知らなかった。知らなかったの。あなたが敵だったなんて、知らなかった。
貴方は知っていたのかもしれないけれど、私は知らずに“白い”貴方を愛してしまった。
ねぇティキ、これは私の罪ですか?
「……知らないままならよかったな」
「無理だろ。いつかバレると思ってたし、オレ」
「…バラす様な事しなきゃいいのに」
「それも無理。黒いオレは殺戮願望抑えられねーし」
ティキが敵だと、ノアの一族だと知ったのはつい最近。
そう、たまたま任務先の町で居合わせてしまった。
私はアクマを破壊し終えたところで、ティキは私の仲間だったエクソシストを殺し終えたところだった。
----気付かないままでいたかった。
でも、たとえ姿形が違っても、気付かない訳がなかったんだ。私が愛した貴方の薫りに。
「ティキはさ」
「ん?」
「なんで私を殺さなかったの?ノアの殺戮願望って強いんでしょ?
私、エクソシストだよ?それなのに、なんで殺さないの?」
「馬鹿だなーオレがを殺せる訳ないっしょ?」
「…なんで?」
「……なぁお前それ確信犯?」
「え?」
ティキは疑問を投げた私を見て苦笑いを零した。
だって素直にそう思ったのよ、あの時殺された仲間はそれはそれは無残な姿になっていたから。
なんで私を殺さずに、ティキはこうやって私をその腕に閉じ込めているのか、私にはさっぱり判らない。だ
から聞いただけなのに、ティキはなんで苦笑いなんて浮かべてるんだろう?
----相変わらず判らない事だらけだ、このひとは。
「んなもん、オレがを愛してるからに決まってんでしょ」
「………え?」
「だーかーらー。お前マジで鈍いな、のこと愛してるから殺せねぇーの」
「ティ、ティキ?」
ティキの大きな手が顎にかかる。
私はただ今告げられた言葉に戸惑うばかりで抵抗らしい抵抗もできない。
----抵抗したところで、ティキの力に敵うわけもないのだけれど。
兎に角、私の顔はティキの筋ばった長い指で持ち上げられて、強制的に視線を絡められてしまった。
もちろん、逸らす事なんて出来やしない。
「なぁ、そろそろ決心しとけって」
「……ノア側に付く事?」
「そ。イノセンスって枷がなくなりゃ、だって普通の人間に戻れんだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」
「オレとイノセンス…いや仲間か。どっち取るよ、お前」
ティキは、ずるい。
こんな状況で仲間だなんて答えられるはずないのを判っていて
ティキは私にそう言うんだ、いつもいつも。
それでも、ティキを選んでも後悔はしないだろう。
「…仲間とか、言えるわけないでしょ」
「はは。そりゃそーだろーな」
「あんな奴ら、仲間だとも思った事ないわよ。一度もね。
----姉さんを殺した教団の人間なんて、大嫌いよ」
ティキは私のその言葉に少しだけ眉を吊り上げた。
そういえばティキにこの話はしていなかった。
--好き好んで話すような内容でもないし、知らないままでいてくれるのならそれでもよかったのかもしれない。
でも、教団を、エクソシストであると言う事を捨てて彼の許へ行くというのならば、これは告げない訳にはいかない話だ。
…どうして私が教団を捨てるのか、その理由を。
「何、どういう意味それ」
「ティキは知らないでしょ。エクソシストを作る実験のこと」
「何それ」
「……適合者、つまりエクソシストのことね。
その血縁者に無理矢理イノセンスをシンクロさせて、エクソシストを作り出そうっていう実験。
本部の責任者が変わってからはなくなったんだけど」
「…何、んな事やってた訳?」
「そ。……それで、私の姉さんが犠牲になった。
---シンクロが出来なくて、エクソシストとしては役不足だった私の身代わりになってね。
私と姉さんが教団につれてこられたのは私がまだ5歳だった時。
そんなガキがイノセンスを渡されていきなりシンクロしてみせろだなんて無理があるでしょ?
…結局、私はイノセンスを発動できなくてね。代わりに10歳上の姉さんが犠牲になった。
---当然、イノセンスに選ばれなかった姉さんは神に咎められて咎落ちになった。
私は----何もできなかった。姉さんが死ぬのを----
エクソシストに、殺されるのを目の前で見ていただけ。」
ティキは私の髪を撫でながら、黙って話を聞いてくれていた。
…私自身、この記憶を取り戻したのはつい最近の事だった。
余りにショックを受けすぎて、この記憶を封印していたのだ、私の脳は。
---それを呼び起こしたのは、スーマン・ダークというエクソシストだった。
咎落ちとなった彼を見て、私は彼を姉と重ねてしまった。
……忌まわしい記憶がよみがえった瞬間、私の中で何かが砕けた。
「----私のたった一人の身内を奪った教団に、何の義理があるっていうのよ。
母さんも父さんも病気で死んで、この世界にたった二人の姉妹だった。
アクマだらけになっていた日本で、必死で二人で生きてきたの。
それを、勝手なエゴで奪った教団に、今更何の義理があるっていうの?
ただイノセンスに選ばれたってだけで、こんな戦争に放り込まれて。
昨日まで友達だった子が、今日はアクマになってたなんてこともあったよ」
「……あー…まぁなんだ、その原因、作ってんのオレらだから何とも言えねぇんだけど、よ」
「ティキたちのせいじゃない。
私は、姉さんを殺したあいつらに復讐してしてやりたかったから
もう教団に帰る気なんてこれっぽっちもなかっただけ。
----だからあの時、ティキが私を浚ってくれて正直助かってる。ウソじゃないよ。」
「はは。マジか。」
「うん。だってそうでもなきゃ、イノセンス、壊すなんてできないし」
「だろうな。んな事しちまったらお前まで咎落ちになっちまうだろ」
「そーだね。だから助かった。」
ティキは私を抱き締めたまま、低い声で笑った。
---狂気に塗れた彼のこの笑い声が、私は好きだったりする。
白い彼も好きなのだけれど、私は狂気を裏に秘めた黒いティキを愛している。
それだけは間違いなく、言える事だ。
エクソシストである私が敵に恋をしたなんて、ラビ達が聞いたら笑うだろうか。
それとも怒るだろうか。
「……で、。アレぶっ壊してもいいの?」
「-------いいよ。今更、未練なんてないし、」
ティキが指差す先には壁に立てかけた私のイノセンス。
私の言葉を聴いたティキはゆっくりと立ち上がって、私のイノセンスを手に取った。
まじまじと眺めている。ティキ達西洋人には見慣れない形なんだろう。
神田の刀とはまた違って、西洋ではなじみのない武器だろうから。
「なぁ今更だけど聞いていい?」
「ん?」
「これ、何つー武器?見たことねぇんだけど」
「あぁ、薙刀っていう日本の武器。
武家の女性が扱う武器だよ。私、それが一番使いやすかったから」
「ナギナタ、なぁ……へぇー…」
ティキは刃先から柄の先までを指先でなぞると
口角を吊り上げるだけの笑みを浮かべて一瞬だけ私を見た。
次の瞬間、私のイノセンスはパキィンという音を立ててイノセンスの結晶
つまりは武器化を解いた原石に戻ってしまった。
あぁ、これでさよならね、エクソシストだった私。
「……さよなら、楓月」
キィン、と甲高い音がした次の瞬間
ティキの掌の中で私のイノセンス、楓月は塵となって風に舞った。
ティキはイノセンスだったモノをさらさらと風に流すと、笑顔を浮かべて両手を広げた。
「さぁ、これでエクソシストだったはもういねぇ。
ここにいるのはただの人間のだ」
「……うん」
「------歓迎するぜ、。ようこそ、ノアの一族へ」
ティキはそのままゆっくりと私に近づくと、その両腕の中へ私を閉じ込めた。
そのまま、ティキは私の団服を---エクソシストである証のローズクロスを剥ぎ取った。
「……ティキ?」
「なんもしねーよ。オレ、この服見てんと気分悪くなんの。もういらねーだろ」
「……うん。」
「どこまでも堕ちてこーぜ。となら地獄にだって堕ちてやる」
「そーだね、私もティキとなら怖くないわ」
CrimeHazard.
(罪を犯す事、私が私である為に)
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めぐ様へ献上。
007/06/04 カルア