ExtraPart06:バレンタインデーの喜劇












オレの彼女はとてもドライだ。季節ごとのイベントはおろか誕生日ですら無視をする。
彼女から貰った贈り物はといえば仕事先の町で貰ったピアスが一組。
別にもらえないから不満とかいう訳ではなくて、せめて今日くらいは彼女からの贈り物が欲しい訳で。
飾らない所に惚れた訳ではあるがさすがに今日のこの日何も貰えずに過ごすのは彼氏の立場にいるオレとしてはいただけない。
かといって彼女にそんな事を言ってしまえば不機嫌な顔で否定されるのもまた目に見えている訳で。


「なぁ、今日が何の日か判ってる?」

「ん?あぁ知ってるよ。知ってるけどティキにあげる義理ないよね」

「……さっきロードにあげてただろオレちゃんと見てたんだぞ」


やっぱり予想通りの反応を返された訳で、でもオレはさっきロードにチョコをあげてるを見てしまった訳で
家族のロードにはあるのに恋人のオレにはないのかとかガラにもなく嫉妬までしてるオレは相当末期なのかもしれない。


「バレンタインデーなんてのはね、菓子会社の策略なのよ。
 確かにティキは1ヶ月とはいえ私のいた世界にいた訳だから間違った認識しててもしょうがないけどね?
 欧米じゃ確か男性が女性に本を贈るのが慣わしよね?っていうか、ティキはそういう認識だとばかり思ってたんだけど。
 それに大体バレンタインデーって確か聖バレンタイン神父がクラウディウスの出した結婚禁止制度に反対して
 自分とこの教会でこっそり結婚式を挙げて祝福してあげてた彼が殉教した日よ?
 それがどこをどう湾曲させたら女が男にチョコやって告白する日になる訳?」

「ごめんちょっと待ってせめて区切って言って悲しくなる」


オレは本当に彼女に愛されているんだろうか。そんな考えが頭に浮かぶ程彼女の表情は冷たかった。
確かにの世界で見たバレンタインは女が男にチョコあげる日だったから
もしかしたら今日という日くらいは彼女からの贈り物を貰えるんじゃないかなって淡い希望を抱いていたのは否定できない。
それを饒舌なマシンガントークで否定されたら誰だって泣きたくもなるだろう。
視界が霞み気味なのはきっと昨日寝不足だったからだ。オレは断じて泣いてない。


「………ティキはチョコ欲しい訳?私に菓子会社の策略に乗れと?」

がくれるチョコなら欲しい。」

「……べ、別に用意してなかったとかじゃなくって…………」


俯いたオレを見かねて声を掛けたは顔を真っ赤にして俯いていた。今日のはいつもに増して行動が謎だ。
そういえば昨日は帰ってきたら屋敷中やけに甘い匂いが充満してた。
ロードあたりが菓子食い散らかしてたと自己完結してたけどこれはもしや。
そういえば朝からメイドアクマたちはキッチンに篭りっぱなしでせわしなく動いている。
何かあったのかとキッチンに行こうとすればメイドアクマ達に全力で止められた。絶対に何かある。
そして現在目の前にいるの態度から察するに、キッチンの現状はきっと。
というか絶対そうであって欲しいというのはオレの勝手な希望ではあるけれど


「………作ったけど失敗した?」

「?!な………!!!!!」


あぁ、やっぱり。なんで判った、って顔でオレを見上げる。顔は余計に赤くなってた。
ほらな、がそういう態度取る時は必ず決まって何か失敗した時なんだ。
独り暮らしが長いから料理が巧いのは身を以って知っているけれど、そういえば菓子を作ってる姿は見た事がなかった。
先日本屋に行って大量に買い込んできた本はもしや製菓法の本なんじゃないか。
いつの間にかオレの顔は満面の笑顔になっていたらしい。の拳が顎に入ってまた涙が出たが嬉しさで痛みなんて感じない。


「………っ食べたいならキッチン行けば!」


そう吐き捨てて部屋を出ようとすればテーブルにぶつかり扉を開けようとすれば静電気にやられ奇声を上げ
扉を開けて出ようとすれば足の小指をぶつけて廊下に転げ出た挙句立ち上がろうとしてまた転ぶ。
明らかに動揺しているを見ながらオレはこみ上げてくる嬉しさを堪えきれずに笑いをこぼした。


「………ッ馬鹿ティキ!」


照れ隠しに投げられた手榴弾。いくらオレらが不死だからってこの扱いは余りにも酷いとは思ったけれど
この後キッチンに行って口にした綺麗にラッピングされたビターショコラにオレは舌鼓を打つ事になる。




















経過はどうであれ今オレの手の中にあるこれは紛れもない彼女のオレへの愛情






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季節外れもいいとこだなこれ





2007/04/25 カルア