私はまだまだ子供だから、貴方の言葉に一喜一憂してしまう。貴方が好きだと言ってくれる度に、貴方がキスをくれる度に、私はまた貴方を好きになって、貴方がいなければ何も出来なくなってしまう。貴方がいなければきっと私は生きていけないくらい、それくらい私は貴方が好きなのよ、ティキ。
「……はぁ」
「どーしたのぉ?そんなため息吐いてぇ」
「んー…ティキとルル姉ってお似合いだなぁーと思って」
「……あー」
千年公に連れられて出かけた、ブローカーの貴族主催の舞踏会。ノアの一族全員出席という珍しい今日の日、私は日本から持ってきた中で一番高い着物を着て、自分なりに精一杯のおしゃれをしてここにいる訳なんだけど、ティキは会場に着くなり貴族のお姉さん達に囲まれちゃって近づく事も出来なかったから、私はロードとジャスデビと4人で隅っこで談話してた。そんな私が見たのは、ルル姉と踊るティキの姿。ああやっぱりルル姉と並ぶと絵になるなあ、なんて少しだけ寂しくて悲しくて。それは私が子供だっていう自覚を持ってるから。どれだけ背伸びしたってルル姉みたいなオトナにはなれないし、ティキと私の年齢差も当然埋まらないのは判ってはいたけれど。
「……ルル姉、美人だし、背も高いし、オトナの女性って感じだし、私とは正反対っていうか、さ」
「んー…でもティッキーはといる時ほんと幸せそうだよぉ?ね?」
「いっそキショいくらいだよなあれは」
「ヒヒッ。そうだね」
「そう、かなあ」
ティキは事あるごとに私を好きだと言う。疑う訳じゃない。私を抱くその手は優しいし、その言葉もウソとは思えないけれど、私はティキの隣にいて釣り合いの取れないお子様だから、私はいつだって不安で不安で仕方がないんだ。ティキはかっこいいから、貴族のお姉さん達がほっとかないのも判るし、私の知らない「人間」としての生活の中で酒場のお姉さん達と仲良くしてるのもデビットから聞いて知ってる。だから余計に不安になるんだ。
「そうだって。第一な、ルルのいつもの態度見ててホームレスとそういう関係だと思えるか?お前」
「………思えない、けどさ」
「心配しなくたってティッキーはしか見てないよぉ」
「そんでもさーやっぱさー…」
「あーほらそんな落ち込むなってお前がそんなへこんでるとボクらまで調子狂うから!ほらケーキ食おうケーキ!旨そうなのあるぞほら!」
デビットが私の腕を引いて、ジャスデロが背中を押して。ロードは楽しそうに笑いながら着いて来る。…私は恵まれてる。こんな優しい家族がいて、あんなに素敵な恋人がいて。それでもティキに私だけを見ていて欲しいと思うのは欲張りなのかなあ。
「ほらの好きなショートケーキ!これ食って元気だせ!な!」
「……ありがと、デビ」
「ヒヒヒッ。やっぱは笑ってなきゃダメだね!」
「そうだねぇ〜」
4人でケーキを食べながら、相変わらず流れ続ける音楽に耳を傾けた。舞踏会は終わる気配もなくて、次から次へと音楽が変わって踊る人たちもくるくると入れ替わって、ホールの中は賑やかに盛り上がって。私はダンスなんて踊れない。ティキと一緒にあの場所で踊る事なんて出来やしない。ルル姉と踊るティキはかっこよくて、ティキと踊るルル姉はすっごくキレイで、私はまた少しだけ悲しくなった。
「…おいし」
「うまいなーさすが無駄に金持ってるだけあるよなあ」
「それも殆どアクマ作って稼いだ金だけどね!ヒヒッ」
「ここ最近じゃ一番の上客だって千年公言ってたよぉ」
「へぇー…成金ってやつ?」
「じゃねぇ?爵位貰ったのも最近ってハナシだぜ」
「お金で地位が買えるのね…人間社会って腐ってるわ…」
そんな気持ちを飲み込むみたいに紅茶を飲んだ。甘い香りが広がって、少しだけ落ち着いた気がした。相変わらず、うるさいくらいのオーケストラは鳴り止まない。
「ノアの姫君、私と一曲踊って頂けませんか」
「……え?私?」
「そう、貴女です。東洋の姫君、どうか私と一曲」
「あの、でも、私、踊れなくて」
ダンスホールをぼんやりと眺めながらケーキを食べていたら、知らない男性に声を掛けられた。ティキとは全然違う、金色の髪に青い目の、見るからに貴族って感じの…あまり好きじゃないタイプの人。助けて、と3人を見ればなにやら耳打ちしあってて、どうも助けてくれるような雰囲気ではないらしい。ああ困った、私はダンスの心得なんてないというのに。
「私がリードしますよ、姫。」
「で、でででででも、あの、ほんとに私踊れないんです、それに、」
「大丈夫、私に任せて頂ければ」
(、踊ってきなよぉ)
(ろ…っロード?!何言うの無理よ無理!踊れないの!)
(ティッキー、ヤキモチ妬いてくれんじゃないのぉ?)
(……う)
(の気持ち、わかってもらわないとぉ)
(……そ、そうだね…)
(いってらっしゃぁい)
「……判りました…一曲お相手願えますか」
「ええ、もちろん。…さ、お手をどうぞ、姫君」
本当は人間に触られるのも嫌だけど、ティキが少しでも私の気持ちを判ってくれるなら別にいいかって軽い気持ちでダンスの誘いを受けた。ロードとジャスデビは楽しそうな笑顔で私を見送る。手を引かれるまま着いたのはホールの中央で、周囲の視線は私達に集中。あぁ、そんなに見ないで下さいよ私本当に踊るの下手なんです、とか頭に浮かぶのはそんな事ばっかりで、ティキの視線には気付かないまま、次の曲が流れ出して私はリードされるままステップを踏み始めた。
「…おーおー。見ろよあれ、ホームレス」
「睨んでるねぇー」
「ヒヒッ。そんな嫌なら傍離れなきゃいいのにねぇ」
「ほんとだよなー」
「あ、近づいた近づいた」
「予想通りだねぇー」
「だなー」
と、そんなジャスデビ達の会話にも、背後から近づくティキにも気付かないくらい、私は必死だった。ダンスらしいダンスは今日が始めてで、ステップなんてうまく踏めなくて、何度も転びそうになって、それでもリードに着いてって、周りを見る余裕なんてなかった。日舞の経験しかない私には西洋のダンスは向いてない。
「……失礼。姫君を返して頂きたい」
「……ティキ」
「今は私と踊っているんだが」
「、おいで。」
後ろから羽交い絞めにされたと思ったら、鼻を掠めたのは嗅ぎ慣れたティキのコロンの香り。一緒に踊っていた彼に向けられたティキの声は少しだけ怒ってて、有無を言わさないようなティキの強い声に私は彼の手を離れてティキの手を取った。
「…彼女はオレの姫君でね。申し訳ないが返して頂くよ」
言うが早いか、私の身体が宙に浮く。ティキに抱えられた、と気付くまで3秒。こんな公衆の面前で姫抱っこなんて恥ずかしいからやめてと言いたかったけど、周りの視線に耐え切れず私は俯いた。ああ本当に恥ずかしい。
「……で、何であんな男と踊ってたんだ?」
ティキに連れられて出たテラスのベンチ、俯いたままの私と目の前に立つティキ。ティキの声は少しだけ怒ってて、私は黙り込んだまま着物を握り締めた。
「…、怒らないから、言って」
「………ティキがルル姉と踊ってたの、見た。」
「うん」
「ティキとルル姉、お似合いだなって思って、悔しかった」
「……なんで?」
ティキは私の前に跪いて、私の手を包む。耳に届く声にはもう怒りの色はなくて、優しく諭すような声色で、ああいつものティキだと安心した。ティキは大きな手で私の手を撫でて、黙って私の話を聞いてくれる。ああ、私は莫迦だ。彼はこんなにも優しくて、こんなにも私を愛してくれているというのに、下らない嫉妬で彼を困らせて、怒らせて。
「私はこどもだから、ルル姉みたいなおとなの女の人のほうがティキには似合うよ、ね、って…思って」
「…オレはしか見てないよ」
「だから、少しだけやきもち、妬かせたかったの……ごめんなさい、ティキ」
「……そっか」
「…うん」
「ルルと一緒にいたのは…うざったい女を避ける為。に迷惑かけたくねぇし、ルルも同じ意見だったから一緒にいた、そんだけ。な?」
「うん、うん…っ」
「オレが隣にいて欲しいって思う女はだけだよ。」
「ティキ……っ」
「不安ならいつだって傍にいてやるし、何度だって愛してるって言ってあげる。だからオレ以外の男のとこになんて行かないで」
月明かりの下で
(私はまた貴方に恋してく)
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ノゾミさまよりリクエストいただきました!
いつになくかっこいいティキが書けて満足ですv