せかいなんて知らなかった。貴方に会うまで、私はひかりを知らなかった。貴方に会って初めて、私のせかいはひかりを知った。
そう、私にとって貴方の存在そのものがせかいでありひかりになったあの日
出逢いは路地裏
「いつも突然だよなぁ相変わらず」
今日も今日とて、突然千年公から呼び出されてオレはロンドンにいる。呼び出された理由は判んねぇけどきっとまたロードが宿題溜め込んでてそれの手伝いに家族総出で駆り出されるんだろうなって予想は付いた。現に何の用ですかと聞いたら思いっきり言葉を濁されたからそうだと見て間違いはないだろう。そんなこんなで渋々オレはイーストエンドの路地裏を歩いていた。
「……ん?」
薄暗い路地裏に隠れる様にして、壁に寄りかかって座り込む女の子がいた。多分18かそこらの、娼婦なんだろうって感じのドレスを着た子だった。ただ、そのドレスはボロボロで靴も履いてなくって、元々は綺麗なんだろう金色の髪はくすんでボサボサだった。別に珍しい事じゃない。ただ、彼女の周りの空気がとても懐かしいようなそんな奇妙な感じがしただけだ。
「……何してんの、お嬢さん」
「女を買いたいなら他を当たって下さいな。この通り今の私は商品価値ゼロですから」
「いやいやそうじゃなくて。どーしたの」
思わず声を掛けたら彼女はオレを見ないままキツい口調と声色で吐き捨てた。この街じゃ珍しくもない、男に陵辱されたかヤり逃げされたか、まぁ大方そんな所だろう。安易に予想がつきすぎる格好をしていても彼女は泣きもせずただ無表情で夜空を見上げていた。
「別に。輪姦されただけよ。この街じゃ珍しくもないでしょう」
「あーそりゃお気の毒に。」
「心にもないお言葉どうも」
「はは、キツいなぁお嬢さん」
ただその肩は小刻みに震えていたから、オレは上着を脱いで彼女にかけてやった。オレよりもかなり小柄な彼女にオレの上着は大きすぎたけれど、オレが上着をかけた途端彼女は驚いたような目でオレを見上げた。その目はとても綺麗なアイスブルーで、オレは不覚にもその目に射抜かれた様に固まってしまった。
「……同情でもしてるつもり?」
「…違う違う。こんなとこいたらまたヤられるよ。オレと一緒においで」
「……え、」
「…ま、こんなとこでいきなり声掛けたら信用してもらえねぇのも無理ねぇか」
一緒においで、なんてちょっと言葉の選択を間違えたかもしれない。彼女は怯えた目でオレを見上げたまま固まってしまった。オレが苦笑いを零したら彼女が立ち上がった。やっぱりというか何というか、オレよりもかなり小柄で華奢な子だった。
「…お名前は?」
「へ?」
「貴方の名前よ。私は」
「か。オレはティキ」
、と名乗った彼女は名前から察するに英国人。この街で生まれてこの街で育ったんだろう事は予想が付いた。ただそれ以上の事は喋らなかったからオレも無粋な詮索はしない。必要であればから話してくれるだろう。
「ティキ……で?私をどうするの」
「ん、とりあえず…三ツ星、と言いたいけどそれじゃなあ…」
「…ドレス、これしかないわよ」
「そっか、じゃあドレス新調してからな」
「え、ちょっと待ってそんなことしてもらう理由がないわ」
は驚いたような顔でオレのシャツを掴む。だってその格好じゃ入れないでしょ、と言ったらは呆れたようにため息を吐いた。
「……何?」
「ばかね、初対面の娼婦にドレス買ってやろうなんて、あんたいいカモだわ」
「はそういう女じゃねぇだろ?」
「ま、ね……そこまでがめつくはないわ」
「だろ?ま、オレがしてやりたいだけだからさ」
「あっそ。なら甘えさせてもらうわ」
はオレの後ろを着いて歩く。いかにもな男達とすれ違う度に値踏みされるような視線を投げられてはどうも不満だったようで、自分からオレの腕を取るもんだからオレは思わず笑った。
「何よ」
「いや?」
「だって面倒臭いんだもの、あぁいう下種な男は嫌い」
「はは。ま、そりゃそうだろうな」
「私にだって客を選ぶ権利くらいはあるの。」
いいからさっさと歩きなさいよ、といわれてオレはまた苦笑いを零した。どうにも娼婦という雰囲気ではないというこのお嬢さんにオレはますます興味を抱いた。今まで世話になった娼婦は金次第で誰にでも足を開くし客を選ぶなんて事はしなかったから。
「変わってるって言われない?」
「…そうねえ、同僚には評判悪いわね、私は」
「あ、やっぱり」
「何、どういう意味よ」
「いや…別に変な意味じゃねぇよ。ちゃんとプライド持ってやってんだなって」
「そりゃ当然だわ、自分の身体を売るんだもの。プライドの無い娼婦はただの肉便器よ」
「…言うねぇ」
やっぱりオレの思った通り、興味をそそる。オレはどうも面白い野良猫を拾ったらしかった。
(出会いは路地裏、君とオレの恋物語)