「…なぁ
「ん?何、政宗?」
「お前よ、俺の右目…何とも思わねぇのか」
「なんともって…どういう意味?」

麗らかな春の日差しが庭に射し、漸く冬の寒さも緩んできた4月の初め。縁側で茶を飲んでいた政宗は隣に座るに不意に言葉を投げかける。その質問は唐突で全く要領を得ない物で、はきょとんとした目を政宗に向けて質問を返した。

「…お前のいた時代ってのは…隻眼、の人間なんて珍しいんだろ」
「あぁ、そんな事か。確かに珍しかったけど、でも」

の白く細い指が政宗の頬を滑る。は琥珀色の大きな瞳に僅かばかりの哀愁を宿して政宗に向けてまた言葉を紡ぐ。政宗はただそんなの一挙一動を黙って受け入れていた。

「…政宗なら、嫌じゃないよ」
「……そうか」
「……気にしてんの?独眼竜ともあろう男が」
「…別にそういう訳じゃねぇよ」

の手をゆるりとかわしながら、政宗は庭に目をやる。まだ雪の残る庭園に麗らかな春の日差しが射していた。も政宗の視線を追い、手入れの行き届いた庭園をぐるりと眺めた。

「…政宗?」
「…For example。例えば、だ」
「うん」
「…未来の世界とやらに帰る手段が見つかったとして、」

そうしたらお前はきっと帰っちまうんだろうな。
政宗は庭園に目をやったまま呟くようにそう言った。は政宗のその言葉を聞いて、やんわりと笑みを浮かべた後、政宗の手を遠慮がちに握り、繋いだその手に視線を落としたまま言葉を紡ぎ始めた。

「……今は、帰る事なんてどうでも、いいんだ」
「What?お前、帰りたいって言ってたじゃねぇか」
「……だって、政宗が、いるから」

政宗がいて、小十郎がいて、伊達のみんながいるこの場所が居心地いいから、別に帰れなくてもいいんだよ。
はそう言うと至極穏やかな笑顔を浮かべて政宗を見上げる。政宗はどう返していいのか判らずに、ただ小さくそうかよ、とだけ言うとから視線を外した。

「……私は、政宗のこの右目、すきだよ」
「…、」
「私は、醜いなんて思わない」
「……そう、か」

の嘘のない真っ直ぐなその言葉に政宗は言葉を失くす。かつて母が右目を失った自分を疎んじていた事が未だ彼の心の中に棘となって残っていた。それを、目の前のこの未来から来たという少女は真っ直ぐな言葉で否定したのだ。

「私は未来には帰らない。いつだって傍にいて、政宗の背中を護ってあげるよ」

はそう言って笑う。今は至極穏やかな、村娘と言って誰にも疑われる事のない、戦の心得など全くないこの少女が、ひとたび戦場に立てばかの独眼竜をして鬼神と言わしめる程の強さを発揮するなど誰が思うだろうか。ただ、は穏やかな笑みを浮かべて政宗を見つめていた。

「……あぁ」
「I can't go without You、なんですよ。政宗」
「………!」

余りにも不意を突きすぎたの唐突の言葉に、政宗は目を見開いて言葉を失った。











ぬまでしますよ?


(貴方が死んだその時が、私の命の終わる時。私は貴方の治めるこの奥州の地に骨を埋められれば本望です)










とうとうシリーズ化。
I can't go without You、はあなたなしではいられない、とかそういう意味かと