もしも彼女の額にもオレと同じななつの傷があったのならば、きっとオレはこんな悲しまずに彼女と二人でずっとずっと笑い合えていたのかもしれない。たとえば彼女が普通の人間だったなら、この世界の終焉まではきっときっと、一緒にいられたのかもしれない。オレは黒いオレを隠したまま、人間として彼女の隣で、そう仲むつまじい夫婦として一緒に生きられたかもしれなかった。オレは毎朝彼女にいってきますと告げて、彼女は美味しい夕食を作ってオレの帰りを待つ、そんな生活が送れたのかもしれなかったんだ。彼女がイノセンスに選ばれなんてしなければきっときっと、
「ティキ」
「、、ごめんな」
「うん、わかってる。わかってるわ、だからせめて苦しまずに逝かせて頂戴」
「おれ、は、おれ は、」
「あなたが泣いてどうするの。」
「だって、おれはおまえをあいしてるんだ、」
「私も同じ気持ちよ、ティキ。でもねこれは仕方がないの、運命なのよティキ、」
そう、オレが愛した彼女はオレらノアが憎むべきエクソシストの装束に身を包んでいた。それはつまり、オレらの未来は決して幸せなものにはならないということで、そんな判りきった運命から逃げるように、オレらふたりの行く末を知らないふりをして今まで続けた恋愛遊戯は今この場で終わろうとしている。彼女の命のおわりという最悪の結果を以って。さらに最悪な事に、愛しい彼女のいのちを絶つのはこのオレ、そんな最悪の結末がオレらの関係のおわりだった。
「なぁ、おれは本当にお前を愛していたよ」
「えぇ、私も同じ気持ちだわ。だからね、」
だから他の誰でもない貴方の手で私を殺して、そうしたら私のたましいはいつだって貴方の傍にいられるのよ、ティキ
彼女はそう言ってきれいに笑った。それは間違いなくオレが愛した彼女の女神のように気高く凛とした笑顔。そんな笑顔を浮かべたまま、彼女はオレにとっては一番辛くて一番悲しい決断を迫る。あぁ、きみはおれにとってのすべてだったんだ。
「、」
「……ティキ、わたしは今も昔もこれからも、ずっとずっとあなただけを愛してるわ」
「ああ、オレも同じだよ、以外なんて有り得ない」
「……そう、それを聞いて安心したわ、」
、、愛しい。せめて今度生まれてくるときは、何の枷も背負わないただの人間でありますように。そうしてオレのとなりで微笑んで、オレと一緒に人生を歩めますように。オレは君を忘れないよ、愛しい。輪廻を超えて、たくさんの人間のなかから君というたった一輪のはなを見つけよう。そう、これが死に逝くきみにしてやれる、オレの精一杯の約束。何度輪廻を超えてすれ違っても、きっとまた会えるから、だからそのときまでボアノイテ・メ・ケリード
Memento mori.
(オレは忘れないよ、君を愛していた事だけは)
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ちょっと狂愛気味。
エクソシストのちゃんを手にかけなければならなくなったティキの心境を書いたつもりですが撃沈してますねあはは(笑えない)。
ボアノイテ・メ・ケリードは日本語にすると「おやすみ愛する人」というような意味になると思いますというかそうであってほしいなあ(おい)。なんだか最近ティキのおかげでポルトガル語が読めるようになってる自分が怖い。