迷ってた。ごめんね」

姉さんは買い物袋をキッチンのテーブルに置きながら苦笑い交じりに僕に謝る。姉さんが帰ってきた途端にこの部屋の空気が明るくなったと思うのは気のせいじゃない。僕は姉さんが傍にいないと不安でしょうがないんだけど、姉さんは僕を外に連れ出すのは嫌らしい(前に一緒に買い物に出かけたとき逆ナンパとかいう物にあってしまって大変だったからだ。姉さん以外の人間になんて興味ないから余計に)だからいつも姉さんが食材の買出しに行く時は、留守番をしている。流石に僕の服とかを買うときは僕も一緒に行くけれど、それでもだいぶ限られた場所になってしまうのは、姉さんが姉さんなりに僕を愛してくれてるかららしい(マリンがそう言っていたけど僕にはよく判らない。)

「僕は姉さんが作った物なら何でも食べるよ。…そうだ、兄さんとレノが来たよ、買い物でいないって言ったら帰ったけど」
「え、まじか。クラウドはともかくとしてレノはあれでしょ、またあの莫迦からの貢物でしょ?」
「そうみたいだね、小さい小箱持ってたし、多分中身は宝石だって言ってたよ」
「うわぁマジか…よかった今月ちょっとピンチだったから助かるわー…」

姉さんはそう言うと真っ黒な携帯を取り出して電話をかけ始めた(相手は多分レノだ)。姉さんの顔が笑顔だったので僕は嬉しくなった(多分臨時収入が嬉しいんだろうと思った。そういえば今月姉さんはハーディディトナのカスタムでだいぶ散財してしまったみたいだから)。

「あ、もしもしレノ?」
『帰ってきたか、っと…』
「うんたった今ね」
『社長からまたプレゼントだぞ、っと…時間取れるか?』
「まぁ、なんとか?」
『んじゃ、の仕事先まで届けるぞ、っと…お前ん家行くとうるさい猫がいっからな』
「あはははは、んじゃあ支度したら行くわ」
『おうそうしてくれると助かるぞ、っと…』

姉さんはプレゼントが嬉しいのかレノと電話するのが楽しいのか(絶対プレゼントが嬉しいんだとは思うけど)、楽しそうに電話を終えて僕に振り返った。姉さんが言うにはレノは姉さんの仕事先、セブンスヘブンまで社長からのプレゼントを届けてくれるらしく、僕は姉さんと一緒にセブンスヘブンに行く事になった。姉さんと二人で夕食を食べられると思ってたのに、今日はどうもセブンスヘブンで夕食を食べる事になるようだった(姉さんの料理程じゃないとはいえティファの料理も美味しいからいいんだけど)。







「ハローティファー」
「あら。カダージュまで一緒だなんて珍しい」
「んーまたあの莫迦社長からの貢物ー。レノが届けてくれるらしいから…」

姉さんは僕の手を引いてカウンターに座ると隣のイスを叩きながら僕を見た。どうやら座れって事らしい。素直に座ったら姉さんはにっこりと笑顔を浮かべてティファに何か食べさせてーと強請っていた(多分給料から引かれてると思う)。姉さんに出されたのはお酒だったのに、僕に出されたのはオレンジジュースだった。確かに僕はお酒なんて飲んだこともないし飲みたいとも思わないけどせめて聞いてくれよと思ったのは言わないでおく。(ティファは怒ると怖い。前に兄さんがティファの大事にしていたグラスを割って半殺しにされていた。)

「レノ?まだ来てないよ」
「いーよご飯食べながら待つから」
「…ティファはいつまで僕を子供扱いするつもり?オレンジジュースなんて」
「あらだってカダージュはコーヒー飲めないでしょ?」
「カフェオレなら飲める」
「ほら、お子様」

ティファは僕を莫迦にしたように笑いながら、カフェオレを作り出した。僕が好きなのは姉さんが作るカフェオレなんだけどなと思ったけどティファは怖いので言えなかった。いくら僕が思念体とはいえ、あの兄さんを半殺しに出来るティファとケンカはしたくない。(それにティファとケンカすれば姉さんに怒られる事にもなる)

「ティファ、からかうのやめたげてよ」
「あはは、ごめんごめん」

姉さんがティファを止めてくれたので、一応それ以上僕がティファにからかわれる事はなかった。









(君は穏やかに微笑む)










機嫌ない主