「……ティキ、ほんとにいいのこんなバカ高いドレス」
「いいって。どーせ金はかかんねぇ」
「はい?」
そんなこんなで、ブローカーのおっさんがやってる仕立て屋にを連れて来た。タイミング良くショウウィンドウに黒いドレスが飾ってあったからそれを着せてみればサイズもぴったりでの白い肌に黒い生地はよく映えた。はその値札を見てびっくりしたようだけど、金を払う訳じゃないから別に値段を気にする必要もない。ブローカーのおっさんはあれもこれもとショールやら靴やらもまとめて持ってきた。
「ミック卿にはいつもお世話になっております故、商品は私からの気持ちと言う事で」
「…らしいんでな」
「……ティキって貴族様?」
「さぁな」
着替えを終えて化粧までばっちりされたは到底娼婦になんて見えない。貴族の令嬢と言ってもおかしくないくらいの美人だった。ブローカーのおっさんは千年公によろしくとオレに伝言を残してうやうやしく頭を下げた。
「…なんか悪いわ、こんな高価なドレス貰って」
「いいって。何度も言うけどタダだし」
「……じゃあお言葉に甘えさせてもらうわね、返すって言っても無駄みたいだし」
着飾ったと並んで店を出る。無粋な視線を投げられる事はなくなったものの、今度は娼婦連中に睨まれるハメになったはまだ不機嫌だ。イーストエンドを抜けるまであと少し。
世
界
が
色付き始めた日
「……本当に三ツ星なのね」
「だから言ったでしょ。」
「貴族様じゃないのに三ツ星なんて、本当にティキって何?」
「もうすぐわかるよ。さ、お手をどうぞ、お嬢さん」
「…ありがとう」
の手を引いて三ツ星に入る。オレを出迎えたアクマは一瞬固まったものの、気にせずオレらを個室へ案内した。個室の扉を開ければやっぱりというか何というか、千年公以下オレらの家族大集合。で、テーブルの上にはテキストの山。オレの予感、大的中。
「遅かったですねェティキぽんv」
「いや、まぁなんつーか…」
「?ねぇティッキーその子誰ぇ?」
は大きなアイスブルーの目をぱちくりさせて千年公達を見渡した。まぁ、説明しなかったオレも悪ぃ。がオレの服の裾をくいくいと引っ張ったから、に合わせて少し屈んでやればはオレの耳元でもっともな事を口にした。
「ティ、ティキ…この人たち顔色悪いわ…!」
「ぶっ…」
そこなのか。いや確かに黒くなったオレらの顔色、というか肌の色は土気色の灰褐色ではあるけれど、それ以前にまず千年公の外見にツッコミを入れるかと思っていたら予想外だった。千年公は頭上に?をいくつも浮かべて首をかしげている。
「ティキぽん、そちらのお嬢さんは誰ですカ?v」
「あー…ちょっとイーストエンドで拾ったんす」
「イーストエンドで?v」
「えぇ、まあ…困ってたみたいなんでつい」
は今度は千年公をじーっと見つめたまま疑問そうな顔を浮かべている。が口を開こうとした時、千年公がに近づいて、は怯えたみたいに一歩後ろに下がった。…まぁいきなり千年公のドアップはキツいよな。
「お嬢さん、お名前ハ?」
「あ…と申します、ティキさんに助けて頂いて…あの、えっと」
「そんな怯えなくても何もしまセンv…貴女の分も食事を用意させまショウv」
「え、いえそんな悪いです私そんなことしてもらえる立場じゃ…」
「いいんでスvさ、座ってくだサイv」
千年公に背を押されて無理矢理椅子に座らされたは緊張した様子で黙り込んだ。オレはの隣に座って、食事が運ばれてくるのを待った。
「ねぇティッキィー、宿題手伝ってぇ」
「……やっぱりそれか?オレを呼び出した用事」
「半分正解ぃー」
ロードは笑いながらオレに数学のテキストを差し出して、テーブルに身を乗り出したままオレの隣にいるに声を掛けた。は驚いた様に一瞬肩を震わせてロードを見る。……まぁ、普通の人間には黒いオレらの肌色は変に見えるんだろうなあ。
「ねぇ、だっけぇ?」
「え、あ…そ、そうだけど…?」
「僕ねぇ、ロードっていうのぉ。ロード・キャメロット。よろしくねぇ?」
「ロード…よ、よろし、く?」
「んでねぇ、あっこのでかいのがスキンでぇ、黒髪がデビット、金髪がジャスデロぉ。おかっぱの人はルル=ベルっていうんだぁ」
一通り家族の紹介を終えたロードはにこにこと笑顔のままに紅茶を差し出す。おっかなびっくり紅茶を受け取ったは戸惑ったまま紅茶を一口飲んでため息を吐いた。
「なぁアンタ…だっけ?ホームレスとどういう関係?」
「?ホームレス?」
「ティキの事だよ。ヒヒッ」
「……?ティキ、あなたホームレスなの?それなのになんでそんな身なりいいの?」
「「ギャハハハ!」」
「テメェらな……あーまぁなんだ、それは後で話すよ」
「????」
頬杖をつきながらに不躾な質問をしたのはデビットだった。っていうかお前らな、誤解を招くような発言するんじゃねぇよ確かにオレは孤児だけどホームレスじゃねぇっつーの。何度言えば判るんだ全く。ため息を吐いてテキストをめくる。…またオレの苦手な数学。これはイジメかイヤガラセか?と泣きたい気分になった。
「ねぇは勉強得意ぃ?」
「…べ、勉強?」
「そぉー」
「…ごめん、勉強できないっていうか学校自体行ってないから教えてあげられないと思う」
「そっかぁー」
は心底申し訳なさそうな顔でロードに謝る。も学校行ってねぇのか、と思ったが考えてみたらはイーストエンドの娼婦だった訳で、当然と言えば当然なのかもしれない。ただオレよりは賢いらしく、結局ロードと一緒に社会科の宿題をやり始めていた。オレが双子にからかわれ貶されまくったのは言うまでも無い。
(貴方と出会ったイーストエンド、私のせかいが色付き始めた日)