ExtraPart20:それでも君へ、愛を謳う









彼は私の世界の全てだった。
彼のために、彼というたった一人の男の為に自分が本来生きるべき世界を捨てたのだ、私は。
それ程、ティキ・ミックという男を愛していたし、同じように彼も私を愛してくれた。
今は戦争中で、お互いいつ命を落すかも判らない時だという事はわかっていたけれど
それでも加速する想いは止められなかった。
前世でそうであったように、私は“戦女神”の化身として戦場に立ち、彼を護りまた彼に護られた。
お互いがなければならない存在だった。少なくとも、私にとっては。


「……ティキ」

「……、だめだよ。まで、」

「わかってるよ、ロード」


だからこそ、ティキが戦っている姿を見るのがつらいんだ。
あの白髪のエクソシスト、アレン・ウォーカーはティキの逆鱗に触れた。
ティキはティキを取り巻く全ての大気を拒絶して大きな真空空間を作り出した。
……私ですら、今の彼は拒絶している。
“お前を拒絶なんて出来るわけない”と言っていた、あのティキが。


「どうして、わたし、こんな無力なのかな、」

「??」

「ティキ、あんなに苦しそうなのに、私は、“戦女神”、のはずなのに、」


ティキは、今のティキは、私ですら拒絶してるんだよ。助けて、あげられない。
ロードは少しだけ悲しそうな顔で大きな球体を眺めていた。
私の背には巨大な羽根が生えたままで
この手にはこの箱舟を破壊できるだけの威力を持った武器があるというのに
たった一人の愛しい男すら助ける事もできないなんて。
何が戦女神だろう。ただ、自分の無力さを呪った。


「……、ティッキーは、」


ロードが何かを言いかけた時、大きな音を立ててティキが作り出した真空空間が爆発した。
ティキは屈み気味に冷や汗を流しながら、その空間から飛び出してきた。


「ティキ?!」

「何かあったのティッキー?」

「………ビックリ人間ショー?」

「「は?」」


私とロードの声が見事にハモった。
ティキは床を見つめたまま、私を見ようともしなかった。
そんなに、楽しいのだろうか。アレン・ウォーカーという少年と戦うということが。
……少しだけ、彼の中のノアが怖くなった。その狂気は私の中にもあるものなのだけれど。


「ビックリしすぎて全然笑えねェっつの。よくないものを呼び起こしたか…?」


ティキの視線が向かう先。
ピリピリと空気が鳴るその土煙の中から、どこかで見たような大剣を携えたアレンの姿が現れた。
私の記憶が正しければ、あの大剣は確か千年公が持っているものと同じものだ。
それをどうしてこの少年が持っているのだろう?…ロードも同じ事を考えていたようだった。


「お前って…なんでそんなに頑張んだよ?」

「あなたたちにだって…判るはずだ」


「っティキ!!!!!!!」


アレンの大剣が、ティキに向けられた。
頭より先に、体が動いていた。
ただ、ティキのそんな姿が見たくなかっただけ。
私は、ティキを剣撃から護るように、アレン・ウォーカーとティキの間に、立ちふさがった。


「ッ?!」


ティキは驚いた目で私を見ていた。
ごめんねティキ。頭より先に、体が動いてたんだ。
ティキが、私の目の前で死ぬのなんて、もう二度と見たくなかったの。
だから、ごめんなさい。
私は最期まで、貴方を護っていたかった。ただ、それだけだったの。


「なん、で……私、確かに……」

「…どういうことだ、少年。
 どんな幻術使いやがった。なんでは無傷なんだ」

「幻術なんかじゃないですよ。僕が斬ったのは……」


アレンのその声に、私の体に…刀傷を受けた部分に十字が浮かぶ。
次に襲ってきたのは鈍い痛みだった。
口の端から血が流れて、痛みに耐えられず私はその場に膝を着いた。
ティキがあわてて私の肩を抱く。
何、これは。なんで私、生きてるの?なんで私の体に、十字が浮かんでいるの?
ねぇ、ティキ、なんでこんなに体が熱いの。


「あ……っや、いやあぁあああぁああ!!!」

「っッ!!!!」


私の中のノアが、戦女神が、消えていく。
黒い煙になって、体から蒸発していく。
いやだ。私とティキの絆を、消さないで。
私の中のノアが消えたら、私はこの世界で生きる意味がなくなるのよ。
ねぇお願い、私のノアを奪わないで。


「……っわ、たしの…っノア、が…っ
 ティキ、ティキ、いや、やだよ、ティキ、ねぇ、」

「…少、年」

「僕が斬ったのは…彼女の中のノアですよ」

「…わた、しを…っ殺さず、に…ノア、だけ…?甘い、ね、あんたは…ッ!」

「これは…ただの、お前のエゴだ…」

「なんとでも。そのための重荷を背負う覚悟は、できている」

「ティキ、ティキ、ねぇ、やだよ、
 私と、ティキの絆、が、消えちゃうよ、ねぇ、私、の、ノアが…っ」

「しゃべるな。、大丈夫だから」

「ねぇ、ノアが、消えた、ら…っ私、もう、この世界にっ」

「大丈夫だ、大丈夫だから、なぁもう喋るな。」


「や……っいやぁああぁぁあああああああああああああああ!!!!!!」


体を駆ける熱がひときわ大きくなった直後、私の肌は灰褐色を失った。
額の聖痕も消えて、私はただの人間に、戻ってしまった。
……私とティキの、絆が消えた瞬間だった。


…」

たまの、聖痕が消えたレロ…」

「………てぃ、」


ぷつん、とその場で意識は途切れ、ティキの声を聞きながら私の意識は闇へと堕ちていった。
あぁ、ごめんなさい。私はまた、貴方の目の前で。貴方をまた、悲しませて。
二度と貴方を、悲しませないと誓ったのに、私は、また。


「や……やった……やったッス!
 悪魔を!敵を倒したヒャッホォ!」

「……動くな」

「え……」

「動いたら、全員刺す。
 神ノ道化のアレンはこんなんじゃ死なないだろーけど
 アレン以外は、たぶん死んじゃうよぉ?」

「ロード」

「…ティッキーは、のとこ、行ってあげて。」

「……あ、ぁ」


は口の端から血を流して、意識を失っていた。
抱えあげたの体からは確かに体温が伝わってくるし
心臓はしっかり鼓動を刻んでいる。
---生きて、いる。ノアを失っても、はまだ、生きている。


「……おい、目ぇ開けろ。お前、約束しただろ。
 二度とオレの目の前で死なねぇって、誓っただろ。
 何やってんだよ、、」


「…アレン、見なよぉ?
 ティッキーはねぇ、の事が一番大事なんだよ。
 もちろんも、ティッキーが一番大事だった。
 アレンが断ち切っていい絆なんかじゃなかったんだよ、あの二人の絆は。
 アレンの勝手なエゴで奪っていいものじゃなかったんだよぉ?」

「……っ」


、なぁ、。起きろって。
 何やってんだよお前、馬鹿か。オレを、オレなんかを庇って、お前は…っ」


「アレンにだって、大事な人間くらいいるだろぉ?」


「…………っ……」

抱きしめたの体は暖かくて、でもの意識は戻らなくて、でも心臓はちゃんと鼓動を刻んでて。
それでもはもうノアじゃなくて、それはつまりオレとの絆が消えてしまったという事で
つまりはがこの世界に生きる存在意義すらも消えてしまったということで。


「……っ起きろっつの……っ!!!!」


それでもいい、ノアを失ってもいいから。
だから目を開けてくれよ、なぁ。
その小さい手でオレの頬を撫でて、その細い腕でオレを抱き締めて
その綺麗な高い声でオレを呼んで、向日葵みてぇな明るい笑顔を見せてくれよ。
なぁ。勝手に死ぬなんて許さねぇぞ、お前の全部はオレのもんだって言ったじゃねぇか
何オレのためになんて死のうとしてんだよ、なぁ、お前は、どうして。


「……っ……っ!!!」


お前のせかいはオレなんだろ?
なぁ、ノアを失ったってオレはお前を捨てたりなんかしねぇよ。
オレにだってお前しかいねぇんだ。
、狸寝入りなんてしてねぇで目ぇ覚ませよ。
おい。なぁ、またなのか?また、オレは目の前でお前を失うのか?なぁ。
---揺さぶっても、頬を叩いても、は目を覚まさなかった。
心臓は鼓動を刻み、肺は空気を取り込んでるっていうのに、それなのにの瞼は開かなかった。
……どうしたら、君は起きてくれますか。
どうしたら、また琥珀色の、金色の綺麗な瞳でオレを見てくれますか。
どうしたら、その細くて白い華奢な腕でオレを抱き締めてくれますか?
どうしたら、どうしたら。


「………ッ……」


どうしたら、君は目を覚ましてくれますか?
オレが愛を囁けば、オレが君に口付ければ、白雪姫がそうであったように君は目を覚まして、
その細くて白い腕でオレを抱き締めてくれますか?
---誰か教えてくれ、どうしたら、どうしたら。


かのじょは、おきてくれますか?














(たとえ永遠の闇に消えたとしても、オレは、)














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携帯サイトキリ番5000、智瑚さまへ。
ただ君へ愛を叫ぶの逆バージョンでした。




2007/06/03 カルア