「………何だ、私の顔に何かついているか?」
「いや、ヴィンって美形だなーと思って……遊び甲斐ありそうだなーって……」
「……遊び甲斐、だと?」
「うん、ヴィン綺麗だし、髪も長くて綺麗だし体つきも華奢だし…」
「……、何を考えている」
「え?べつに、なにも?」

嫌な予感がする。目の前で満面の笑みを浮かべるこの少女、は何かにつけてトラブルを巻き起こすトラブルメーカーだ。例えばクラウドをからかって怒らせ、全力で武器と魔法を交えての大喧嘩(お蔭でクラウドは負傷し出発が4日ほど遅れたのもまだ記憶に新しい)はたまた、ルーファウスから差し向けられたタークスの面々に対してこれでもかと言うほどの毒舌攻撃(あのタークスが言葉のみで打ちのめされる様は見ていて楽しかったが正直哀れだった)挙げていけばキリもない程、彼女はトラブルを引き込み、或いは自分で巻き起こす。今日はどうやら、彼女の暇つぶしの矛先は私に向かってしまったらしい。

「何も考えていないという顔ではないが?」
「……バレた?」
「あぁ、バレバレだ」

「いやあ、最初はクラウドで試そうとしたんだけどさーあいつあの時のことトラウマになっちゃってるらしくってー。バスターソード振りかざしてくるもんだから思わず全力でサンダガ叩き込んじゃったけどまあ生きてるんじゃない?うん、クラウドってしぶといし大丈夫」

さらっと恐ろしい事を言うな。そして放置して来るな。そうは思ったが、私とて彼女の魔力の高さも戦闘能力の優秀さも、キレた時の恐ろしさも嫌と言うほど知っている訳なので言えなかった。(言ってしまえば彼女は容赦なく全力で魔法を叩き込んで来るだろう。せっかく長い戦いを終えて戦いのない平和な日常を送っているというのにそれは御免被りたい)

「……何故私なんだ?」
「美形な男を美女にしてみたいとは思いませんかヴィンセントさん」
「思わんな。私に女装の趣味はない」

「つれないなーもうヴィンセントってばー。だってさー他に女装させてないのヴィンだけなのよー。ルーファウスもレノもツォンも(嫌がるのを脅して無理矢理)女装してもらったし、クラウドは2年前にウォールマーケットで見てるし、シドとバレットとルードは(恐ろしいし気色悪いから)問題外でしょ?ナナキとシーちゃんは問題外だし……ああでもシーちゃんの中の人…いややめとこうあの人は後が怖いや…」

ところどころ突っ込みどころ満載だが、無視しよう。私は何も聞いていない。がたごとと音がするのでテーブルを見てみたら、は愛用のメイクボックスからテーブルにあれこれと化粧品を並べていた。逃げるタイミングを失ってしまった(此処まで乗り気なのだから逃げようとすればの手加減ない魔法の餌食になるだろう事は安易に予想が付いたからだ)

「んーヴィンは肌白いからー…ファンデはこれ……えーとあとは、っと……」
「…、私は女装するとは言っていないぞ」
「ん?私がさせると決めたんだから別にヴィンの答えはどうでもいい」

相変わらずの性格だ。自分勝手でマイペース、一度決めたら頑として譲らないしそのためならどんな手段も厭わないの暇つぶしという名目で、曰く「絶世の美女」とやらに仕立て上げられるハメになってしまったらしい。

「……そうか」
「うん、ヴィンは物分りがよくて助かるよ、さすが年の功だね!」

さりげなく失礼な事を言われたがそれはこの際聞かなかった事にしておいてやる(の右手にマテリアが見えたのは気のせいではない)。買い物に行くと言ってティファが店を出て30分、確実に見られる羽目になるだろうと私は盛大にため息を吐いた(はそれも綺麗にスルーしてしまった)




「ただいまー………って、誰?これ」
「……おかえりティファ……」

買い物から帰ってきたら、知らない女の人がいた。の知り合いかと思ったけど、はテーブルに突っ伏して泣いていた。何があったのか全く理解出来ていない私を見上げたの顔は何故か悔しそうだった(本当に意味が判らない)

「……?何があったの、この人誰?」
「……うぅ、これだから美形は嫌なんだ……!」
「え?」
「………」
「ヴィンセントなんてだいっきらいだ少し化粧したくらいで絶世の美女になりやがってばっかやろー!」
「……え?ヴィンセント?これが?」

「……これとは何だ」

「えええええええ?!ヴィ、ヴィンセント?!」

知らない女の人の声はヴィンセントの声だった。つまり、はここ最近のマイブームでもある『イケメン女装計画』なるものをヴィンセントにも実行したはいいがその余りの仕上がりっぷりに凹んでいた、という事になるらしかった。(そういえばルーファウスの時もは偉く凹んでいた気がする)

「そうなんだよヴィンセントなんだよ…!」
「……ほんとだよく見たらヴィンセントだわ……」
「畜生こんな美人になりやがって…!」
「へー元がいいとやっぱ綺麗ねー…クラウドより美人じゃない」
「…それは喜ぶべきなのか?私は」
「褒めてるのよ」

ぶすっとした顔をしてはいるものの、ヴィンセントは外見だけならば間違いなく女性に見える。きっとが脅したんだろうなあ、嫌々なんだろうなあと思ってはみたが、ばっちりドレスまで着込んでいるあたりまんざらでもないらしい(の脅迫が怖かったからというのもあるとは思うけど)

「…次はシドあたりにやらせてみようかな…シドならきっと笑い飛ばせる気がする…」
「「……」」

笑い飛ばす以前に気色悪いと思う。ヴィンセントも同じ考えらしかったがはどす黒いオーラを背負ってしまっていたので、言えなかった。シドが来た時は何処かへ非難しておこう、と心に決めた。






C'est la vie




(彼女に振り回される毎日も悪くはない)