ExtraPart10:身体は大人、頭脳は子供
「……ティキ、またロードの宿題?」
仕事を終えて帰ってくればティキはリビングで教科書の山に囲まれていた。
またいつもどおりロードに宿題を押し付けられた事は容易に想像できた。
私が声をかければティキはげんなりした表情で振り向く。今にも死にそうだった。
「……へるぷみー……」
ティキは力ない声でそういうと私にテキストを差し出す。覗き込めばどうやら数学。
私も数学は得意な方ではないが、ロードが習っている程度の数学であれば問題なくできる。
というか出来なかったら大人としてどうよという問題になってしまう訳で。
溜息一つ吐いてテキストを受け取った私は、書かれた答えに絶句した。
「……ティキ、なんで12+8が26なの?どうして28+10が40なの?」
「え」
「……全部違うよ」
ロードは何を考えてティキに宿題を頼んだんだろう。
“だってティッキー馬鹿だから丁度いい勉強だろぉ?”とか答えが容易に想像できすぎるけれど
いくら自分で学がないと名言しているとはいえこれはさすがに酷いんじゃないか?小学生レベルの足し算だぞ?
「マジで?」
「マジで。ついでにどうして20÷5が17になるのよ」
「………」
これ以上ないくらい気まずそうな表情で固まったティキに軽蔑の視線を向けて私はティキの隣に座る。
とりあえず消しゴムで全部の答えを消した。隣でティキが叫んでたけどそんなの気にしてる場合じゃない。
っていうかロードよりむしろティキの教育が先だ。うん。26にもなってこれは酷すぎる。
「……ティキが学ないのは知ってたけどこれは酷いよ」
「いや、あの、、これは」
「ロードの宿題よりティキの勉強が先!ほら鉛筆もって!」
「え、ちょっとなんで話がそこに行く訳?」
「いいから。とっとと鉛筆持ちなさい」
にっこりとした笑顔で手榴弾を4つお手玉みたいに弾ませてみればティキは息を詰まらせて鉛筆を構えた。
っていうかさ、素直な疑問。いや本当私も信じたくないんだけど、っていうか今気付いたんだけどティキって
「……ティキ左利きだったの」
「え、なにその驚いた表情」
「左利きって頭いいって言うのにどうしてティキってばかなの?」
「え、ちょっとそれ酷くねぇ?オレマジで傷付くんだけど」
「だって本当のことじゃない」
ティキは本気で沈んでた。あぁこれはちょっと失言だったかもしれないっていうか彼氏にかける言葉じゃなかったかも。
ティキごめん。言い過ぎた。って謝れば瞬時に機嫌直すあたりやっぱりティキはおばかなのかもしれない。
そんなところが愛しいと言ってしまえる私も到底ティキばかなのかもしれないけど。
「………じゃあティキ、10+5は?」
「…9?」
「なんで10より小さくなってんのよ。」
ダメだ本気でこの人馬鹿です助けて千年公。
叫びたい衝動に駆られたけど今屋敷にいるのは私達2人とメイドアクマだけだ。
みんな仕事で出払ってる上に千年公はブローカーの所へ行っていて暫く不在。なんてタイミング悪いんだあの人は。
「いい?判りやすく言うよ。ここに煙草が10本。ここに5本足したら15本でしょ」
「あ、そっか頭いいなー」
「ティキがばかなのよ。理解してねちゃんと。……じゃあ次、20×2は?」
「22!」
「なんでよ。足すんじゃなくてかけるの。20が2個だから40でしょ?!」
「え、+と×って違ぇの?ただナナメってるだけじゃなくて?」
「全然ちがぁぁあああああう!!!!!!!」
ちゅどーーーーーん
そんな音を立ててティキは吹っ飛びティキがいた場所は綺麗さっぱり何もなくなった。
テーブルは綺麗に抉れているし床板も剥がれてるし千年公お気に入りのカップは粉々だしメイドアクマも1体巻き添えにしちゃったし
挙句の果てにロードのテキストまで吹っ飛ばしちゃったけどティキが馬鹿すぎるのがいけないんだ。私は決して悪くない。
千年公にはティキの馬鹿さ加減を説明すればきっと許してくれるし被害を被るのは私じゃなくてティキだ。
ちょっとだけかわいそうな気もするけれどこれからティキに勉強教えなきゃいけない私の苦労に比べたらこれくらい安いもんだ。
そうだよね?ティキ。2ヶ月3ヶ月のタダ働きくらいどってことないわよね?
不安を取り除いてください
(誰かこのおばかさんに学を!)
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そんなティキが大好きです(歪んでる
2007/05/07 カルア