「く、くある、え、お、せう?」
「違ぇって、Qual e o seu nome?、クアルじゃなくてクアウ。」
「ううう、発音難しい…」

日差しが強い真夏の午後2時、オレの部屋のテラスに置いたテーブルセットに向かい合ってオレとは現在ポルトガル語、つまりオレの母国語の勉強中。学校で出された夏休みの課題の中にポルトガル語があったらしく、が分厚いテキストを持ってオレの部屋にやってきたのが朝の9時。そんで今まで、5時間かけて終わったテキストはページ数にして僅か3ページ。なあいくらなんでも飲み込み悪いと思うぞ、

「Qual e o seu nome?で あなたの名前は?」
「うん、うん」
「e Mariaはマリアです、な」
「うんうんうん」
「答えるときの“e”は“〜です”……っておいお前ちゃんと聞いてる?」
「え、あ、うん」
「あのなあ、オレ昨日も遅くまで仕事で疲れてんのに付き合ってやってんだからちゃんとやれよオレ寝るぞ」
「え、それは困るよポルトガル語判るのティキだけなんだもんごめんちゃんとやるから手伝ってー!」

はテーブルに身を乗り出して手を合わせて頭を下げる。双子は英語しか喋れねーしロードは喋れるつってもスペイン語だしスキンもアメリカ出身だから英語しか喋れねーしでポルトガル語が判るのはポルトガル出身のオレだけな訳で。千年公も確か喋れたはずだけどあの人忙しいからなあ。はオレの寝るぞという脅しにようやくペンを持ってテキストを解き始めた。

「えーっと…おんで、ぼせ…?」
「Onde voce mora、な。どこに住んでますかって意味」
「あー…じゃあ此処は“私はリスボンに住んでいます”、でいいの?」
「そうそう。」
「そっかそっか……」

は時々うなりながらテキストにペンを走らせる。オレは眠気覚ましにアイスコーヒーを飲みながらパンデーロを齧る。相変わらず日差しが弱まる気配はないけど吹き抜ける風が潮を含んでるからまあ暑さも和らぐ。夏休みだからって千年公が屋敷の場所を海辺に移しといてくれたのがよかったな。

「ねーティキこの単語なんて意味」
「ん?Guarda-chuva…ああ、傘だな」
「傘か。じゃあここは“傘を持っていませんか?”でいい?」
「そうそう。やりゃできんじゃねーか」
「なんかだんだん判ってきたーこのページ終わったら今日はおしまい!」
「ん、頑張れ」

は基礎学力はあるというか、頭はいいんだけど千年公曰く“やれば出来る子やらない子”、らしい。まあ勉強したとこでオレらにゃ無意味な訳だからやる気起きねぇのも判るけど、流石に宿題はやらないと物凄い怒られるから(前は宿題10倍とかでテキスト20冊を5日でやらされた)そこだけは要領よくやってるとこはロードもも一緒。要は普段の態度が悪くても宿題をきちんと提出してテストでそれなりの点を取っていれば問題はない、らしい。

「よっし終わりー!ティキ私にもパンデーロちょうだい」
「お、早かったな」
「うん。頑張りました」

頭を撫でてやればはへへっと笑って肩を竦める。オレの知らない幼い。あの頃はオレとの歳の差なんてなかったから、今のとこうして過ごすのはとても新鮮。たとえばあの頃の彼女とこうしていたのなら、オレは手持ち無沙汰になる事は間違いない。今のにも見え隠れする聡明なあの頃の面影はこれからだんだんハッキリとしてくるんだろうか、と考えていたらはあの頃と変わらない笑顔でオレを見つめてありがとうと口にした。







Agosto Vinte,



   Tempo fino!


         (明日もきっと晴れるよね)






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祥立きゃめさまご注文「ティキにポルトガル語を教えてもらうor内緒で勉強するギャグ甘ゆめ」という事なのですがすいませんギャグ要素があまりない…!
ええと補足します。現世でのさんは16歳、ティキとは10歳年が離れてますがあの頃つまり前世では25歳でしたのでティキとは歳の差わずか1歳。そんでティキはあの頃のさんの面影が見え隠れするようになってきた現世のさんに日に日に愛が深くなっている、というかんじの裏設定です。