「なんですかこれ」 「見て判んねぇか?反物だ反物」 「いえ判りますけど」 現在、の目の前には部屋を埋め尽くさん勢いの反物がある。昨日の一件を小十郎に報告したところ、普段から着物でいればそう怪しまれる事もない、と助言され、政宗が問屋を呼び寄せ今に至る。問屋であろう初老の女性はにこにこと愛想笑いを浮かべていた(言うまでもないが、は今着物姿だ) 「どれでも好きなの好きなだけ選べ」 「ええええええ何ここで無駄に殿様っぷり発揮してんすか政宗さん」 「いいから、選べ。また昨日みてぇな事になったら厄介だ」 「…ですね」 実際のところそれは政宗の本音ではない。(確かに、着物を着ていれば厄介事に巻き込まれる事は少なくなるだろうが)の着物姿、言ってしまえば打掛姿を見てみたかったというのが本音だ。 「うえー…いっぱいありすぎ…」 「俺が見立ててやろうか」 「遠慮しますなんか遊女みたいにされそうだし」 「ぶっ飛ばすぞ」 なら淡い色の着物が似合う。それとも反対に黒や紺の着物でも似合うだろうか。そんな事を考えていた政宗は物の見事に玉砕した(鈍感なは政宗の言葉の真意には気付いていない) 「……なんか、どれも高そう……」 「Don't Worry。遠慮すんな」 「うー……なんか気がひける……」 は嫌々ながらもとりあえず一番近い位置にあった反物を手に取った。何だかんだで政宗の意見も聞きつつ反物を選び始めたに、先ほどから笑みを浮かべたまま黙って二人のやりとりを聞いていた問屋は、上機嫌で反物を一つ手に取るとに差し出した。 「いかがでしょう?奥方様でしたらこちらの色など」 「奥方様…(って、何だっけ……って、おい?!)ちっ違います!」 「おやおや。お隠しにならずとも判りますよ」 「違うんです私ただの居候ですほんと違うんです奥方様だなんてそんな恐ろしい!」 「ほっほっほ」 (何もそこまで否定しなくてもよくねぇか……つか恐ろしいってどういう意味だよ) 内心ぐさっときた政宗。結局、反物問屋に奥方様認定を受けてしまったは、いくら否定しても聞かないので勝手にしてくださいといった様子で諦めた。反物など選んだ事のないは問屋が次から次へと差し出す反物を訳も判らないまま見ていたが、商魂逞しいというか何というか、やはり差し出される反物はそれなりに高級なものばかりだった。 「こちらは蚕から紡いだ絹織物でして…お色はこれと、これがございます」 「んー……」 「お気に召しませんか?ではこちらは如何でしょう。藍染の絹織りで御座います」 「……あの、こんな高いの、いらないんです。一番安いのってどれですか?」 「……安いの、でございますか」 「はい」 一番安いの、と言うの一言に問屋は驚き少々間抜けた声を上げる。戦国乱世とはいえ、領主や貴族はそれなりに豪華な暮らしをしている訳で、貴族の娘達はこぞって高価で珍しい反物を欲しがった。が、はそんなものに興味はない。洋服に金をかけるくらいなら美味い物を食べた方がいいという様な考えを持っているし、戦国時代へやって来てもそれは変わらぬままだ。何より、政宗に買って貰うという負い目じみたものがあるのだから、尚更だ。 「おい。遠慮すんなつっただろ。」 「だってさぁ、政宗さんに買ってもらうのに、そんな高いの選べないっていうか」 「You Fooly…莫迦かお前。俺を誰だと思ってやがんだ」 「奥州筆頭の伊達藤次郎政宗様、でしょ」 「で、その伊達藤次郎政宗様の客人であるお前にだ」 「……はぁ」 「俺が何もしてやんねぇのは俺のPolicyに反する。」 「……ポリシーですか」 「だから遠慮する事はねぇ」 というのは建前だが、こう言えばは嫌々でも反物を選ぶだろう。少々こすっ辛いやり方ではあるが、こうでもしないとは贈り物を受け取らないのだ。 「……うぅ、判りましたよ選びますよ選べばいいんでしょ選べば…」 「You're smart.」 渋々といった様子で再び反物を選び出したの背を見て政宗は笑みを浮かべ、着物に合う簪と草履も必要だな、とあれこれ考えを巡らし始めた。(これから暫くのある意味では嬉しい苦悩が続く事になるようだ) 「……じゃあ、これだけ……」 「そんだけでいいのか?」 「5着もあれば十分です……」 半時程経ってが決めた反物はどれも淡い色合いの物ばかり5種類。全部が全部、今此処にある反物の中では安価な部類に入るので政宗は些か不機嫌だった(それでも、一般庶民には手の届かないような値段ではあった)。 「Okay。仕立てさせんのに採寸すっから、部屋で待っとけ」 「はい……失礼します」 はぺこりと問屋に頭を下げて部屋を出る。ぱたぱたと廊下を歩く音が遠ざかるのを待って、政宗は問屋に反物の代金を支払った。 |
今のままでいいから
(在るべき場所へ帰るその日までは、俺の隣で笑っていてくれ。今はそれしか、望まないから)
甘い雰囲気で走るかと思いきややっぱり筆頭苛めに走る私死ねばいい。