「幸村さんっていつもあんな感じなんですか?」
「……あぁ、うざってぇことこの上ねぇ」

真田源二郎幸村という名の嵐が去り、夜。夕餉を摂り終えたは小十郎と一緒に政宗の自室で茶を飲んでいた。うんざりとした態度とは裏腹に、顔には心なしか笑顔が浮かんでいる政宗を見て、はまた悪戯心をくすぐられた(だってからかいたくなるんだ、政宗さんって)

「でも可愛いですよねー幸村さん……」
「What?!」
「だってなんか癒されません?和むっていうか、なんていうか……」
「……Are you Crazy?お前正気か?」
「Yes,Ofcorse!あー幸村さん可愛かったなー……」

心ここに在らずなを見て、やはり政宗は不機嫌になる。予想通りだと心の中で少々黒い笑みを浮かべると、胃が痛くなりそうな小十郎。微笑ましい二人ではあるが、些かの悪戯は度が過ぎる(それでも、普段見れない政宗の表情が見れるので止める事はしない辺り、小十郎もある意味では同罪だ)

「Cuteねぇ…」
「…それに比べてこれは……はぁ」
「テメェ俺見てため息吐くとはいい度胸してやがんなしかもこれって何だこれって」
「…私、なんで甲斐にトリップしなかったのかな……はぁ」
「だからため息吐くなつってんだよ!」

面白いほどの手玉に取られている政宗を見て、少々複雑な心境の小十郎。

いずれお二人が祝言を挙げれば奥州も伊達家も安泰だろうと思っていた自分はもしかしたら間違っているのだろうか、いやしかし政宗様にここまで明け透けに接する事が出来るのは殿しかいないだろうが奥州筆頭ともあろうお方がこれでいいのか?

そんな小十郎の心境も知らずに喧嘩する(傍目から見ればじゃれあっている)二人。

「俺様何様政宗様とか言っちゃう人より破廉恥とか言っちゃう幸村さんのが可愛いよなどう見ても…はぁ」
「喧嘩売ってんのか売ってんなら買うぞ
「ナチュラルにエロい政宗さんより純真そうな幸村さんだよね……はぁ」
「Holy shit!いい加減にしろよ犯すぞテメェ!」
「うっわ本性出たこれ!助けて小十郎さーん!」

私に振らないで下さい殿。
主君である政宗には逆らえない。まさか自分のいるこの場で事に及ぶとは考えられないがいくらとはいえ女性を蔑ろにする訳にも行かない。
八方塞の小十郎は困り果てていた。





殿…可愛らしい女子でござった」
「…あのさぁ旦那奥州まで何しに行ったんだっけ?竜の旦那と決着付けに行ったんじゃなかった?」
「そのつもりだったが」

一方その頃、幸村はといえば。山道を駆けている途中で佐助と合流し、現在は焚き火を起こし川で取った魚を焼きながら暖を取っている。焚き火をぼんやりと見つめ心此処にあらずといった様子の幸村に、佐助はため息混じりに声を掛けた。

「んじゃあ何で旦那の口から女の子の名前な訳?」
「………」
「ちょっとぉーなんでそこで固まんの?俺様意味判んないんだけど」
「い、いや…今までに殿のような女子に会ったことがなかっただけでござる」
「…そのってコ、どんなコ?」
「…そうだな、不思議な服を着ていた」
「不思議ぃ?」
「南蛮渡来の物らしいが…詳しくは知らぬ。」
「南蛮ねぇ。んで?竜の旦那のお気に入り?」
「さぁな…ただ、あの政宗殿に真っ向から向かっていく女子でござった」
「度胸あるねー、そのコ。」

南蛮渡来の不思議な服、ねぇ。俺様ちょっと興味沸いちゃったな。竜の旦那が居候させるって位だから面白そうだ。
そんな事を考えている佐助に気付いているのかいないのか、幸村は焚き火を見つめたまま黙り込んだ。

「それに、政宗殿の話す異国語を見事に理解されていた」
「へーあの異国語をねぇ」
「お家騒動に巻き込まれて奥州まで逃げて来たと言っていたが…」
「……へぇ」

異国語を理解出来て、度胸もあって、んで南蛮渡来の不思議な服?お家騒動に巻き込まれてーって、ちょっと気になるなぁ。

「…それなのに明るく笑える、強い心の持ち主なのであろうな」
「ごめん旦那、俺様仕事思い出した」
「む?そうか、それならばこの先は某一人で戻る」
「ごめんねぇー」

佐助はバツの悪そうな顔でそう言うとふっと姿を消した。幸村は少し考え込んだ後夜空を見上げる。

「……佐助の報告、心待ちにしておるぞ」

どうやら確信犯だったようである。知らず知らず幸村の思惑通りにけしかけられてしまった佐助は、夜の山道を奥州に向けて走っていた。












ほんとうはやさしくない


(奥州筆頭、恋の旅路は前途多難)










これで政宗夢とか言い張ってたらぶち殺されそうな気もします…
うちの幸村は腹黒いわんこです。確信犯です。