「ねー知ってる?保健室のミック先生って素顔めちゃくちゃかっこいいらしいよ」

そんな噂を耳にしたのは5月の半ば、そろそろ新しいクラスにも馴染んで来たかな?って頃だった。最近妙にクラスの女子達が保健室に行く機会が増えたなぁと疑問に思ってはいたけども、まさかその理由が4月から新しく赴任してきた保険医のミック先生の素顔がめちゃくちゃかっこいいからだったとは。確かにミック先生といえば頭はいつも寝癖で今時どこで売ってんの?って聞きたくなるようなビン底メガネで、白衣もよれよれ、スーツもなんだか皺だらけでお世辞にもカッコイイとは言えないような外見の人。それがどこで誰が見たんだか、そのメガネの下の素顔はベッカムもびっくりの超イケメン、というのがクラスメイトの弁。

「あーそんで女子達最近よく保健室行ってんか」
「みたいだねぇ」
は行かねぇんさ?」
「んーっていうかそういう女子と同一視されたくないってのが本音。私一応保健委員だし」
「あーなるほど。」

実際の所気になってはいる。というよりもあんなダサいミック先生の素顔がカッコイイなんてある意味学校の七不思議、というのが男子の弁なので、私はどちらかといえば男子寄りの興味をミック先生に対して抱いてはいる。別にいい子ぶる気もないけど、やっぱり外見に群がる女子と同一視はされたくない。男は見た目じゃなくて中身で選ぶもんじゃないのか。

「でも気になりません?」
「私としてはその大量の食料がその細っこい体のどこに消えてくかのほうが気になるんだけどな、アレン」
「え?」
「あーそれはオレも思ってた。お前すっげー食う割に細いさな?」
「モヤシだからな」
「モヤシじゃありません!」

今日も今日とて昼休みになった途端女子達は保健室へ直行、私はいつもつるんでる3人組、アレンとラビと神田と一緒に屋上でご飯中。女子はみーんな保健室。お蔭で委員会の仕事もここ最近回ってこないから平和といえば平和な訳なんだけども。

「つーかね神田も弁当に蕎麦ってどうかと思うよ何その水筒もしかして中身めんつゆ?ねえ」
「うるせぇ黙れお前こそもうちょっと女らしい弁当でも持ってきたらどうだ握り飯6つっておかしいだろ」
「え、何よおにぎりバカにするとバチが当たるよ神田」
「違ぇよ食う量がおかしいつってんだ馬鹿」
「うわバカにバカって言われた!私傷つくわ!」
「誰が馬鹿だ!」
「あーもうユウもも静かに食うさー」

ミック先生は今頃保健室で女子に囲まれててんやわんやだろうなあ、今日も委員会の仕事はなさそうだから早く帰れそうだなー、なんて事を考えてたら耳に入ってきたのは放送のチャイムだった。

「え、こんな時間に放送って珍しくない?」
「そーさな」

『えー3年D組の君、大至急保健室へ行ってくださーい。もう一度繰り返しまーす、3年D組の君、大至急保健室へ行ってくださーい。行かないとコムリンに迎えに行かせまーす』

「え、私かよコムイ先生何考えてんのあの人私近づきたくないって言ったのに」
「ほらとっとと行けよ馬鹿女」
「はぁああ?!何こいつまじでムカつくんですけどちょっと!」
「あーもういいからさっさと行くさ!コムリン来たらどうすんだ!」

それは流石にお断りだ。ラビに背中を押されるまま、食べかけのおにぎりを持って私は保健室まで走った。コムイ先生の言う大至急は3分以内、つまりそれまでに保健室へ着けなかったら学校中をコムリンが徘徊してまた大惨事が起こる。それだけはゴメンだとばかり、必死で全力疾走した。



「…失礼しまーす…3年D組のでー…す」

保健室の中からは相変わらず女子達のうるさいくらいの悲鳴。マジでこの中入るのか耐えられないよ私大丈夫かな、なんて思っては見たもののコムリンの恐怖には変えられない。恐る恐るドアを開ければやっぱりミック先生は女子生徒に囲まれてメガネを必死で守ってた。ああなんかめまいしてきた。

「あ、来た来た。ごめんね委員会の仕事があるからまたおいで」
「…はぁーい」

女子達は明らかに不満そうな声を漏らした上私を睨みつけて保健室から出て行った。何だっつーんだよ放送で呼び出されたから来ただけだっつーのふざけんなマジでシバき倒したろかこいつら、とか思ってたらミック先生が私を呼んだ。

「えーっとさんだっけ。下の名前なんていうの?」
「え、ですけど。っていうか何ですか、委員会の仕事ですか?」
ちゃんね、仕事っていうかプリントの仕分け手伝ってくんね?オレ一人だと大変でさー」

えええいきなり名前で呼びましたよこの先生。ってか仕分けってそれ別に私じゃなくてもよくね?おなかすいてんだよ私は。今昼休みでお弁当の時間なんですけどミック先生判ってますか。

「…ちゃん可愛い顔して言う事キツいなー」
「え、声に出てました?!」
「思いっきり。弁当食いながらでもいいからさ、これとこれ仕分けしてくんない?」
「……はぁ。判りました」

保健室の大きな丸テーブルにミック先生と向かい合って座る。真ん中にはプリントの山。どんだけあんだよ全校生徒分か。さすがマンモス校だなうちの学校。これ軽く5000枚あるんすけど気のせいですかそうですか。ぶっちゃけた話やりたくない訳なんだけどコムイ先生から呼び出された上委員会の仕事とあっては手は抜けない。ほんとめんどくさい。なんで委員会なんか引き受けたんだろ私。

「…なあそのおにぎりお弁当?」
「そーですよ。最高級コシヒカリで握った特製バクダンニギリです」
「へー…なぁ一個くんね?腹減っちゃって」
「何でですか机の上に弁当山積みですよそっち食べればいいじゃないですか」
「いやー何入ってるか判んねぇもんあれ」
「あー確かに……おひとつどーぞ」
「ん、サンキュ」

プリント仕分けしながらおにぎり齧ってるって私女子高生として終わってるよなあ、なんて思ってたらミック先生が持ってたおにぎりはもうなくなってた。あんだけデカいおにぎりを一瞬で食べるって。

「旨いなー中身焼肉?これ」
「あー多分カルビ焼きですね、おかずも一緒に握ってるんですよ」
「へー。ってか何、弁当自分で作ってんの?」
「私一人暮らしなんで…自分で作るしかないっていうか」
「ああそうなんだ。」

当たり障りの無い会話をしながら仕分け作業を進めてたら昼休み終了のチャイムが鳴った。まじかまだ半分以上残ってんだけどこれまさか放課後残ってやれとかいわないよね?今日はラビに最近出来たケーキバイキング奢らせようってさっきアレンと言ってたんだもん絶対居残りなんてしないからね、と思ったらミック先生が椅子から立ち上がった。何処行くのこのひと。

「なぁちゃん午後の授業何?」
「え?歴史と数学ですけど」
「って事はクロウリー先生とリーバー先生か。」
「え?ちょっとミック先生何してんですか」

「あ、保健室のミックですけど。クロウリー先生とリーバー先生にD組のさんオレの手伝いしてるから午後の授業欠席って伝えといてくれますか……ええ、委員会の仕事で。はい。お願いします」

「ええええええミック先生マジで何言ってんですか?!」
「いや放課後残るの嫌っしょ」
「そりゃ嫌ですけど何も午後の授業欠席しなくても明日でいいじゃないですか明日で」
「まぁまぁ。いーじゃんちゃんと出席扱いになるんだし」

ミック先生は私の言い分を華麗に受け流してまたプリントの仕分け作業を始めた。そりゃ午後の授業サボっても出席扱いになるならいいけど、その分教室帰ってから怖いんだ。女子が。ミック先生絶対そのことわかってない気がする。

「まぁぶっちゃけた話、オレがちゃんと話したいってだけなんだけど」
「は?」
「いや、だからちゃんと話したいなーって」
「何でですか」
「だってちゃんオレが赴任してきてから一回も保健室来てないっしょ」
「そりゃそうですけど、何でですか」
「あーもう鈍いなぁ」
「だから何がですか!」
「だからね、始業式ん時から気になってたーって言ってんの、オレ」
「…………は?」

「あれれ、まだ判んねぇ?オレ、ちゃんのこと好きだって言ったんだけど」

「……えええええええええ?!え、ちょ、はい?!」

何言い出すんですかこのひと。好き?ミック先生が私を?何ですかエイプリルフールとっくに過ぎましたよ冗談は程ほどにして下さいよだいたい貴方いくつですか女子高生に惚れるってロリコンですかペドですか?

「その反応いいなー」
「え、また声に出て…!っていうかミック先生マジですか?!」
「うん、大マジ」
「えええええ何で私なんですか寄って来る女の子よりどりみどりでしょーに!」
「いやーオレどうもあーいう子って苦手でさー。」

ミック先生はへらへら笑ってる。てんぱってる私とは全く正反対だ。空調が効いてるこの部屋が暑いって思うあたりきっと私は顔まで真っ赤で、ミック先生は私を見たままつかめない笑顔を浮かべていた。マジで夢だと思いたい。

「に、苦手って……!」
「チャラい子嫌いなんだよね、オレ。ちゃんさ、始業式ん時赤毛の男子とふざけててコムイ先生に怒られてたろ」
「……ラビと…ああ、コブラツイストかけてた時?ってか、そんなとこまで見てたんですかミック先生…!」
「いや、面白い子だなーって思って。」

始業式で全校生徒いるって場で男子にコブラツイストかけてる女子なんて見たことなかったし。だから印象に残っててさ。んでまあ、目で追うようになってさ、そしたらちゃん、ホウキでポニテとチャンバラしたり赤毛に飛び蹴りしたり白髪と腕相撲したりしてんだもん、気になっちゃって気になっちゃって。んでまあ、気付いたら惚れてた、って訳なんだけどさ。

「ミック先生余計なトコまで見すぎです……!」
「元気でいいなーって。なぁどーよ?オレと付き合ってみない?」
「どーよ、って言われても…女子達にバレたら怖いし何より学校にバレたらミック先生クビですよ判ってます?」
「障害あったほうが燃えねぇ?」
「いやそういう問題でもないんですけど……」
「あ、言っとくけどオッケーって言うまで帰さねーぞ」
「ええええええ?!ちょ、そういうの職権乱用って言うんですよ?!判ってます?!」
「判ってんよ?だってオレ本気だもん」

だもん、じゃねぇよ。とか思ってたらミック先生がメガネを外した。……初めて見たけど噂どおり確かに素顔はヤバイカッコイイ。それは認める。だからって、だからってオッケーしちゃったら後が怖い訳で……!

「え、ちょ、何メガネ外してんすかミック先生」
「ん?いや別に意味はねぇよ?深い意味は、ね」
「笑顔が黒いーーーー!」

「なぁ、悪い様にはしねぇからさ、オレと付き合ってよ。

「…っミックせんs「ティキ」…え?」
「ティキって呼べ。先生とか言うな」
「………テ、ティ、キ?」
「そ。いい子だな、

「メガネ外したら性格変わってませんかあなたー!!!!」

「変わってねーよ。こっちがほんとのオレ。…なぁ、返事は?」

ミックせんs…じゃなかったティキの顔が近づいてくる。マジで心臓に悪いんで離れてくれませんかねぇちょっと聞く耳持たずですか貴方。ってかこのまま行くとマジで私ファーストキスの危機なんですけどね誰か助けてくれませんかマジで…!

「……っ!」
「沈黙は肯定と取るぞ?」
「ティ……っ」
「なぁ、キスしていい?」

ティキの指が唇をなぞる。マジで心臓破裂寸前、何でこの人メガネ外した途端こんな鬼畜なんだろうとか声エロいよとか、ファーストキスの危機だというのに頭に浮かぶのはどうしてこうどうでもいいことばっかりなんだろう。

「……ッん…ぅ、」
「柔らけー…な、も一回していい?」
「聞かな…で、下さいよ…ッ」
「んじゃ、返事はオッケーって事で」

何でこうなってしまったんだろう、って考えてももう後の祭り。私はどうやら目の前にいるこの男に一瞬で堕ちてしまったらしい。生徒と教師の禁断の恋、なんて漫画の中でだけの出来事だと思ってたのに。

「っは……」
「慣れてねぇな…もしかして初めてだったりとか?」
「…っそーですよそれがどうかしましたか、」
「マジか。じゃあこれからオレ好みにみっちり仕込んでやんねぇとな」
「さりげなく怖い事言わないで下さいよ!」

恋というものは本当に何の前触れもなく訪れて堕ちる物らしいという事だけはよく判った。兎に角、私の目の前にいる白衣の悪魔はその後も私を離さないまま何度も何度もキスをした。本気で腰が砕けて立てなくなって結局ティキに車で家まで送られたなんて事はラビ達には絶対言えない。






私がちた時

(ありえないと思ってたのにどうしてどうして)









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ユイコさまよりリクエストいただきました!
学パロで保健室の先生だったらよいなあ、というリクを頂いて精一杯頑張って見ました。
後日談とか書いていいですかね…この後の教団ティーンズとちゃんの絡みとか書きたいんですが(お前)
何にせよ、学生時代というのがかれこれ6年前なので色々試行錯誤した結果ただのロリコンティキになってしまって申し訳ありませんでしたorz
こんなものでよろしければ貰ってやってくださーい!