「ただいま、」
「ティ、ティキ」
目の前にいるオレの愛してやまない可愛い可愛いは目をぱちくりさせてオレが手に持っている花束を見つめていた。そりゃそうだろ、だってオレ、今までこんなもん持って帰ってきた事ねぇもん。オレが持ってるのは薔薇の花束。真っ赤な真っ赤な沢山の薔薇。なんでこんなもん持ってるかってーと、今日がの誕生日だから。愛しいの誕生日だって言うのに不運にもオレは朝から仕事で、がオレを送り出す時にそりゃあ寂しそうな顔をしたもんだから、が少しだけでも笑ってくれればいいかなとか思って沢山の赤い薔薇を買って帰ってきた訳。
「……それ、どうしたの」
「どうしたって、今日は何の日だ?」
「何の日、って…私の、誕生日?」
「そ。」
だから貰って?
そう言って花束を差し出せばは頬を赤く染めて視線を床に落としたまま花束を受け取る。薔薇の香りを沢山吸い込むように深呼吸して、は顔を上げた。その頬はやっぱり赤くて、それでもが照れた笑みを浮かべてオレを見上げるもんだから、のそんな可愛い表情を見た瞬間、仕事の疲れなんてどこへやらだ。
「ティキ、うれしい」
「気に入ってもらえた?」
「うん、」
「早いとこ生けないとしおれるぞ」
「あ、」
ははっとした顔でメイドアクマを探しに部屋へ戻る。オレは一人エントランスホールで笑みを浮かべる。花束をばらせば、きっとは花束の中のあれを見つけるだろう。そうしたらきっとは慌ててオレのところにやってくる。そう確信してオレは着替える為に部屋に戻った。
***
「さマ、その花束ハどうナさっタのでスか?」
「ティキがくれたの。ねぇこれを生ける花瓶、ないかなあ」
「確カ倉庫ニ、丁度良イ花瓶が」
「持ってきて?私、花束をばらしておくから」
「かしコまリましタ」
メイドアクマが部屋から出て、私はティキがくれた花束を解いた。動かすたびに満開の薔薇からいい香りがして、私の部屋は薔薇の香りに包まれて。これがティキがくれたものだと思うと、とっても嬉しい。だってティキがこんなプレゼントをくれるなんて思っていなかったから、余計に。
「……あれ?」
---コン、
と音を立ててテーブルに落ちたのは小さな小箱。…そう、丁度指輪が入るくらいの、深紅のベルベット地に包まれて真っ黒なリボンを掛けられた綺麗な小箱。まさかまさか、と私の心は高鳴って、ゆっくりと小箱を拾い上げてみた。少し重たいその箱にかかったリボンを解いてみたら、中身は綺麗な宝石箱。
「……何、かなぁ」
ぱちん、
留め金を外してゆっくりと開く。中に入っていたのはメッセージカード。取り出してみたらその下には、綺麗な綺麗なピンクダイヤの指輪があって。
「ティキ、」
それは丁度、私の左薬指にぴったりのサイズで。…そういえば最近ティキはよく私の手を握っていた。もしかしてそれはこのために?なんて都合のいい解釈をしてしまうのはやっぱりこのプレゼントが嬉しくて、気付いたら私は嬉しさの余り泣いていた。
「ティキ…っ」
嬉しくて嬉しくて、今すぐにでも返事を返したくて。私はメイドアクマが帰ってくるのも待たずに部屋を飛び出した。向かう先は勿論ティキの部屋。きっと彼は今頃部屋のソファにゆったりと座って、何もかも見透かしたような表情で紫煙を燻らせているんだ。
「ティキっ!」
勢いよく扉が開いたと思ったら、案の定涙を瞳いっぱいに溜めたがいた。その左薬指にはピンクダイヤの指輪。がどうして泣いているのか、どうしてそんなに息を切らせてオレの部屋にやってきたかっていうのは予想していた事だったから、吸いかけの煙草を灰皿に押し付けてソファから立ち上がった。その途端にオレの腕の中に飛び込んでくる。抱きとめればはオレのシャツを握り締めたまままた声を上げて泣きだした。
「なぁに泣いてんの、」
「、って…!ティキ、」
「返事、聞かせにきてくれたんだろ?」
「……ッ断る訳ないでしょ!ばかぁっ!」
そう相変わらずの憎まれ口を叩きながらはより一層大きな声で泣いて、オレのシャツはの涙でびしょびしょになったけどそんな事に構っていられない。今のオレの心の中は愛しいがオレの気持ちを受け取ってくれたっていう喜びに満ち満ちてるんだから。
「信じ、らんない…っティキらし、くない…っ!」
「え、なんでよ」
「って、花束、に、指輪、仕込むなんて…っ」
「嬉しくね?」
「嬉しいわよこのばかぁ!」
「いて」
はどす、っとオレのみぞおちに拳を一発入れてまた泣いた。相変わらず、照れ隠しの行動が過激なワケだけれども、小さな小さな消え入るようなの言葉にオレはまた笑みを深くした。
ティキ、ティキ、私ね、貴方だけを愛してる。だからずっとずっと離さないで、私を傍に置いていて?
そんなこと頼まれなくっても、オレはを離すつもりもなければ他の男にやるつもりもない。これからもずっとずっと、オレの隣でオレの大好きなその笑顔で、オレだけを愛してるって言ってくれ。
咲き誇れ、恋心!
(ずっとずっと愛してるよ、Meu Querido)
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DMD提出。
自分で書いててこんな事するティキはありえないなあと思いました。