カァン!カァン!
けたたましいベルの音に目を覚まして、シーツから顔を上げないままで目覚ましを止めた。隣にあったはずの体温はもうなくて、私の隣に一人分空いたスペースはシーツがすっかり冷たくなっていた。

「うー……」

そっか、ティキ今日は仕事だって言ってたっけ。
昨日の夜、いつもみたいに身体を重ねた後、眠りに落ちるまでの僅かな時間。ティキの腕の中で微睡んでいた時に明日の朝早くから仕事だから多分起きる頃にはいないと思う、と言われた事を思い出した。一人で目を覚ますのはあまり好きじゃない。

「…のど渇いた…」

いくら寂しくても生きている以上腹は減るしノドは乾く。のろのろとベッドから立ち上がって寝巻きから着替えて顔を洗って、いつもの通り朝の身支度を整えて食堂へ向かえばロードが朝食を摂っていた。

「あ、おはよぉー」
「ん、おはよロード」

椅子に座ればすぐに運ばれてくるコーヒー。メイドアクマがいつもの通り角砂糖とミルクをコーヒーに入れて私に差し出しながら朝食は、と聞く。これだけでいい、と返せば無機質な声で返事をして踵を返す。これもいつもと変わらぬ朝の光景。ロードはロールパンを齧りながら頬杖を付いて私を見ていた。

「…?どしたの、ロード」
「ティッキー、今日はずいぶん早くから仕事なんだねえ」
「あーそうみたいね、起きたらもういなかった。」
「寂しい?」
「そりゃ、少しは」

苦笑い交じりに返事を返してコーヒーをひとくち飲んだ。ロードは歳の割に鋭くて、私の心境なんていつもお見通し。ロードにも私やティキと同じ前世の記憶があるから、私がティキにどれだけ依存しているかっていう事もちゃんと知ってる。だからこそロードは家族でもあり妹でもあり、私のよき相談相手でもある。

「そっかぁ。」
「…」
「早く帰ってくるといいねえ」
「そうだね」

ひとりでいる時間はとても長く感じるから、私は嫌い。いつだってティキが傍にいないと不安で不安でしょうがなくて、でもティキにはティキの生活があるからそんな事は言えない。忙しい仕事の合間を縫って私と過ごす時間を作ってくれる事だけでも感謝をしなければいけないのに、24時間いつだってティキと一緒にいたいと思うのは私の悪いところ。そんなところもきっとロードは見透かしているんだろうな、なんて思ってたらロードはカバンを持って席を立った。

「僕学校だからもう行くねぇ?」
「あ、うん。いってらっしゃい」
「いってきまぁーす」

ぱたん、と食堂の扉が閉まって、食堂の大きな円卓には私一人。メイドアクマはキッチンで昼食の仕込みをしているし、双子とスキンは仕事、千年公はルルを連れてブローカーのところ。つまり私はこの広い屋敷に一人きり。厳密に言えばメイドアクマも執事もいるけど、家族がいないというのはやっぱり寂しい。

「……寝よう、かな」

一人が嫌いなのはまだ眠っていた頃の記憶が抜けていないから。誰かが傍にいないと不安になるのは私がノアに目覚めて日が浅いから。一人の時はいつもいつも、自分の部屋でシーツに包まって眠って、家族の…彼の帰りを待っている。シーツに包まる私の頭を優しく撫でて、私の大好きなあの声でただいまって言ってくれるのを、ただそれだけを私は微睡みの中で待ち続けるんだ。






「お帰りなさいませ、ティキ様」
「ん、は?」
様でしたら、自室でお休みになっておられます」
「そっか。サンキュ」

自室で、って事はまたへこんでんな。いつもより少しだけ早足で愛しい彼女の部屋へ向かう。屋敷の一番奥の部屋がの部屋。その部屋のカギを持ってるのはとオレだけ。ポケットの中から合鍵を取り出してゆっくりと音を立てないようにドアノブを回す。薄暗い部屋の中に見えた天蓋越しのベッドの上には確かに人影があった。

(寂しい思いさせちまったな…)

足音を立てないように、彼女を起こさないようにゆっくりとベッドに近づく。天蓋を潜ってみればやっぱりは真っ白なシーツに包まったまま、小さな寝息を立てていた。

「………、ただいま」
「……ん……?」
「ごめんな、少し遅くなった」
「…てぃ、き……?」

さらさらと指の間から流れていくの黒い髪。擽ったそうに頭を振って、目を擦りながらオレを呼ぶ。その頬に指を滑らせればは無意識にオレの手にその小さい手を重ねた。

「うん、オレ。ただいま」
「おかえ、り…なさい……」

そのまま、は細い両腕をオレの首に掛けて擦り寄ってくる。背を支えてやればはオレの胸元に顔を埋めて、確かめるように深呼吸を繰り返す。

?」
「ティキ…わたしね、ずっと寝てたの。今まで」
「メシは?食ってねーの?」
「食べて、ない…。一人で食べる食事は嫌い。…それに、」

眠ってるとね、すごく便利。時間なんてあっという間に過ぎていくし、私は幸せな夢を見られるから。だからね、ティキがいなくても寂しくないの…ゆめのなかで、いつでもティキに逢えるから。
はそう言うと、またオレの胸元に顔を埋めた。…なあのその不安を消す為に、オレに何ができる?オレはいつだってに笑っていて欲しくて、あの頃の記憶なんて今すぐにでも忘れて欲しくて、記憶の中のあの綺麗な笑顔をまた見せて欲しいんだ。だからオレは、の不安を消す為にならなんでもするよ。

「……今のままでもいいの、ティキとまた出会えた、それだけで私は幸せだわ」
「嘘だろ。幸せって顔、してねーぞ。なあオレってそんな頼りない男か?オレは、の望む事すら叶えてやれない男に見えるのか?」
「…違う、違うのそうじゃないの。ティキにはティキの生活がある、人間としての生活がある。だからティキの負担にはなりたくない、それだけなの」
「バカ。今のオレにとって一番大事なのは人間でもノアとしての使命でもなくて、お前なんだよ。

オレらはずっと離れ離れで、オレは何度も輪廻を超えたっていうのにはどうしてだか輪廻を超えないままずっと眠ってて、7000年経った今やっと再会出来たんだ。それなのにお前以上の存在なんて有り得る訳がないだろ。

「……でも、」
「負担になんてなんねーよ。」
「…迷惑じゃ、ないの?私、ティキの重荷になってない?」
「なる訳ねぇだろ。やっと再会できたっていうのに」
「……ティキ」
「ん?」
「私、ティキがいないと駄目なの。不安で不安でしょうがなくて、何も出来なくなるの。……そんな私でも、貴方は愛してくれる?」
「当たり前。」

そう、依存する程の愛でいい。オレらは何度生まれ変わったって、オレらの中のノアが惹き合って何度だって出会うんだ。はオレに、オレはに。何度輪廻を超えたって、オレらの中のノアが目覚めないままだって本能でオレらは惹かれあうんだよ、

「…ティキ、」
「ん?」
「Fique aqui」
「…!Sim,claro.Meu namorado.」













(あなただけがわたしのすべて)






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携帯サイトさよならマーメイド夏休み企画夢
てか何が書きたかったんだろ。最初のコンセプトは眠り姫だったはずなのに書き進めるうちにどんどん話が意味不明な方向に進んでにっちもさっちも…(だめだなおまえ)