私はどうやら異世界トリップというものをしてしまったらしい。
だってそうでなければ、どこをどう間違ったら自分の部屋のドアを開けたと思ったら
見慣れない豪華な屋敷の中にいるっていうんだ。どこ○もドアか。えぇおい。
いつ私の家にドラ○もんが来たっていうんだこのやろう。
訳が判らない上に今私の目の前にいる男はそれはそれは驚いた顔で私を見ている。
なんだおまえ、驚きたいのは私の方だ。いきなり目の前に現れやがって
しかも何なんだその額の傷と死後何日も経ってそうな不健康極まりないその肌の色は。
そう言ってみるもののもどうやらこの男は日本語がわからないらしく
さっきから耳に届く聞き取れる範囲の単語は英語だった。何だっていうんだほんとうに。
「……ここはどこ、あなたはだれ?」
「お?英語話せるじゃん。オレ、ティキな。お嬢さんは?」
「てぃ、き…ティキ、さん?わた、しは…、というます」
英語なんて学校で習った必要最低限の会話しかできやしない。
なにしろ私は生まれてこの方日本を出たことがないという筋金入りの田舎者なのだ。
東京にすら行ったこともない。今時珍しく海外旅行未経験の人間な訳だ、私は。
それなのにいきなり目の前に現れたこの男は英語を喋っているし、顔立ちや体格から察するにきっと外国人。
こんなときドラ○もんの翻訳コンニャクがあればいいなぁと思うんだけれども
あいにくドラえ○んが生まれるのは私が生きている時代から軽く100年以上後のこと。
要は、今のこの状況を自力で打開せねばならないらしい。
目の前の男はたどたどしい私の英語を聞いて、心なしか笑っているように思えた。
あぁ、この男が日本語がわかるというのならそれはもう酷いくらいの暴言を浴びせて
へこませることだってできるのに、日本語が通じないのでは意味がない。
私は深くため息をついた。
「…な。ここがどこだか、わかるか?」
「……ここ…いいえ、まったく、わかるないです」
それでもどうやらこの男は英語に不慣れな私を気遣ってくれているらしく
判りやすい英語でゆっくりと喋ってくれた。
……もしかしてこいつ、遊んでそうな見た目に反してもしかしたらいいやつなのかな。
なんて思っては見たけれど、ティキ、という名前(なのかも定かではないが)以外は
この男のことを何も知らないのもまた事実。そうやすやすと信用していい相手ではないわけで。
とかく警戒心を解かない私に、目の前の男は苦笑いを浮かべていた。
「オレは、…何て言や判んだ、オレは、わるいやつじゃ、ないからな?」
「…?????」
「あー…通じねぇー…」
「……ティキ、さん?」
「あ?どうした?」
「(I'm not BatGuy、……)ティキ、さんは、わるいひと、では、ないのですか?」
「おー!そうそう、オレ、わるいやつじゃないから!」
「…わかるました、…しんじる、ます」
というかそれ以外にどうしろというのか。
兎に角、私のその言葉を聴いた男は嬉々として私の手を取って(というか腕を掴んで)立ち上がった。
もちろん、私も釣られて立ち上がり、そのまま部屋の外へと連れ出されてしまう。
…少しでも信用した私は馬鹿だろうか。
あぁどうしよう、私の17年という余りにも短く儚い生涯はこの場で終えるのかもしれない。
お母さん、お父さん、ついでに兄貴。先立つ不孝をお許し下さい。
「あのな、にほんご、わかるひとのところ、いくから」
「…にほんごが、わかるひと、いるですか?」
「そう!えいごには、ここでくらすうちになれるから、」
「………ここで…、くらす?あの、わたしは、」
此処で暮らす、とか言わなかったかこの男。
何か思いっきり嫌な予感がした訳だけれども私の手を掴むこの男の力はとても強くて
非力な私ではとても跳ね除けられそうもなかった。
仕方なしに手を引かれるまま向かった先は、とても大きな広間だった。
---日本人、いるんだろうか。こんなどこかも判らない英語圏の国(だとおもう)に。
「千年公ー!」
「ハイハイ、おや、ティキぽんどうしましタ?そちらのお嬢さんハ?」
「あーなんかいきなりオレの部屋のドア開けて入ってきちゃって。
千年公何か知ってます?っていうかこのコ英語ダメみたいで。確か千年公日本語しゃべれましたよね?」
「あぁ、そういう事ですカvしゃべれますヨv」
「よかった、オレさっきから会話するのにすっげー苦労してんすよ。通訳してくれません?」
「判りましタv」
本当に人間なのかすら疑いたくなるようなふとっちょが私に近づいてきて
私は男に手を掴まれたままなのを忘れて逃亡を図った。
当然逃げられる訳もなく、腕を引かれて元の場所に戻されてしまった訳で
目の前にいるふとっちょはそれはそれは威圧感があるわけで。
……真面目に私、いまこの場所で死ぬのかもしれない。どこかもわからないこんな場所で。
『お嬢さん、私の言っている事が判りますカ?』
『!にほんご!』
『エェ、日本語ですねェvお嬢さん、お名前ハ?』
『あ、です、!あの、おじさん・・・?は?』
『おじさんじゃないデスv私は千年伯爵、気軽に千年公と呼んで下サイv』
『千年公…えっと、あの、此処は一体どこですか?
私、確か自分の部屋のドアを開けたはずなんですけど
あの、私なんでこんなところに…!』
『落ち着いて下サイv』
千年公(っていう名前なのか通称なのかわからなかったけど)は
私の肩に手を置いてにっこりと(といっても表情は相変わらず貼り付いたみたいな笑顔だったけど)言った。
私はその表情に思わず黙り込んだ。
だっていきなり目の前にこんなひとのアップが来たら絶対誰だって絶句する。
『いいですカ、まず貴女はこの世界の人間ではありまセンv』
『……は?この世界?え?』
『次に、。貴女は私達の新しい家族デスv』
『……家族?はい?あの、ええぇ?』
『そして、英語はちゃんと喋れるようになりまスし
学校もきちんと行けまスv何も心配はいりまセンv』
『…あの、千年公、私全く状況がつかめてないんですけど…』
突拍子のなさすぎるその言葉に、私は冷や汗を流した。
だってここが異世界だなんていわれて
しかも千年公とあの男が新しい家族だなんていきなり言われたら無理もないでしょ?
っていうか何、私、もう帰れない系?お母さんお父さんついでに兄貴はどうなるの?
『ですから、。
貴女はもう今までの家族の許へは帰れないんでスv
というか、帰しまセンvこれからは私達がの新しい家族ですカラv』
『はぁ?!』
『まぁ、まだ覚醒には早いでしょうし
暫くはティキぽんと一緒にここでの生活になれて下サイv
そのうちに記憶も戻るでショウv』
『覚醒?記憶?』
『そのうち判りマスv』
『?????』
判らない事だらけだ。
覚醒とか記憶とか
ティキ(っていうのはやっぱりあの男の名前らしかった)と一緒にここでの生活に慣れろとか。
何をいきなりそんなこと言われたってついていけるわけもない。
私はただ混乱して、千年公を見上げていた。
「…さて、ハナシは終わりましたヨ、ティキぽんv」
「オレまったく付いていけなかったんすけど。何話してたんすか」
「えぇ、今の彼女の状況と、これからの事デスv
ティキぽん、の事をよろしく頼みますヨv」
「え?!オレ?!なんで、ロードとかいるじゃないっすか!」
「ロードは学校があるでショv
どうせ暇なんですカラいいじゃないですカvそれに、」
千年公はティキになにやら耳打ちをした。
次の瞬間、ティキの目が大きく見開かれて、ティキは驚いた目で私を見た。
何、何なのよ一体マジでほんと帰りたい助けてお母さん。
「……!道理で!」
「でショウ?vまだ幼いですガ、彼女は間違いなくあのですヨv
よかったですネェ、ティキぽんv」
「マジっすか。
そーいや…似てる似てるとは思ってたけど…
そっかそっか、か、はは」
すいませんついていけませんっていうか何話してるんですかマジで。
英語がわからない私の目の前でそういうことやめてくれませんかね?
とか思ってたら、今度は日本語で千年公が私に話しかけてきて
私はびっくりして飛び上がりかけた(いきなりあのアップはキツいものがあるとおもうんだ)
『、にはまだ記憶が戻っていないのでアレなんですガv
これから此処で暮らしなサイv』
『…あの、っていうか私、本当に家に帰れないんですか?』
『えぇvが本来いるべき世界がここですからネv』
『?私が本来いるべき世界…?』
『それも、此処で暮らすうちに判ってきますヨv』
結局、もう帰れませんカラv
と満面の笑顔で言われてしまい、私はこの屋敷で暮らす事になった。
まぁ、ここへ来てしまった原因がわからない以上仕方がない。
っていうかここからほっぽりだされても野垂れ死ぬだけだ
という事だけは予想がついたので、千年公の言葉に甘える事にした。
……この際だからひっかかる単語はみんな頭の隅に追いやった。
そうでもしないと混乱して死にそうだ。
とにかく、ティキは私の手を握ったままどこか気色悪いような満面の笑みを浮かべていた。
その笑顔に少しだけ寒気がして、殺意が芽生えたっていうのは内緒の話だ。
ハロー、異世界!
(そしてグッバイ、平凡な日常)
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携帯サイトにて主催中のティキ祭り「デスペラードマイダーリン」に献上したブツ
なんていうか、異世界トリップモノ大好きですね。
で、これあれですね、迷走ノスタルジアで使ったタイトルですねあははは!