愛してるよってあなたが優しく甘い声で囁くから、わたしはそれに騙されていたのかもしれないね。だって貴方はオトナで私はまだまだコドモで、それでもあなたは優しいからあなたの優しい嘘に騙されていたかったよ。そう、あなたに似合うのはキレイなキレイなオトナの女性、そんな事わかっていたけどそれでもわたしはあなたがすきだった。

「……てぃき、」

なんで、なんで?なんでティキの隣にわたしじゃない女の人がいるの、ねえそのひとはだあれ?真っ黒な髪も真っ黒な目も私と同じで、でもあのひとはとってもキレイなオトナの女性、私みたいなコドモじゃあどれだけ背伸びしたってかなわないようなそんなきれいなおんなのひと。ティキはきれいな女の人と腕を組んで、街のメインストリートを歩いてた。

「……?お前なんでこんなとこ、」
「てぃき、」
「あーあのな誤解すんなよ、彼女は「言い訳なんかしないでいいよ、そうよね私みたいなおこさまじゃあティキには釣り合わないわよね、そうだよわたしじゃ、」おい、話を」

ティキと腕を組んでるおんなのひとは私を訝しげな目で見た。きっとこのひとはティキの彼女さん。私はきっと二人目、ううんもしかしたら三人目かもしれないし四人目かもしれない。ティキはかっこいいから、女の人がほっとくわけがないものね。

「ミック卿、このお嬢さんは誰ですの?」

ティキの腕を取ったまま、女の人はティキを見上げてきれいな声で聞く。その声は同じ女の私が聞いても色気があるなぁって思うくらいきれいな声で、ティキは困ったような目でその人を見つめてた。ああ、私泣きそうだ。だってそうでしょう?好きな人がしらない女の人と一緒に、仲よさそうに歩いている光景なんて見たくなかったよ、知らないままでいたかったよ。わたしだって貴方と変わらぬ年頃に生まれていれば、ノアの神様の戯れで貴方よりも10も下に生まれていなければ。もしかしたらあなたの隣にいたのは私だったかもしれないのに。

「ちょっと黙ってて」
「ティキ、ごめんなさい邪魔したわ、」
「おい待てって話聞けって」
「いいの、何も言わないでこれ以上惨めになんてさせないで」

ティキは女の人の腕を振り解いて私の肩に両手をかける。ティキの目を見るのが怖くて私はただ俯いたまま逃げ出そうと必死で身体をよじってもティキの力にはかなわなくて、でも泣き顔だけは見せたくなくて、力任せに腕を振り上げたらティキの手が肩から離れたから、私はティキの顔も見ないまま、逃げた。

「あ、おいっ!」

後ろからティキのあせったような声が聞こえたけれど、それも無視して私は走って路地裏に飛び込んだ。そこから方舟に乗って屋敷に帰って、私は自分の部屋に閉じこもってただ泣いた。誰もいなかったのが不幸中の幸いなのかもしれない。メイドアクマたちも深くは追求しなかったし、千年公も家族のみんなも仕事やらなにやらで明日まで帰らないっていうから私は遠慮なく大声を上げてずっとずっと泣いていた。涙と一緒にティキへの想いも流れてしまえばいいのになあなんて思ってみても、それはきっと無理なこと。だって私もうティキ以外の男の人を好きになるなんて出来やしないもの。

「……ッてぃき、ぃ…っ」



***



「……参ったな、」

もうすぐの誕生日だから、ブローカーの娘さんに買い物付き合ってもらったまではよかったんだけど。に気付かれないようにって黙って出てったもんだから、まさかあんなとこで会うなんて思ってなくて。ただの言い訳にしかなんないけど、にしてみればオレが浮気してるように見えたんだろう。やましいことなんてこれっぽっちもなくて、第一彼女には旦那がいるし、だから別にいいかと思ってそんな軽い気持ちでオレは結果を裏切った。そう、もう二度と泣かせないって誓った愛しい彼女を、だ。

「…赦してくんねーだろーなぁ」

の部屋へ向かう廊下を歩きながら手の上で小箱を弾ませる。中にはファンシーヴィヴィッドのピンクダイヤがついた指輪、つまるとこ誕生日祝いと婚約指輪もかねた指輪が入っている。オレはの誕生日にプロポーズするつもりでいた訳で、でもオレは指輪とかそういう女性への贈り物には縁遠いもんで彼女に付き合ってもらって指輪を選んだ訳なんだけど、まさかそれが裏目に出るとは思わなかった。彼女はオレよりも10年も遅く生まれてしまった事を物凄く気にかけて何かにつけて大人ぶって背伸びして、そんな事しなくたってオレはだけしか見ていないよっていう事を教えてやりたくて。そりゃ前世じゃ歳の差なんてなかったからが気に病むのも無理はない。でも悪いのはじゃなくってノアの神様だろうって何度言ってもはそれを聞かなかったから、オレのその想いをしっかりとした形にしてやりたかったんだ、ただそれだけだったのに。

「…、いるだろ?なあ、開けて。オレの話をちゃんと聞いて」

の部屋の前、ドア越しに声をかければ確かに部屋の中からはの気配がした。ドアをすり抜けて入る事は簡単なんだけど、そんな事をしてしまえばきっとはまた泣くだろうから、オレはがドアを開けてくれるのを待った。

「……何、の、用?わたしは、」
「なあお願いだから話を聞いてよ
「………」

暫くの無言の後、かちゃりとカギの開く音がして、ゆっくりと扉が開いた。ドアのすぐ向こうでは俯いたまま立ちすくんでたから少しだけ遠慮がちに髪を撫でてやればは肩を震わせてオレを見上げる。その目は真っ赤でああきっと今まで泣いていたんだろうって簡単に予想がついて、オレはゆっくりと部屋に入って後ろ手にドアを閉めた。はゆっくりと窓辺に置かれた椅子まで歩いて行って、ゆっくりとその椅子に腰掛けた。

「……、」
「いまさら、何の用 よ。わたしは、わたしは、」
「ああごめんな、泣かせてごめん」
「謝る、くらいなら、どうして、」

オレは椅子に座って俯くの前に跪いて、膝の上に置かれた小さな白いの手を握る。覗き込もうとしてもの長くてキレイな黒い髪にその表情は隠されていて判らなかったけど、の声はかすれて途切れ途切れだったからきっとまたは泣いている。

「なぁ、ごめんな。」
「…ティキ、は…あーいう女の人が、好みなの?」
「違うよ、オレが好きなのはだよ。なぁ頼むからオレの話を聞いてよ、
「……っ」

の手を撫でてやればは息を詰まらせてオレを見る。その目にはやっぱり涙が溜まってて、オレは手を伸ばしての涙を拭ってやった。そうしたらはまた擽ったそうに肩を竦ませて俯くから、オレは少し困って苦笑いを浮かべた。

「なぁ、少し早いけどさ、誕生日プレゼント、貰ってくんね?」
「…ぷれ、ぜんと?」
「そ。」

の左手を取って、薬指に指輪を通す。の白いきれいな肌にプラチナとピンクダイヤはよく栄えて、はその指輪に視線を落としたまま固まった。

「てぃき、これ…っ」
「そんでね、、オレのお嫁さんになってください」
「……ッ」

「オレは孤児だし、人並みの幸せなんてやれないかもしれないし楽な暮らしだってさせてやれないかもしれない。それでもオレはだけしか愛せないし、前世で果たせなかった約束を形にしてやりたい。ノアの一族のティキ・ミックとしても、ただの人間のティキ・ミックとしても、オレが愛せる女はだけなんだ」

「てぃ、き……っ」
がこれを受け取ってくれるなら、オレはもう一度を護る騎士になるよ。あの時果たせなかった約束、果たさせて。ずっとずっとオレの隣で笑っててくれないか、
「……ッば、か…っばかよ、てぃき、あなたってほんとうにばかだわ、断るわけがないじゃない、ねえティキ、ティキこそ私でいいの?わたしまだ、子供よ?あなたのとなりを歩いてて、釣り合わないおこさまよ?それでもいいの?」
「関係ないよ。オレが愛してるのは何回生まれ変わったってだけだ」

そう言っての手に口付ければはオレの大好きな優しい笑顔をくれた。










(そう、きみはおれのめがみさま)





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うぎゃあああ誰だこのティキいいいいい
最近あれですかねかっこいいティキと甘い夢に飢えてるんですかね私。珍しいですよ私がこんなゲロ吐く程甘い夢書くのって。