「私、ティキに愛されてないような気がするの。」

思えばこれが悲劇の始まりだったのかもしれない。今ボクらの前でグラスに目を落としながら無表情でぽつりと呟いたのはボクらの家族のってヤツ。そんでまあこのセリフから判るとおり、あの学ナシホームレスの女。ああまたいつものノロケかよやめてくれ、なんて思ってたらはボクらを一瞥してグラスを勢いよくテーブルに置いた。

「おかしいよね?私っていう恋人がいるのになんであいつは娼館になんて行く訳?そりゃティキだって男だし我慢できない事だってあるでしょうよ。私最近仕事続きだったししょうがないとは思うわよ?でもねなんで私には花の一輪もくれないくせに娼館の女には指輪とかネックレスとか貢いでんの?ねえどう思う?」

ああやばい。こいつめちゃくちゃ酔ってる。目が据わってるのが何よりの証拠だ。要するにボクらは学ナシホームレスに構ってもらえないの腹いせに酒盛りにつき合わされてる訳。つってもボクらは酒なんて飲めねーからジュース片手だけど。

「ど、どうって…なあ?」
「……デロ達に聞かれても…」
「ティッキーばかだからしょうがないよぉ、

冷や汗を流すボクらと対照的にロードは楽しそうだった。お前がそういう表情する時って絶対何かたくらんでる時だよな、って呟いたらロードは満面の笑みでわかってるじゃぁん、なんて言った。マジでとホームレスの痴話喧嘩には巻き込まれたくないんだけど、ボク。

「そうね確かにばかよねあいつは。私にバレてないと思ってんのよあいつ。毎晩香水の匂いぷんぷんさせながら帰ってきといてさ、平気で私の部屋来るとかありえなくない?ねえ」
「そうだねえ、サイテーだよねえ」
「でしょう?!ねえロード、どうしたらいいと思う?釘バットでサンドバッグ?それとも吊るし上げてムチで百叩き?それとも3日くらいアイアンメイデンに入ってもらおうか?ねえどれがいいと思う?」
「んー僕としてはサンドバッグが見てみたいかなぁ」

待って。何フツーに怖い会話してんのこいつら。女って怖ェ。

「ま、待て待て待て!」
「何よデビ」
「あ、あのさほら、ホームレスが浮気すんのが嫌なんだろ?は」
「そうよ?それが何か?」
「だ、だったらもすりゃいいじゃん、浮気。そしたらホームレスも少しは懲りるんじゃねえ?」

苦し紛れのボクの提案には目を見開いてボクを見た。何、何か変な事言った?言ってねぇよなボク間違った事言ってねぇよ。

「それだわ!それよデビ!」
「え、マジ?」
「ティキは私がどんな思いしてるか知らないから浮気なんて出来るのよね、そうよ私もすりゃいいんじゃない浮気。ナイスよデビット」
「……浮気つっても誰とすんの。ボクらはやだぞ、ホームレス怒ると怖ぇし」
「安心して。大丈夫よアテはあるわ」
「アテって」

まさか、と思った時にはもう遅かった。ボクの提案にノリノリのはにっこりと満面の黒い笑みでボクら3人を一瞥した後、グラスに残った酒を飲み干して言った。

「エクソシストv」
「「「はぁ?!」」」

「って訳でちょっと出かけてくるわねティキが帰ってきたら適当にごまかしといてねーv」

ちょっと待てー!
それは流石にマズいと思って叫んだけどは思い立ったら即行動、がモットー。はボクが手を伸ばす前に窓から飛び降りて庭を全力疾走で駆け抜けてった。





「さてさてエクソシスト君達はどこの宿屋にいるのかしらぁ」

アクマからの情報を頼りに着いたのは大きな港町。数日前からエクソシストが3人滞在してて、イノセンスがあるって可能性も視野に入れてアクマ達に偵察させてたとこだったから丁度よかった。

様、エクソシストを探してどうなさるおつもりですか」
「ん?いいのよお前達は知らなくて。どこの宿屋だか情報はあるの?」
「はい、この大通りの突き当たりにあるこの町一番の宿屋の最上階に滞在している模様です」
「そ、ありがと。今回は手出ししないでね。私の私情だからさ」
「はい、畏まりました。」

アクマ達のまとめ役のレベル3から居場所を聞き出して、手を出すなって釘を刺したら後は乗り込むだけ。今回は戦闘しないつもり。イノセンスって面倒だし嫌いだし、何よりストレスが溜まりすぎてて能力を制御する自信もないし。こんな町一つ消えたってどってことないけど、千年公のシナリオが狂っちゃうとまずいし、ね。


* * *


「あー!アレンてめ、それオレのっ!」
「早く食べないラビが悪いんですよ。ほらラビの番ですとっととカード引いてくださいよ」
「団子の一つや二つでうるせぇな。後がつかえてんだから早く引けよ」

お気楽だわねぇ、っていうのが第一印象。いくら気配を消してるとはいえ、テラスにいる私にも気付かないなんて。部屋の中にはエクソシストが3人、カードゲームの真っ最中。団欒中なら丁度いいかな。

「お邪魔しまーす。こんばんわエクソシスト諸君」

「……!ノ、ノア?!」
「やだ別に戦いに来たんじゃないわよちょっと武器収めてくんないかなあ。ほらちゃんと手土産もあるんだし」

部屋に入った瞬間、3人はイノセンスを発動させて私に向けた。あ、そうか黒いままだった、と気付いて白に戻る。持ってた手土産を差し出したら、疑いながらも武器を収めてくれた。…パッツンだけは収めてくれなかったけど。

「……で、戦いに来たんじゃないならノアが一体何の用ですか」
「んー家出?かなあ」
「家出ぇ?」
「そ。まあ話すと長くなるんだけどね、あ、それ食べてよ別に毒とか入ってないからさ」

手土産を指差したら白髪が疑いながら包みを開けた。それ超高級店のケーキなんだけどな一応。毒盛るなんて姑息なまねはしないわよ。

「……ケーキ?」
「うん。ほらそこの大通りのドルチェって店の」
「あのバカ高い店さ?」
「そ。いきなりお邪魔しちゃったからこんぐらいしないと」
「…意外に良識ありますね」
「えええ、意外っての余計じゃない?ねえ」
「普通敵が乗り込んできたら疑うだろ」

パッツンはまだ私を疑ってるらしい。赤毛と白髪はまあ少しは信じてくれたかな?って感じ。とりあえずは戦闘回避成功、かな。

「…で、ノアのお嬢さん?」
「その呼び方やめて。私にはっていう名前があるの」
「んじゃ、なんで家出なんてしてきたんさ?」
「んーまあ浮気されたから、とでも言いますか」
「浮気、ですか」

「そ。最近忙しくてすれ違いばっかでね。まああいつだって男だし溜まるのもわかるんだけどね、いくらなんでも娼館の女に行かれたら、ね。」

「娼館って…そりゃまた悲惨な」
「でしょ?ありえなくない?」
「……で、テメェはどうしたいんだよ」
「どうって…」
「ユウはだめだなー。女心がわかってねぇさ」
「そうですよ。浮気なんてされたら悲しむものですよ、女性は」
「……テメェらな」

パッツンはどうも恋愛方面には疎いらしい。赤毛は見たまんま遊んでそうだし白髪はなんか落ち着いてて紳士っぽいしでまあ理解してくれてるみたいだけど。

「心配してくれるかなー?ってのが本音かなあ」
「心配ねえ」
「帰ってきて私がいなくて心配もされなかったらアウトかなって思ってる」
「……まあ間違いではないですよね」
「家族には一応言ってあるんだけどね、問題はアイツが追いかけてきてくれるかどうかって話d「!」…………あ、」

そんなこんなでケーキをつまみながらグチってたら、窓から聞きなれた叫び声。窓に目を向けたら汗だくで息を切らせたティキがいた。しかもなんか怒ってる。

「おま、えな…っ」
「何よ浮気者。とっととあの女のとこ行けば。ばか」
「誰がいつ浮気したっつーんだよあの女はブローカーだっつーのにお前が話聞かなかったんだろ!よりによってエクソシストのとこなんて行きやがってしかもお前デビットになんて言い残して屋敷出やがった?!」
「えーだってお互い様じゃない。ティキが浮気すんなら私だってするわよ、バカったれ」

「え、ちょぉ待って浮気って何の話?」

「あーごめんねぇ言葉のアヤってやつ。本気じゃないから安心して。」
「当然だろエクソシストとなんて浮気しやがったらオレマジで怒るぞ」
「だーかーらー。冗談だっつってんの。」

「…要は僕達当て馬ですか」

「やだ人聞き悪いよそれ。別にそうじゃないってば」
、帰るぞ」
「えええちょっと待ってよまだケーキ残ってr「いいから帰るぞ」……はーい。ごめんねーお邪魔しましたあ」

「とっとと帰れ。」

「はいはい。じゃねー赤毛に白髪にパッツンー」

「え、ちょぉ待て何さその呼び方!」
「そうですよ僕らにだって名前はあるんですよ?!」
「誰がパッツンだ!」

ティキに抱えられて有無を言わさず連れ戻される私の後ろから聞こえてくるのは3人の怒鳴り声。なんか名前を言ってたっぽいけど風の音にかき消されて聞こえなかった。ごめん、せっかくグチ聞いてくれたのに。




「…ティキ、下ろしてくんない?」
「嫌だ」
「何で」
「逃げるだろ、お前」
「そうね、逃げるわね間違いなく」
「だから離さねえ」

方舟の中、一人で歩けるというのにティキは相変わらず私を姫抱きにしたまま無言で歩く。声を掛けても帰ってくるのは単語ばっかりで、ああティキ怒ってるなあ、って思った。でも私は悪くない。悪いのは誤解されるような事をしたティキの方だ。

「……ねぇティキ、ほんとに浮気してなかったの?」
「だからあいつはブローカーだって言ったろ。してねぇよ」
「ほんとに?」
「嘘だと思うなら千年公に聞いてみな」
「……わかった、信じるよ」
「それよりな、
「え?」

「オレ以外の男んとこ行こうなんて考えんな。はオレの女だろーが」

「………うん」

ティキはそう言いながらキスをくれた。今回ばかりは私の負けらしい。勝手な思い込みでティキの想いを疑って心配させて、仕事で疲れてるのに更に疲れさせるようなばかな事してごめんなさい、ティキ。









方と愛遊戯

(いつも私が負けるのはきっと貴方に溺れきっているからで、)









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芽衣さまよりリクエストいただきました!
夢主がティキにやきもち妬かせようと奮闘。ギャグ含め最後は甘く、というリクエストだったんですがやきもち通り越してるような気がしないでもありません(汗)
イマイチリクに添えてるか微妙な仕上がりになってしまいましたが、芽衣さまこんなもので宜しければ受け取ってやって下さいませ。
リクエスト有難う御座いました!