「…姉さん、」 カダージュは私を好きだと言う。それが恋愛感情なのか、それとも彼らが母と呼ぶジェノヴァの使いである私を彼らの中のジェノヴァ細胞が求めるからなのか、私には判らない。ただ、私を好きだと言うカダージュの瞳は真剣そのものだったから、その言葉に嘘が無いという事だけは理解が出来た。それでも私は、彼らと一緒にいてはいけない存在。たとえジェノヴァの使いとしてこの世界に呼ばれた者だとしても。 「…カダージュ」 「何してるの?」 「ほしをね、見ていたんだ」 「ほし?」 「そう、ほし。綺麗でしょう?ここはね、この世界で一番ほしが綺麗に見える場所なんだよ」 姉さんは手を夜空に翳して、綺麗に笑ってそう言った。手を広げたままくるくると回る姉さんのワンピースの裾がふわりと風に舞った(真っ白なワンピースを着ている姉さんの茶色くて長い髪が月の光を浴びてきらきらと光っていた) 「……帰りたい、の?」 「………参ったな、カダージュ達に隠し事はできないねえ」 僕が声を掛けた瞬間、姉さんはぴたりと動きを止めた。そして悲しそうな表情を浮かべて、僕の目をまっすぐに見てそう言った(姉さんが泣きそうだったのは気のせいなんかじゃない、ここは姉さんにとって悲しい思い出がありすぎる場所だから) 「…帰りたくないって言ったら嘘になるよ。でもねカダージュ、私はほしの使いとして見届けなきゃいけないんだよ。君達が、これからしようとしてる事全てをね」 「姉さん、」 「だから私は、帰らないよ。君らと一緒にいて、君らを見届けてあげる」 「…いいの?」 「……何が?」 「兄さんたちの所に、帰らなくて」 「…だって私は、君らのお姉さんでしょう?」 そう言って笑う姉さんの顔は相変わらず悲しそうだった。どうしたら姉さんは悲しまずに笑う事が出来るのか、僕には判らない。僕らと兄さん達の間で板ばさみになってるのを知っていて、僕は姉さんに好きだと言う。何度も何度も、姉さんを僕らの許に繋ぎ止めておく為に。そのせいで姉さんは悲しんでいるのかもしれない。でも姉さんを好きだという僕の気持ちは消える物じゃないし、兄さん達の所になんて帰って欲しくない。だから僕はまた、姉さんに好きだと言う。いつか姉さんが僕のこの言葉に笑って応えてくれる日が来ればいいと思いながら。 「姉さん」 「ん?」 「……好きだよ」 「………う ん」 (姉さんが僕の言葉にどうして悲しそうな顔をするのかなんて知らなかった。僕は兄さんに倒されて初めて、姉さんが浮かべていた悲しそうな表情の意味を知った。僕がいつか消えて無くなるから、姉さんは僕に応える事はしなかったんだと、初めて。) |
にびいろのそら
(姉さんの腕に抱かれて見上げたそらは曇った顔で泣いていた)