今までひとを愛した事なんてなかったから、貴方を好きだという事に気付かないまま私は今まで生きてきました。いいえ本当は気付いていたのかもしれません。けれども私はエクソシストで貴方はノアの一族、私が憎み討つべき敵でしたから、わたしはこの気持ちに蓋をして閉じ込めて今まで生きてきたのかもしれません。出会いはいつだったでしょうか、まだ私がエクソシストになる前、ノアの一族という言葉にもイノセンスという存在すらも知らなかった頃だったように記憶しております。アクマばかりで人間がだんだんと消えてゆく日本の田舎町にふらりと現れた西洋人のあなたはそれはそれは美しくも異質であった事は今でも鮮明に覚えております。そして茶店であなたに異国の言葉で話しかけられて酷くうろたえた事も。そう、今となっては全てが懐かしく、叶うのならば何も知らなかったあの頃に戻りたいとさえ思うようになりました。私がイノセンスに選ばれなければ、アクマだらけのあの地獄の中で生きていたら、もしかしたらアクマという異質の存在になったとしても貴方の傍にいられたのかもしれないのですから。

「ああ、貴方なのですね」
「……茶店の、」
「何故、神は私にイノセンスをお与えになったのでしょうね」
「さぁな、オレにゃエクソシストの神の事は判んねぇよ」
「あのまま、何も知らないままで、いたかった」

そう、神の化身をこの手に携えて戦場を駆けるようになった私があなたと再会したのはそう遠くない過去の話。初めて戦場で再会した時は、思わぬ再会の喜びに心臓が高鳴ると同時に決して結ばれないのだという運命を呪いました。それほど、私は言葉も通じぬあの頃から、あなたに深く深く恋をしていたのです。その感情を閉じ込めたのは、コムイ殿に見せられたノアの一族だという写真の男性が私の記憶の中の愛しい人と瓜二つだったから、そう、あなただという確信が芽生えてしまったからでした。

「お嬢さんは、、か」
「……ええ、」
「そう、か」

くるくると彼の指先でまわる西洋かるたを見つめていた私の心は此処にあらず、ただ愛した貴方の手に掛かって死ねるのならば本望だという確固たる確信だけが私のなかにありました。そう、貴方の手に掛かって死ねるのならば。

「…気付かないままで、いたかった」
「…恨むなら偽りの神を恨むんだな」
「………最期に、ひとつ、よろしいですか」
「ん?」
「あなたの、おなまえを。私は貴方の名前を存じておりません」
「……ティキ。ティキ・ミック」
「ティキ、殿……」

初めて呼んだあなたの名が私の最期の言葉となりました。後悔など、しておりません。この戦争に身を投じると決めたあの時よりとうに捨てた命ですから。ただ、最期があなたの腕の中だという事だけがしあわせでした。










(それでも後悔などは致しませぬ)








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神田くんとは幼馴染で元婚約者という裏設定。ただ神田くんが元服を迎える前に教団へ連れて行かれてしまったから二人の婚約は自然消滅、そのあと教団で再会するもさんの心の中にはティキしかおらず、結局二人は元婚約者であり戦友という奇妙な関係に落ち着いた、と。