ExtraPart05:黒と白の間で揺れる









「ティキ、おかえり」

「あぁ、ただいま」


仕事を終え、ティキが屋敷に帰って来たのは深夜2時。
は眠気を堪えながら、リビングでティキの帰りを待っていた。
メイドアクマにティキの帰宅を告げられ、エントランスホールへ向かう。
ティキがメイドアクマにシルクハットを渡していた。
はにっこりと微笑みながら、ティキに近づいた。


「……いっぱい殺したんだね、血の匂いがすごい」

「あぁ……落ちてねぇ?」

「うん」

「参ったな……着替えるか」


ふわりと風に乗って漂ってきたのは、ティキのコロンの香り。
そしてその裏の、錆びた鉄の様な血の匂い。
は少しばかり不機嫌な様子で、自室に戻るティキの後ろを歩いていた。
ティキは血が付くことを嫌うから、いつもならティーズに食わせるはずなのに。
それなのに、の前を歩くティキの燕尾服には、微かに返り血が見て取れた。
成る程、さっきからしていた血の匂いはこれが原因か。

は珍しく返り血をつけたまま帰ってきたティキの背を見つめながら、寂しそうな表情を浮かべた。

カツン、カツンと薄暗い廊下に二人分の足音が響く。
どうやら家族は皆出払っているようで、気配はなかった。


?入んねぇの?」

「あ…入る」


いつの間にかティキの部屋に着いていたらしい。
扉を開いたまま聞くティキに苦笑い交じりに返し、ティキの自室へ。
必要最低限の物以外置かれていない部屋は、ティキの性格をそのまま現している様だ、とはいつも思う。
ティキは上着を椅子に掛けるとタイを緩めながらベッドに座り、けだるそうに煙草に火を付けた。


「…、ここ」


ぽんぽん、と自分の隣を叩くティキ。
は頷きながら、ティキの隣に腰を降ろす。
その途端肩に凭れるティキの頭。
は疑問を浮かべながら、ティキに聞く。


「……?どしたの?ティキ」

「疲れた」

「……そっか」


はクセのあるティキの髪を撫でながら、お疲れ様と言う。
ティキはの腰に手を回すと、しがみ付くように縋った。


「……ティキ?」

「なぁ、癒して」

「……ティキ」

「オレ、疲れたの。の愛で癒して」


参った。
ティキはどうも本気で滅入っているらしい。
元々人間と付き合いの深い彼だから--“ノア”としての仕事の時以外は人間として生活している訳だし--
例えエクソシストであるとはいえ人間を殺める事に多少の抵抗があることは知っていたけれど
ここまで落ち込む事も珍しい。
は苦笑い交じりに、ティキの髪を撫でた。


「ティキ、お疲れ様」

「……ん」

「……私はね、白いティキも黒いティキもどっちも好き」

「あぁ」

「一人で抱え込まないで。ティキが私の分まで“仕事”してるの、ちゃんと知ってるんだから」

「……マジで?」


のその一言に、ティキは驚いたような顔でを見上げる。
は微笑を浮かべたまま頷くと、またティキの髪を撫でながら言葉を続けた。


「無理しないでよ。私だって“ノア”なの。人を殺す事だって出来る。知ってるでしょ?」

「……でもな、。オレはお前の手を血で汚したくねぇんだよ」

「うん、それも知ってる。でもその所為でティキが苦しいのはもっとイヤ」


だからもっと信じてよ、とが言えば、ティキは苦笑い交じりにを抱き返す。


「そうだな……悪かった」

「私はティキが思うほど弱くないよ……。もっと信じて」

「あぁ」

「ティキとなら何処までだって堕ちていける。私にとっての世界はティキだから」

「……オレも同じ」

「だからね、ティキ一人で苦しまないで。そんなティキを見てるの、辛い」

「……判った。」


背を抱き返すティキの腕に力が篭る。
はティキの背を撫でて、髪に指を絡めた。

















(君となら地獄にだって喜んで堕ちましょう。君がいれば何処だって天国になるのだから)





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変態というよりはヘタレティキ。
白と黒の間で葛藤してるティキと慰めるちゃん。




2007/04/23 カルア