早いもので、私がこの世界(時代と言ったほうが正しいかもしれないが政宗さんや小十郎さんから聞いた話を総合して考えると私の知る史実とは全く違うのでこう解釈しておく事にした)に来て1週間が経った。私がいたあちらの世界では真冬だったがこちらの世界は7月の初めだというので、異世界トリップないしタイムスリップをしてしまったという事はどうやら事実のようだった。そんなこんなで、私は今現在、事実は小説より奇なり、を身を以って体感している。 「様、八つ時の準備が整いましたのでお持ちしました」 「あ、有難う御座います……」 政宗さんの取り計らいもあって、私は現在客人として離れに一室を借りている。まあ、居候だ。城主のお客人、という事で私に接する人たちはどこか一線引いたような、普通のサラリーマン家庭に生まれ育った私には到底馴染みのない、まるでどこぞの御姫様の様な扱いを受けているのは少々心苦しくもある。が、政宗様のお客人に失礼な事は出来ません、と何度も言われてしまったので、諦めた。今日の八つ時、現代で言うおやつはずんだ餅。歴史の授業で伊達政宗は料理が趣味でずんだ餅は政宗が考案したっていう説があると習ったが、あの政宗さんが台所に立つ姿は、申し訳ないが想像できなかった。どちらかと言えば、小十郎さんのほうが台所に立っていて違和感がない。(そんなことをぽつりと零したら侍女さんは苦笑い混じりではあったが賛同してくれた) 「…あ、おいしい」 「それはよう御座いました」 「………まさか政宗さんが作ったなんてこと……有り得る訳ないか、あはは」 「その通りで御座いますが」 「マジかい」 私が知る歴史とは多少ズレがあるとはいえ、史実通りの事もあるようだ。現に、政宗さんは料理が趣味だと言う(本当に申し訳ないが想像だけは出来ない。目の当たりにしたら多分、爆笑してしまうと思うし)。しかも、私は食べた事がないが小十郎さん曰く美味しいらしい。人は見かけによらない、ってこういう事言うんだろうなぁなんて思いながら、ずんだ餅を口に運んだ。(本当に美味しい。何だか腹が立った。) 「Hey、」 「あ、政宗さん」 「八つ時は食ったか?」 「ええ、美味しく頂きました」 「そうかそうか、旨かったか」 政宗さんは意地の悪い笑顔を浮かべた(多分、あのずんだ餅は政宗さんが作ったものだと私は知らないと思ってる)。政宗さんや小十郎さんにも言っていないが、伊達政宗という人物がどういう人物でどういう人生を送ったかという事は、学校で習う範囲でならば知っている。まあ、目の前の伊達政宗という人物はそれには到底当て嵌まりそうもない人物ではあるけれども。なので政宗さんが料理が趣味という事も、呑めそうな顔をしているくせ酒にはめっぽう弱い事も勿論知っているが、それはいつか政宗さんに一泡吹かせてやろうと思い黙っておく事にした。 「私が知ってるのより、ずっと美味しかったです。さすが手作りですね」 「…Regrettable。知ってたのか」 「はい。仙台の名物ですから」 「Specialtyか。400年以上もあとの時代にまで残ってるとは、さすが俺だな」 政宗さんは笑いながら言った。さすが俺、という言葉が多少ひっかかったが、政宗さんだからと自己完結した。ツッコんだら負けだ。何が負けなのかわからないけど、兎に角ツッコミ入れたら私の負けのような気がする。 「ところで…何か御用ですか?」 「ん?あぁ、政務が終わったんでな」 「…また小十郎さんに怒られますよ」 「No problem。気にすんな」 縁側に座り込むと政宗さんは懐からキセルを取り出して吸い始めた(伊達政宗は喫煙の趣向があるとは学校で習ったが、妙な所で史実通りだ)。私はといえば残った茶を飲んでいる。……何この和み具合。今って戦国時代よね?と思ったが政宗さん曰く「独眼竜にケンカ売る阿呆はこの界隈にゃいねぇ」らしいので、奥州は至って平和らしかった。 「政宗さん」 「あ?」 「あのずんだ餅、政宗さんが作ったって聞きましたけど本当ですか」 「That's right。本当だぜ」 「……想像できない」 「何がだ」 「政宗さんが台所に立ってる姿がですよ。小十郎さんのほうがしっくり来ます」 「………確かに」 「ですよね」 小十郎さんが割烹着を着ておたま片手にかまどに向かう姿がリアルに想像できてしまったので慌てて打ち消した(だって何だか笑いがこみ上げてくるんだ)。政宗さんもどうやら同じような想像をしたらしく、私達は顔を見合わせて笑った(ごめんなさい小十郎さん) |
空の欠片
(奥州の空は今日も綺麗に晴れ渡っていた)
一応史実に基づいてうちの政宗さんは喫煙の趣向があり酒には弱く料理が巧いです。でもヘタレ気味。
ついでに、出会ったばかりの頃の話ですと補足。