「…政宗さーん……」 「俺はいねぇぞ」 「いるじゃないですか」 慌てて部屋を飛び出したものの、そういえばさっきからかい倒したんだった!と気付いたは襖越しに怯えつつ声を掛けた。案の定不機嫌極まりない声で返事が帰って来るが即座にツッコめる辺り大分この環境に適応してきたようだ。襖を開けると、政宗はに背を向けて書物を読んでいた。 「……何だよ」 「……怒りませんか?」 「What do you say?テメェがさっき仕出かした事で怒り心頭なんだがな」 「そ、それは謝ります…えっとですね、あの」 「何だ」 あぁ、政宗さん超不機嫌。いや原因私にあるんだけどさ、うん。でもここで佐助さんの話したら甲斐まで行っちゃいそうな勢いだけど…言わない訳にも行かないし、小十郎さんが何とかしてくれると信じてここは腹を括ろう。 小十郎の胃の心配はしないでいいのか、という事はさて置いて、は俯いた。 「……さ、猿飛佐助さん、という人に、会いました……」 「………Pardon?」 「だ、だから部屋に戻ったら、佐助さ「何もされてねぇだろうな?!」……は、い」 酷く焦った様子で両肩に手を掛け半ば叫ぶように聞いた政宗に、は驚きつつもなんとか返事を返す。のその返事を聞いた政宗は安堵のため息を一つ吐き、俯いた。 「……政宗さん?」 「……無事で、よかった…」 「…はい」 そのまま暫しの間、二人の間に沈黙が流れた。政宗はといえば、幸村今度会った時がテメェの命日だ、等と少々物騒な事を考え、はといえば、気まずいなぁ政宗さんとりあえず手ぇ離してくれないかなぁ、と先ほどまである意味命の危機に晒されていたとは到底思えない事を考えていた。 「……それで、」 「はい」 「猿飛…何の用でお前に?」 「…えっと、興味が沸いたらしいです…幸村さんが私の事嬉しそうに話すから、って」 「(幸村ぶっ殺す…!)…何も、されなかったんだな?」 「はい。でも、甲斐に来ないか、とは言われました。断りましたけど」 「(油断も隙もねぇ…!)よく素直に引き下がったな」 政宗は内心気が気でない。何せ、天然かつ超鈍感、良く言えば天真爛漫、悪く言えばお子様なである。それに対し、佐助は忍。話術巧みにを甲斐へ誘う事など容易い事だからだ。ただ、は今此処にいるのだから、佐助はどうも本気で甲斐へ連れて行こうとは思っていなかったらしい、という事は何となく把握が出来た。 「無理矢理連れて行くなら自害する、って言ったら諦めてくれましたよ」 「……自害だぁ?」 さらりと自害という言葉を口にしたに、政宗は少しばかり驚きの篭った声で聞き返す(まさかの口からそんな言葉が出るとは思っていなかった) 「私は今、表向きは伊達家の客人ですよね」 「そうなるな」 「その私を、佐助さんが甲斐へ拉致した。立派な戦の名目になるじゃないですか」 「……まぁ、ならない事もねぇが……」 「無益な血が流れるのは、嫌なんです。」 「だからってお前なぁ……」 莫迦かと思っていたらあながちそうでもないらしい、と少々失礼な事を思った政宗であるが、の言う事は一理ある。確かには表向きだけとはいえ伊達家の客人なのだから、その客人を拉致したとなれば立派な戦の名目たり得るのは事実だ。そして戦、相手が甲斐の武田ともなれば沢山の兵が死んでいく事も安易に予想が付く。はそこまで考えて、伊達・武田両軍の兵と自分の命を天秤に掛けた。無益な血が流れるくらいならば自分が死ぬ。平和な世界で生きていた人間がそう簡単に出せる結論ではないはずなのに、は表情一つ変えずにさらりとそう言ったのだから、政宗が驚くのも無理はない。 「それに、私の素性がばれたら、まずいでしょう?」 「そうだな、未来を知ってる訳だからな…」 「だから私、奥州を離れるつもりはありません」 「そうか」 「政宗さんも、小十郎さんも…兵士の皆も、死んで欲しくないから」 「……」 何だかいい雰囲気じゃねぇか。このまま流れで言っちまうか? と、少しばかり意気込んだ政宗だったが、相手はだ。天然で超鈍感でお子様ななのだ。 「でも、幸村さんが絶賛する甲斐の甘味は気になるので、そのうち行きたいです」 お前今奥州を離れるつもりはねぇとか言ってなかったか?! そんな事を思いつつ、政宗はけっこう盛大にずっこけた。 |
最果ての空の色
(いつかお前と見れたらいいと思ってんだ。それくらい言わせろ莫迦女!)
今まで筆頭が酷い扱いだったんで挽回しようと思ったんですが
やっぱり筆頭を酷い扱いにしてしまう歪んだ愛のベクトルはどうすれば軌道修正できるでしょうかね(しらん
タイトルはちょっと捩くれ解釈してみました
「最果ての空」=「天下統一後の空」ということで