「ねえザックス、私が死んだら、どうする?」

そう言われたのは確かオレがソルジャーになったばかりの頃、今から3年前の真夏日だった。オレにそう言ったのはオレの幼馴染で史上初の女性ソルジャーでもあるだ。オレとは物心ついた頃からずっと一緒で、オレが英雄になるってゴンガガを飛び出した時も、は私もソルジャーになってザックスを護る、だなんて言って聞かなかったのを覚えている(正直な所、はすぐに挫折してゴンガガに帰ってしまうだろうとタカを括っていた訳だが、はなんと史上初の快挙を成し遂げてしまった。オレの幼馴染は意思が強く一度決めたら頑としてそれを曲げない女だっていうのを忘れていた)

「泣いてくれる?悲しんでくれる?それとも狂ってくれるかな。」

魔晄を浴びた副作用で、の精神は少しばかり歪んでしまった。それはさして珍しい事でもなかったけど、オレは運良くその副作用からは逃げられた。だから余計に、が歪んでしまった事が悲しかった。それでも普段のはガキの頃と変わらない、オレが知っているだった。ただ、突然こんなことを言い出すくらいで。

「私の亡骸に縋って、泣いて、壊れてくれる?ザックス」

歪んだ笑みを浮かべてそう言うが、何故かとても綺麗に見えた。の白くて細い指がオレの頬を撫でて首筋へと下る。は相変わらず、きれいに歪んだ笑みを浮かべていた(それすら綺麗だと思ってしまった)

「ねえ、ザックス」

首筋をなぞるの指と、不意に重ねられた唇の感触は3年経った今でも鮮明に覚えている。幼馴染の一線を越えたあの日は、今でも。

「それでも、私の後を追うなんて莫迦な事だけは、しないでね」

魔晄色の瞳をオレに向けて、悲しげな声でそう言ったは相変わらず泣いていた。何の変化もない平凡だけど至極平和な生活を捨てて、戦場で生きる事を選んだ。今日を無事に生きても、明日は死ぬかもしれない、そんな毎日。昨日まで笑いあっていた友人が、今日は殉職しているなんて事も珍しくないそんな非日常を、もしかしたらは受け入れ切れなかったのかもしれない。その日から段々と、は壊れていった(ガキの頃から一緒にいるオレにしか判らないくらいの小さな変化だったけど)




「……、」

がいなくなって初めての春、が大好きだった白い花に囲まれたの墓標には今日も沢山の花束が手向けられている。が戦場で命を落としたのは去年の秋、その時の事はきっと忘れられはしないだろう。の自慢だったきれいに伸びた金色の髪はくすんでボサボサで、白い肌はまるで色が抜け落ちてしまったみたいに本当に真っ白で、顔にも身体にも沢山の傷があって。つめたくなったを前に、オレはただ立ちすくむ事しか出来なかった。震える手で触れた頬はまるで氷みたいに冷たくて、はもういないんだと思うと悲しくて苦しかった。オレよりも濃い魔晄色の双眸は、二度とオレを映してはくれなかった。

「…オレ、クラス1stに昇格したよ。」

その日からオレは、の分まで生きようと決めた。の分まで頑張って、絶対に英雄になるからとの墓標に誓ったんだ。叶う訳がないと莫迦にされたっていい、これはオレとのガキの頃からの夢なんだ。志半ばで散ってしまったの為に、叶えてやる。そう決めたんだ。

「…夢に一歩、近づけた」

の分まで生き抜いて、いつか絶対英雄になってみせるから。だから、オレはの後を追うなんて莫迦な事はしないよ。でもさ、もしもオレが死んで、のいる場所に逝く事になってしまったら。その時は、笑っていつもの憎まれ口を叩いてくれな、莫迦ザックス、って。






さな約



(君の為にオレは英雄になる)






スランプだー!