11:ティーズと














それから1週間程経って、ティキとは街を出た。
酒場の主人から聞き出した3人のエクソシスト--既に1人削除していたので残りの2人--を始末して。
結局、今度は南へ行ってみようというティキに従い、ドイツからイタリアへ汽車で向かう事になった。


「イタリアかぁー。イタリア料理好きだから嬉しいな」

「遊びに行くんじゃねーんだぞ?」

「うん、判ってるって」


昼過ぎに乗車した汽車の個室、ティキとは向かい合って座っていた。
ティキはコーヒーを飲みながら煙草を吸い、は先程駅で買ったサンドイッチを食べている。
不意に、のケープの中から1匹のティーズが出て来た。
ティキはひらひらと舞うティーズを見ながら、疑問を口にする。


「……あれ?オレティーズ出したっけ?」

「あ、これねぇ、千年公が私にくれたの。ティキのは黒いけど私のは黒に近い紫でしょ」

「……そーいや……」


ひらひらとの周りを飛ぶティーズは確かに光を浴びると紫色になる。
よくよく見れば、のティーズはティキのティーズと少しデザインも違うようで。


「ティキもたくさん飼ってるんでしょ?」

「あぁ。増えすぎて何匹いるか判んねぇけどな」

「1匹だと寂しいだろうし、増やしてあげようかなーって思って。人間食べると増えるんでしょ?」

「そうそう。結構簡単に増えてくぜ」

「そっかー。じゃあ頑張らないとねー?ティーズ」


ティーズはそのの言葉に頷くように上下に動く。
が指を差し出せば、ティーズはの指先で羽を休めた。


「可愛いよねぇ、ティーズ」

「まぁあの人の趣味だけどな」

「ねー」




















***
























「んまーいvv」

「お前マジ旨そうに食うよなぁ……」


夕飯時になり、食堂車。
ティキはと二人で食事を取っていた。
イタリアへ向かう汽車とあって、メニューにはの好きなイタリアンが充実していた。
はナポリタン、ティキはリゾットを食べている。


「やっぱ本場に近いと違うね。トマトソースがぅんまいv」

「食ってるときが一番幸せなタイプだろお前。太るぞ」

「うっさい馬鹿ティキ。」


ティキは半ば呆れ顔でパスタを口にするを見ている。
そんな悪態をつくティキには不機嫌な口調で返す。
傍から見れば微笑ましいカップルに見えるだろう。


「そーいやお前、こないだの街で巻き上げたヤツどうしたよ?」

「ん?あれ全部売ったよ?ほら、あの街出るときに私買い物してくるって2時間くらいいなかったじゃん」

「あぁ…あん時か」

「そうそう。全部で10ギニー。時計がいいやつだったみたいでね」

「へー。」


ポーカーで巻き上げた品物は既に換金していたらしい。
はほら、とケープから麻袋を取り出し、ティキの前に出した。
開けてみれば確かにギニー金貨が10枚入っている。


「…これが持ってた方がいーんじゃねぇの?」

「なんで」

「いやだってお前が稼いだ金じゃん」

「いーよ、ティキ持ってて」


はティキに麻袋を押し付けると、シャンパンを飲んだ。
ティキはしぶしぶ麻袋を受け取ると、と同じようにシャンパンを口にした。


















***



















「ねーティキのティーズ見せてよ。私一回も見た事ないー」

「あ?オレの?なんで」

「私のティーズさっき見せたじゃない。」

「……まぁいっけど」


食事を終え、個室に戻った二人。
既に日は暮れ、外の景色は闇一色だ。
ケープからぴょこっと飛び出したティーズを見て、ティキは肌を褐色に染める。
ティーズを1匹、身体の中から出すとすぐにまた白く戻ったが。


「あーほんとだ。微妙に違うね」

「だろ?」


はティキのティーズをまじまじと眺め、自分のティーズと見比べる。
ティキのティーズは羽先に模様が入っていたが、のティーズは羽元に模様が入っている。
その模様ものティーズはハートで、ティキのティーズはスペード模様。


「増えれば模様とか違うヤツが出てくるぜ。気付いたら全部違うしな、オレの」

「へぇー。っていうかどういう原理で増えるんだろうこの子達」

「知らね。まぁ便利だから飼ってるって感じかな、オレの場合。手ぇ汚さなくて済むし」

「ふーん……私も頑張って増やしてあげよっと。」


は肩に止まったティーズを撫でながら、優しい笑みを浮かべて言った。
どうやらよほどティーズが気に入っている様だ。


「お前もたくさん友達いた方が嬉しいよね?」

『ギャギギギ』

「うんうん。私頑張るからお前も手伝ってね」


ティキはティーズを戻し、頬杖を付いてを見ていた。
ティーズに優しく話し掛けるに笑顔を零して。

























***
























「わー…海、キレー……」

「…さて、と。とりあえず宿探すぞ宿」

「了解ー」


3日後、朝10時。
イタリアのとある港町--ヴェネツィアに程近いストーラという小さな町--で汽車を降りた。
はプラットフォームから見えるエメラルドグリーンの海に見入っている。
ティキは荷物を持ちながらに声を掛けると、は小走り気味にティキの後を追う。
駅から街へ抜ける道はレンガ造りで、ドイツとはまた違う趣があった。


「ティキ、私海が見えるとこがいい」

「何で?」

「こんな綺麗な海見た事ないから。日本の海って汚いの。」

「へぇ」

「住んでたとこが都会だったから余計にね。田舎の方行けば綺麗なんだけど」

「…んじゃ、海の近くにしますか」


海岸へ抜ける通りを歩く。
大通りから少し入ったその道はとても静かで、波音が遠くから聞こえた。
吹き抜ける風は潮を含み、微かに香る潮の香りには楽しげに笑顔を浮かべた。


「……ティキ、ここ宿みたいだよ」

「…お」


が足を止めた建物の看板には「LOCANDA」と書かれている。
小さすぎず、大きすぎず、なおかつ目の前には海が見える。
ここでいいよね、と笑顔で言うにティキは小さく溜息を吐き、宿屋の扉を開いた。


「いらっしゃい。」

「二人なんですけど、ダブルかツインの部屋空いてます?」

「えぇ、どちらも空いてますよ。お二人さんは旅人で?」

「ま、そんなとこっスね。、ツインでいいっしょ?」


宿泊料金も変わらないし、どうせこの男の事だから1つのベッドは間違いなく使わないだろう。
それよりも翌日に響かないようにどう逃げればよい物か。
そんな事を考えていたが、は結局ティキのその意見に賛同し、ツインの部屋を取る事に決めた。


「うん」

「じゃ、ツイン一部屋」

「はい。食事はこの先の食堂になります。夕食と朝食のみ付きますので」

「じゃあお昼はどっかで食べよーね、ティキ」

「だな」


ではご案内いたしますね、と言いカウンターを出た初老の男--此処の主人のようだ--に続いて、とティキは階段を上る。
部屋は2階の端で、窓を開ければ目の前には海が見えた。


「おぉ……海だぁー」

「お前ホント海好きだな」

「憧れてたんだよねー……アドリア海……」

「そんなモンかねぇ」

「うん」


は荷物を置くなり窓の桟に肘を着き、海を眺めている。
ティキが宿の主人と二言三言会話を交わすと、主人は部屋を出て行った。


「どーする?」

「とりあえずメシ。腹減った」

「そーだね。じゃあ情報収集がてらご飯食べに行こう!パスタ!」

「パスタかよ」

「イタリア来たならパスタでしょ?」


とティキはそんな他愛もない会話をしながら宿を出た。
昼時に近い事もあって、先程まで人影も疎らだった大通りは活気付いていた。














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ティーズ欲しいです本気で。
可愛いんだもんあのフォルムが。




2007/04/24 カルア