「……今、なんて」
「政宗様に縁談が来たと言った」
「…えん、だん……まさむね、に」

覚悟してなかった訳じゃない。ここは戦国時代で、政宗は奥州を治める領主で、元服をとっくにすぎた19歳。縁談なんていくら来たっておかしくない。奥州筆頭ともなれば来ないほうがおかしいんだから。

「……政宗様は乗り気ではないがな」
「…」

私はこの世界、この時代には元々存在しない人物、言うなれば異分子だ。歴史に介入してしまえば多少なり未来が歪んでしまうという事は想像できたので、政宗が好きだと自覚したあの日から私はこの想いを墓場まで持っていこうと決めた。…いくら政宗が私を好きだと言ってくれても、だ。好き同士であれば性別も身分も関係ない平成の世と違って、家の為藩の為に当人同士顔も知らぬまま婚姻を結ぶ事も珍しくない戦国時代、奥州筆頭である政宗と何の身分も後ろ盾もない私では到底この想いは叶わない。

「そっか、そうだよね。政宗、奥州筆頭だもんね、そりゃ縁談のひとつやふたつ、くるよねえ」
「……
「どんな人?美人さん?可愛い?それとも、「」……な、に」

小十郎がいつになく真剣な顔をしていたから、私は言葉を詰まらせた。そりゃ厳しい時もあるけど小十郎は私にとって兄さんみたいな存在だったから、小十郎はなんだかんだで優しかった。その小十郎が、なんだか苦しげな顔をして私を見てる。…考えてる事が判らない訳じゃない、小十郎もこの縁談はよくない物だと思ってるんだ。私は政に関して全く判らないけど、婚姻を結ぶ結ばないは伊達家にとって有益か否かで決まるのだから、きっとこの縁談は伊達にとって利益にはならないんだろう。

「政宗様は、」
「ストップ。それ以上言わないで」
、聞け」
「聞いたら、引き返せなくなる」

のらりくらりとかわしていたし、はっきりとした言葉で伝えられた訳でもない。想いを通わせてしまえば未練が残る。私はいつか、未来へ帰らなきゃいけない。そう頭では理解していても、一縷の望みに縋ってしまう。もしもこの世界で、政宗と一緒に生きていけたらと。

「……
「私は、いつ未来に帰るかも判らないんだよ?」
「……そうだったな、お前は未来から…」
「そんな私が政宗の隣になんていられる訳、ないでしょう?」

明日かもしれないし、1ヵ月後、何年か後、1分後かもしれない。突然タイムスリップしてしまったのだから、いつもとの時代に戻されるかなんて予想はできない。こうして小十郎と話している間にも、もとの時代に帰ってしまうという可能性は十分にある。だから、政宗への想いは捨てようと決めた。それなのに、政宗が私じゃないほかの女の人を娶る姿を見たくないと言うのは、ただの私の我侭だ。

「だが…っ」
「小十郎。私だって、いやなんだよ。でも、仕方ない。私は本当ならここにいないはずの人間だから」

ここにいないはずの人間。いてはいけない、異分子。それが私。

「……だから、仕方ないんだよ」

絶対に想っちゃいけない相手を好きになってしまった。だからこんなに苦しくて、もどかしい。

「……、」
「私は、お家騒動に敗れて奥州に逃げてきた、名もない小国の姫。それ以上でもそれ以下でもない、それでいいの」

そうじゃなきゃいけない。お家騒動に敗れて、と言えば私の素性を知ろうとする者はいないのだから、それでいい。いつか私の在るべき場所へ帰るまで、ここにいられれば。それ以上は望んじゃいけない。

「…それで、いいんだよ…」

政宗と想いを通わせる事ができたなら、なんて。私は望んじゃいけないんだ。
ぱたりと一滴、涙が畳を濡らした。












わすれるしかない


(貴方の幸せを願うならば、この想いは)










く、暗い……次回で挽回っ