「ー!もっと右ぃー!」
「え?右?」
「ちげぇって左左!左だっつーの!」
あーガキんちょはこんな炎天下の中元気だなあ、とオレはビール片手にため息一つ。今日は家族で千年公所有のプライベートビーチに海水浴に来てる訳なんだけど、気温34℃の炎天下ではしゃぐ元気はオレにない。というのも、普段見る事が皆無に等しいの水着姿を拝めるというこの素晴らしい日を迎えるためにオレはそりゃ必死で仕事を頑張って予定を空けた訳で、昨日も礼によって午前様、明け方近くなってやっと屋敷に帰れたオレは超寝不足。ビールでも飲んでねぇとすぐにでも寝ちまいそうなそんな状況。
「こっちか、なっ!」
「ぎゃははハズレー!」
「えええ、どこよスイカぁ!」
「だから、右だってばぁー!」
ロードと双子と一緒になってスイカワリとかいう日本の遊びに興じているオレの可愛い恋人はさっきからオレなんてアウトオブ眼中。しかもオレが一番楽しみにしてた真っ黒でフリルの付いたビキニはパーカーで隠されてしまってる訳で正直オレはつまらない事この上ない。せめてオレの隣にいるのがさっきからカキゴオリとかいう日本の夏菓子を貪り食ってる甘党じゃなくて人間バージョンのルルならそれなりに楽しいのに、と思ったところでルルは千年公の膝の上、猫の姿で昼寝中。ああつまんねえ。
「おーいミミちゃん、ビールおかわりー」
「またですかあ?!ティキさまちょっと飲みすぎですよ!またさまに叱られますよ!」
「だってオレさっきから蚊帳の外じゃん、いいからおかわりー」
「だめです!冷たい物が欲しいのでしたらカキ氷お持ちしますけどビールはだめです」
「……ケチ」
そんでルルお付きアクマのミミちゃんにまで叱られた。なんかもう仕方ねぇから寝るか、とタオルを顔に被ってごろんと転がる。ミミちゃんは腰に両手を当ててよし、というとまたルルんとこに帰っちまうし、正直オレつまんねえ。ため息一つ付いて目を閉じれば潮風が気持ちよくて、ビールのおかげもあってオレは5分と経たずに意識を手放した。
「違うってぇ!、もっと前ぇ!」
「ま、前?さっき右って」
「いいから前ぇ!」
(なあロードお前もしかしてさあ)
(だってティッキーせっかく家族で海水浴なのに飲んだくれて寝てんじゃあん)
(あーやっぱり)
(きっとが水着の上にパーカー着てるからだよね。ヒヒッ)
(あー有り得る。有り得るぞあのエロ魔人なら)
(だからぁ、)
(((お仕置き決定ー!)))
「えーロード、どこまで前に進めばいいのー?」
「もーちょっとぉー!」
「行き過ぎ行き過ぎ!ちょい下がれって!」
「あー惜しいあとちょっと前ぇ!」
「こ、ここらへん?ここらへんでいいの?」
「「「そう、そこ!思いっきり!」」」
「よし……おりゃっ!」
「いってええええええ!は、え、な、何?!」
ガゴンッ、という衝撃の後に星が飛ぶ程の激痛が頭に走ってオレは飛び起きた。見回してみれば目の前にはバットを振り下ろして目隠しを取ろうとしてる。そんでその後ろには腹抱えて笑ってる双子とロード。おいお前らまさかオレをスイカワリの標的にしたんじゃねーだろうな、と思ってみたらどうやらビンゴだったらしい。
「……え?ティ、ティキ?あれ?す、すすすすいか、は?」
「……、お前、なぁ……」
目隠しを取ったは大きな目をぱちくりさせてオレを見てあたりをきょろきょろと見回した。どうやらはオレをスイカだと思って手にしていたバットを振り下ろしたらしく、本気で申し訳なさそうにおろおろとしていた。なぁ、純粋なのはいいことだしそれがお前のいい所だけどな、あいつらの言う事鵜呑みにしちゃいけねぇってオレ何度も言ったよな?
「ご、ごごごごごめん!私てっきりスイカだとばかり…!」
「痛ぇなあ、これ以上頭悪くなったらどーしてくれんのよ、ちゃん」
「う……」
「つーか何で海来てんのにそんなの着てんの。意味ねーだろ脱ぎなさい」
「や、やだよ日焼けする…っていうかティキ何脱がそうとしてんの離してよちょっと」
「ヤダ。すっげー楽しみにしてたんだもんオレ。」
「知るか!離せ酔っ払いいいいい!」
のパーカーに手を掛ければは必死で暴れて逃げようとする。何でよいいだろ別に。いつも水着姿以上に過激な姿、オレに見せてんだろお前。何を今更恥ずかしがってんの逃げんなってほら。
「いーじゃん見せてよオレ楽しみにしてたんだよのビキニ姿」
「いやだっつってんのよこの変質者!万年発情期のド変態エロ色魔ぁー!」
「えええ何それ彼氏に言う言葉か?」
「てか酒臭っ?!何真昼間から酔っ払ってんのあんたはあああ!」
「ぐはっ」
オレの腕の中で暴れていたの拳がオレの腹を直撃してオレは思わず手を緩めた。そう、それが間違い。は背後に鬼を背負わんばかりのどす黒いオーラと険しい表情でオレに向かってバットを振り上げていた。
「え、ちょ、、待てって」
「うるさい酔っ払い誰があんたなんかに水着姿見せてやるもんですかっていうかさいっそ三途の川でも見て来なさいよ片道切符でよければ発行してあげるから」
「いや、あのごめんほんと悪かったもう言わないからそのバット降ろそう?」
「いいから三途の川渡ってご先祖様に挨拶してきなさいっ!」
ぶん、と風を斬る音がして頭に激痛が走ってオレの意識は暗転。倒れてから意識を失うまでの一瞬でパーカーの裾から見えたの水着はビキニじゃなくてワンピースだった。なんで。
サニービーチにて
(ばかが一人死に掛けた。)
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ナツコさまご注文、「ノア一族で海水浴、スイカ割り中にティキの頭を殴る夢主」というリクでしたので思う存分楽しませていただきました有難うございます!
普通にギャグっぽく仕上げるつもりがどうしてうちのティキって変態になるんだろうなあ。