「……ふぅ」
私はアクマ。人間を殺して進化する殺戮兵器。
ただ、私を美しいと褒めて下さったあの方の為だけに私は今日もこうして人間を殺している。
頬やドレスを濡らす返り血はどうしても好きになれないけれど、あの方は血に塗れた私を美しいと仰った。
人間を殺す事に決していい顔はなさらなかったけれど、それでもあの方は私にそう仰った。
「……ティキ、さま」
私が強くなればなる程、私が美しくなればなる程、あの方は私を褒めて下さるから。
伯爵様に褒めて頂く事も勿論うれしいのだけれど、それ以上にあの方に褒められる事が私の幸せなのだ。
兵器である私がノア様に恋をしたなど、とても愚かな事だとは判っている。
どう足掻いても私はもう人間には戻れないのだ。
「……そろそろ、進化かしら」
それならばいっそ。あの方をお守りできるだけの力をこの身に宿せばいい。
そうすれば私は、たとえ兵器としてでもあの方のそばにいられるのだ。
アクマとなった私を女として見て欲しいとは願わない。
ただ傍に置いて欲しいだけなのだ。あの方の傍に。
「」
「……ティキさま?どうなさったのですか、このような田舎町まで」
「迎えに来たんだ、お前を」
「わたくしを?なぜ?」
「…相変わらず鈍いなぁ。それとも確信犯か?」
ティキ様が仰る事はいつも私の回路を鈍らせるのだ。
思わせぶりな態度も、その言葉も、そんなものは望んでいないというのに。
それを与えられてしまえば私はきっと、もう二度と引き返せなくなってしまうだろうから。
だから、気付かないふりをしていた。
気付いてしまえば、きっと私はティキ様のお傍にいられなくなるだろうから。
「……?何を仰っているのですか?」
「ハァ。いい加減気付いてくんねーかなぁ、」
「……ティキ、さま?」
ティキ様が私に近付く。
近付かないで、という拒絶の言葉は出てこなかった。
ティキ様の真摯な視線が、それを許さなかったから。
ティキ様は私の目の前に立ち止まって、返り血に塗れたままの私の手を取った。
この方は何をしているのだろう?
「…オレはがたとえアクマだとしても、」
「ティキ様、いけません。その先はどうか、どうか仰らないで」
「オレはを「いけません、引き返せなくなります、わたくしが」
その先の言葉は間違いなく私が望む言葉のはずなのに、私の理性が歯止めをかけてしまう。
私はいつか壊れ逝く運命の、ただの兵器なのだ。
「いいから聞け。オレはを愛してるよ。お前がアクマだろうが何だろうが」
「………っ」
「」
「ティキ、さま……っいけませんと、言いました、わたくしはっ、わたくしは、アクマです」
「あぁ、判ってるよ」
「ならば、何故……っ」
その先の言葉は、ティキ様の香水と煙草の匂いにかき消された。
抱きしめられていると気付くまでに、5秒。
私の思考回路はいよいよ麻痺寸前だ。
何故このお方は、私を愛しているなどと仰るのだろう?
私は必死で、今日まで必死でこの気持ちを抑え付けてきたというのに。
それなのに、こんなことを言われてしまったら
「なんで?惚れた女に愛してるっつったらいけねーの?」
「ティ、キさま……」
「も言ってくれねーかなぁ。オレずっと待ってたんだけど?」
「わ、わたくし、は…っ」
ティキ様の長い指が私の髪を梳く。
その度に私のあるはずもない心臓はまるで高鳴ったかのように回路が音を立てて、軋んでいく。
この腕に縋って、気持ちを伝えてしまってもいいのだろうか。
到底結ばれない私たちが、想いを通じ合わせても、いいのだろうか。
「ん?」
「………っ」
「なぁ、言って」
「あ、いして……愛しております、わたくしも……っ」
「ん。よくできました」
ティキ様は私の大好きな笑顔でそう言って下さった。
私は、もう、戻れない。
「……やぁっと帰ってきやがったな、」
白のオレが愛した一人の女。
街がアクマに襲われたつって、行ってみたらもう遅くて。
は冷たくなって双子の姉に抱えられてた。そんならやることは一つっしょ?
「…ま、外見はじゃねーけど」
千年公から預かった魔導式ボディ片手にさ。
姉貴に近づいてちょっと甘い誘惑を仕掛けてやればこのとおり。
外見は似ているもののの双子の姉貴。
だけど中身は間違いなくオレが愛したの魂だ。
これからじっくり時間をかけて、外見もに戻してやりゃいいだけのハナシ。
そう、それだけだ。
「……もう離さねぇ」
エクソシストなんかに壊されねぇように
オレの言葉を聞いて必死で進化してくれた。
あぁなんて愛しいのか。オレの腕に堕ちて来たこの天使は。
「世界がぶっ壊れるまで、ずっと一緒だぜ。」
Angel Perdido
(堕ちてなお美しいままの君、)
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携帯サイト「まぼろしらんぷ」開設企画フリリク作品。
寿奈さまへ献上いたしました。
2007/05/17 カルア