「………えっと、みっくん?」

…イカサマ少年と眼帯くん、二人の間に立っていたお嬢さん(見た事ないエクソシストだった。多分まだエクソシストになって日が浅いんだろう)が顎に人差し指をかけながら小首を傾げて言う。その呼び方する女はオレが知る限り一人だけだ。いやでもまさかそんな事がある訳がない。うん、違ぇ。絶対違ぇ。なんとなく見覚えある顔してるとかそんなのは絶対オレの気のせいだ。あってたまるかそんな偶然。

「…誰のことかな、お嬢さん」
「だから、みっくんでしょ?」
「……人違いだ」

大量のレベル2アクマで満身創痍のこの3人を包囲して、オレらの勝ちは確定。あとはこの3人の心臓抜いてイノセンスぶっ壊せば仕事も終わるはずだった。……そのはずだった。

「孤児院で一緒だったティキ・ミック、でしょ?覚えてないかな、私、だよ」

そのはずだったのに、なんだこの状況は。忘れる訳がない、目の前にいるはあの頃より大人びて、まだまだガキっちゃぁガキだが大人の女になりかけの、まあそれなりに色気も出始めるような年頃で、あの頃の破天荒ぶりは見た目からは想像もつかない。黙ってりゃそこらの貴族の女なんてメじゃないくらい美人に成長してた訳だが、オレの脳内ではこいつにされてきた数々の酷い仕打ちが超高速で再生されていた。走馬灯か、やめてくれ。

「え、みっくんて何さこいつと知り合いなん?なあ」
「知り合いってーか…孤児院が一緒だった。ねーみっくんでしょ?みっくーん」
「だから人違いだって言ってるだろ。それとも命乞いか?それなら無駄だよ、諦めな」

今ここで認めてしまったら何をされるかわかったもんじゃない。あの頃でさえ悪戯と呼ぶには程遠い、一歩間違えば殺人事件に発展しちまいそうな仕打ちをされてたんだ。オレが孤児院を出てノアに目覚めてと会わなくなってもう8年が経つ。8年分のあのイタズラは、正直不死に近いノアといえど命の危険が危ないのは目に見えている。絶対に認めらんねぇ。死ぬ。

「えーみっくんいつからそんな偉そうな…あぁでも今はノアなのか、うちらの敵かあ」

あ、やべぇ。もしかしたらオレってば地雷踏んだ?目の前のは笑顔を浮かべてオレを見た(その笑顔の裏にあの頃よりもっと鋭くなった明らかな殺気が篭っていたのは気のせいだと思いたい)

「…考え込んでるとこ悪いけどさお嬢さん。死んでもらうよ?周りはアクマだらけ、君らは満身創痍。逃げられる訳ないって判ってるだろ?」
「あーその声。やっぱみっくんだ。へーほーふーん…随分とまあ偉そうねえ」

負けるな、オレ。笑顔の裏に篭った殺気は更に鋭さを増して激しくなってるわけだけども此処で仕留めなきゃ後々面倒な事になる。ノアに目覚める前とはいえ数年を一緒に過ごした上に好きだったを手にかけるのは躊躇われたがこいつにされてきた数々の仕打ちを考えればそんな事はどうでもよくなった。

「……あのみっくんがねぇ…ノアねぇ……ふふふふふ」
「…え、ちょ何さその黒い笑顔…」
「ねえラビ、アレン。こいつってばこんなかっこつけな事してるけど実は物凄い情けない男だって話聞きたくない?」
「え、何ですかそれ物凄く気になるんですけど僕」
「オレもオレも。」

待て。頼むから待って。あの頃のオレとはもう違うんだよ、8年経ちゃ人間変わるもんだろ?!なあ!

「何から話そうかなあ、沢山ありすぎるのよねこいつドヘタレだったから。」
「へえドヘタレだったんですか想像つかないですねあのかっこつけ」
「だよねー。ほんと私もびっくりよ、当時12歳だった私にマジでフルボッコされてたあのみっくんがねーノアだとはねー」
「え、12歳の女の子に負けたんか。あいつ見た感じよっか5つは上だろ?17の男が12の女の子にマジでフルボッコされたん?それってすっげ情けなくね?」
「ついでに言うと筆卸は娼館の推定年齢40過ぎのオネエサマだったらしいよ、筆卸って意味知ったの最近だけど笑ったわ、今でも素人童貞とかだったら笑えるねー」
「うっわ!うっわ!男としてそれは同情するさ!」

待て待て待て待て。何嘘吹き込んでんのこのお嬢さん?!確かに筆卸は娼館でしたけど相手してくれたのは若くて美人な子だったんですけど?!

「それが原因で老け専とかなんとか」
「うーわー……ある意味トラウマさなそれは同情するさ…なあお前ってかわいそうなヤツだったんだな」
「いやいやいやいや何冗談間に受けてんの眼帯君?!オレの筆卸は若くて美人な子でしたけど!!」
「やっぱみっくんじゃーんやだなあもうすっとぼけちゃってぇ」
「………あ、」

オ レ の ば か 。失言に気付いた時にはもう遅い、オレが孤児院で一緒だったティキ・ミックだと気付いちまったこのお嬢さん…はあの頃と変わらないどす黒い笑みを浮かべてえらく楽しそうな声でそう言った。………マジで今すぐ逃げたい。千年公に怒られる方がまだマシだ。

「相変わらず単純なとこ直ってないのねー8年ぶりだっけ?みっくんもう20代後半くらいでしょ?少しくらい単純なとこ直っててもよさげな歳なのに……あーでもみっくんだからなあ…仕方ないかあ」
「いやいやいやさりげなく失礼な事言うのやめてくんないお嬢さん」

「お嬢さんだなんてそんな他人行儀な!みっくんあの約束忘れちゃったの?!」

あの約束って何。ていうか嘘泣きやめろよ、お前昔っから嘘泣きだけは巧いんだよな、眼帯君もイカサマ少年もなんか怒ってるし意味判んねぇ、マジでオレ帰りたい。

「女性を泣かすなんて最低ですねあなたって人は」
「なぁ約束って何さ?」

「酷いわみっくん…!私が18になったら結婚しようって言ってくれたのに!」

「「ハァ?!」」

いやいやいやいや。だから何言ってんのこのお嬢さん?!

「いやいや意味判んねぇから!てか眼帯くんもイカサマ少年もこいつの嘘泣きに騙されちゃダメだっつーの!」
「何が嘘泣きですか。の目真っ赤ですよこれの何処が嘘泣きですかほんと最低ですね貴方」
「女の子泣かすなんて最低さー……」

「みっくんのばか……!私信じてたのに突然いなくなるし、やっと会えたと思ったらみっくんノアだし意味判んない…!8年も信じて待ってた私の立場ないじゃない……」

「ほら!泣いてるじゃないですか!っていうか貴方何ですか、とそんな約束しておきながらいきなり姿消すって鬼畜ですか」
「いやいやそれ嘘泣きだから騙されちゃだめだから」
「これのどこが嘘泣きさ。マジ泣きしてんじゃんほんと最低さなお前」
「お前らの目は節穴か?!こいつこんな簡単に泣く女かよ?!」

「ひど…っ!みっくんのばかー!ずっと待ってたのにこんなのってないでしょ?!泣きたくなる気持ちも判りなさいよだから莫迦とか学ナシとか言われんのよサイッテー!」

「痛ぇ!痛いからやめ…っ!頼むからやめて!」
「あ、ほらやっぱみっくんじゃんか。やだなもうすっとぼけちゃってぇ」
「……あ」

あぁやっぱこいつ嘘泣きしてやがった。オレを殴る手を止めてにっこりと笑ってオレの腕を叩くの笑顔はあの頃とさして変わらない、無邪気極まりない明るい笑顔だった。…その笑顔の裏に、鬼か修羅が息を潜めていなければ、だけど。

「そっかぁみっくんノアだったのかぁ。だから孤児院からいなくなったのかぁ」
「…いや、まあ…それだけじゃないけど、うん、」
「…あ、でもこのままみっくんのこと見逃したら私ってば咎落ちしちゃうくね?やだよ20歳の若い身空で死にたくないし、」
「いや、あの、?」
「うん、最優先すべきは私の命、だわ!そういう訳で死んで頂戴みっくん!」

「だあああああお前やっぱ変わってねぇ!少しでもときめいたオレに謝れクソガキ!」

オレに向かって鎌(あれがのイノセンスらしい。とてもよく似合ってると思うよ、まるで死神の鎌だ。)を振りかざしたは相変わらずの笑顔のままオレに向かって全力で鎌を振り下ろす。通過自在の能力を持ってるとはいえ、イノセンスだけは通過する事ができないし今しがたあの鎌の威力(レベル2のアクマを一撃でぶっ壊してた)を見てしまった以上、食らう訳にも行かない。あの鎌で攻撃なんかされた日にゃ、確実にオレは三途の川とやらを渡るハメになる。それだけは嫌だ。

「何で避けるの?!私の愛を受け取ってよみっくん!」
「バカかお前!死ぬだろ確実に!そんな過激な愛はいりません!」

曰くこの攻撃は愛情表現らしいがそんな過激な愛情表現はいらない。

「返品不可!受け取りなさいみっくん!愛してるから私の為に死んで!」
「いらねぇえええええええええええ!」

せめてもうちょっとソフトに愛情表現してくれない?約束果たす前にオレ死んじゃいそうなんだけどねちゃん。












君との




チューベローズ



(本当に冗談抜きで危険な恋な訳だが)









枯れ果てた〜の直後にこれ30分で書き上げたとかどうなんだ私。
どうあってもティキをドヘタレにしたいらしい私しねばいい。