「…でね、暗い道を歩いてたら後ろから足音がするのよ。ぺたん、ぺたん、って…」

ああオレはどうして今この場にいるんだ。真面目に逃げ出したいんだけどオレの右隣にはがいて左隣にはロードがいるというこの最悪の状況の中逃げ出せるという希望はゼロに等しい。というか情けなさ過ぎていえないだろ、26歳のいい年こいた大人のオレが、まさか怪談が苦手だなんてそんな情けない事は。そう、オレの可愛い可愛い恋人であるはホラーやら怪談やらの類がとっても好きで、それに加えて元々この世界の人間じゃないはオレらには到底想像もつかない怖い話というものを沢山知っているらしく、そんなことを聞いてしまったロードと双子が面白がってに怪談を聞かせろなんてせがむもんだから今こんな状況に陥っている訳で。

「それでその子は振り向いちゃったのね。絶対振り向いちゃいけないって言われてた事を忘れて。…その子、何を見たと思う?」

「…な、何見たんだよ」
「ヒィィッ!デロは聞きたくないよっ!」
「相変わらずの怖い話は面白いねぇ〜。それで、その子どうなったのぉ?」

「胴体だけがすっぽり抜けた顔と両手足だけの女、よ。それでねその子に言うの、『私のからだをかえしてぇ!』って。」

「き、きしょ…ッ」
「ヒィイイのばかっ!デロは聞きたくないって言ったのに!」
「身体だけないのぉ?」

「そう、それでね、振り向いちゃったら最後、もう逃げられないの。その子は次の日、その道で胴体だけがないバラバラ死体で見つかったんだけど…胴体だけはどこを探してもみつからなかった、ってはなし」

「お、おわり?」
「デ、デロはもういい!もう聞きたくないよっ!」
「なんか続きありそうだよねぇ〜…ねぇ、あるんでしょぉ?」

「あるよ……それでね、このお話を聞いちゃった人のところに、その女は来るらしいの。からだをかえしてぇ!って…だからね、夜一人で道を歩いてて、後ろから足音が聞こえたら絶対振り向いちゃいけないの。追い越す事はしないから、自分の家まで振り向かずに歩けばいいんだけなんだけどね」

「ま、まじで?マジでくるの?」
のばかぁどうしてくれるんだよデロもうひとりで外出できないよっ!」
「へぇ〜……ってティッキぃー、後ろぉ」

びくぅっ!
突然かかったロードの言葉に、正直逃げ出したい気持ちで一杯だったオレはそりゃ盛大に驚いた。双子は爆笑しているしロードは笑いをこらえているし、はあろう事か軽蔑と失望の入り混じった目でオレを見てため息を零した。そりゃないだろちゃん。

「「ぎゃはははははティキだっせぇー!」」
「ひっかかったぁ〜!いる訳ないじゃんばっかだなぁ〜!」
「ティキ…ほんとに怖い話苦手なんだね。これ、私のいた世界の作り話だよ。情けない」

「ば、バカ言うなよ誰が怖いなんて言っ「ね、ねえティキ、肩にかかってる手は、誰、の手?」…はぁっ?!」

「「「ぎゃはははははははは!!!」」」

ああ、オレ情けない。双子とロードはともかくとして、までオレをからかうなんて酷すぎる。というか本気で愛されてるのかどうか疑いたくなるよなこの状況は。大体からして、のこのテのイタズラはタチが悪いんだ。去年のハロウィンはロードと組んでアダムスファミリーもびっくりのそりゃリアルなホラーハウスにこの屋敷を改造してくれた訳で、何も知らずに帰ってきたオレはお手製のリアルすぎる幽霊とゾンビの人形に驚きの連続で。しかもそれを何故か映像に記録されていてその後クリスマスが過ぎるまでそのネタで散々からかわれた事は忘れない。無類のホラー好きという点を除けば正にオレの理想の女性な訳なんだけれども、三つ子の魂百までとかいう東洋のコトワザそのまんま、幼い頃からホラーに親しんできたのホラー好きは今更矯正できるモンでもない。

「ティキ、本当に怖い話苦手なのね。」
「ば、ばか言うなよおれは怖い話なんてこれっぽっちも怖くねぇぞ、
「じゃあ今度一緒に隣町の移動遊園地行こうよ、ホラーハウスが怖いって評判なの!」
「…お、オレ仕事が立て込んでっから暫くは無r「大丈夫私が千年公に頼んであげるわ!」…いやだから仕事が」
「ティッキぃ、諦めたほうがいいよぉ。、あのホラーハウス行きたくてしょうがないみたいだからぁ」

ああ、墓穴。そりゃ隣町に来てる移動遊園地の事は知ってる。イーズが行きたいって騒いでたし、チラシを貰った事もある。そんでそこのホラーハウス、つまるとこのお化け屋敷がとてつもなく怖いって事も鉱山仲間から聞いている訳で。かといってそんな怖いと話題のホラーハウスですらにとってはただのアトラクション、きっと涼しい顔をしてすたすたと先に行ってしまう事は簡単に予想がつく。男のオレとしては怖がってくっついてくるを抱き寄せて大丈夫だよって言ってやりながら密着を楽しみつつホラーハウスを堪能したい訳だけれどもあいにくオレはホラーの類が苦手では大好きで。一緒にホラーハウスになんて入れば立場が逆転する事は目に見えている。そんな情けないマネは絶対にしたくない。

「ね、いいでしょ?!」
「………あ、あぁ」

かといってのこの期待に満ち満ちた満面の笑顔を曇らせることもしたくない訳で、結局オレはに圧倒されて承諾してしまった。ああ情けないオレ。そうだ今日からがいない時にこっそりアクマに頼んでが異世界から持ってきたホラー映画やら何やらを見て耐性をつけておこう。よりホラーに強くなる事は無理だとしても、たかが作り物のホラーハウスに怯える情けないオレをに見せる訳にはいかない。の前でだけはいつもカッコイイオレでいたい。そんなこんなでご自慢のホラー映画コレクションに手をつけてその余りの怖さに危うく気絶しかけて結局耐性を付けるどころかさらに苦手になったなんて情けない事はに言えなかった。









(皆で納涼百怪談!)




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